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蝶々結び

不束者の眠りから覚めて、見渡せば世界は砂場だった。点々ときらめくものもおそらくは月の光が単に地面の砂に乱反射したものだろう。花束を見つけたかった。いつか、私の腕の中で眠った花束。花は枯れる。愚かな私の手によって。手に触れたものは、いつもそうやって壊してきた。
春は好きだった。春が来たら、また花が咲くから。春は嫌いだった。また、私の手で壊すものを増やす季節だから。なんにせよ、私が間違わなければいいだけのことなのだ。
それなのに、そんなことずっとわかっているのに、大切なものをひとつ残らず大切にするために、裏切ってしまったものがたくさんありすぎてしまった。そんなの美しくもなんともない。朽ち果てて骸骨になってそこに一匹蝶がとまるなら、優しく掬ってどこか遠くへ飛ばしてあげたい。

吐き気がしても、この業から目をそらさないべきだ。ちゃんと苦しんで、大人になるべきだ。何度苦しんでもまだ汚れたままでも、それでも。それなのに私は今も目を逸らすように東屋を飾る藤棚を美しいと称してしまう。今日眠れるならば、と痛みの一つを数えずに目を瞑ってしまう。そんなんじゃだめだと、何度思っても。ひとつひとつ清算すれば許される傷も多くはないんだ。今までのものだって、もちろん。何度挑戦しても何度も間違う世界にいても、それでもより多くのものを大切にすることを諦めたくはないんだよ。行かなきゃ、この道が、美しいものに続いているうちに。


それほどに、大切な人が本当はたくさんいたのだから。

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