青いみかん
夏休み期間中に学童(放課後児童健全育成事業)の仕事をしていた。
私は小学3年男子と4年生の男子、女子の部屋の担当で、大体25人くらいの見守りを行う。
多くの子どもは朝は8時前後から預けられ持参したお弁当をとって、午後2時くらいから順番に保護者が迎えに来て帰って行く。
ある日のこと、昼食をとり始めて10分ほど経った頃、長机で食べていた4年生の女の子、Yちゃんがくるっと後ろを向き直り、小さな白いプラスチック容器の中身を私に見せてこう言った。
「先生、このみかん残していい?このみかんは青くてまともじゃない。Y(自分の名前)はこんなの食べたくないから!」
まともじゃない??
「Yちゃん、これさ、これから黄色くなるの。青いのは今の時季しか食べられないよ。ちょっとすっぱくて爽やかだから食べてみたらいいのに」
私が返すと
「いい!」と言ってぱちんと蓋を閉めた・・・。
どうしてそんな事を私にわざわざ言ったのだろう。
別に言わなくてもいいよ。
残して持ち帰ることに許可は要らないし、学校給食でもアレルギーの観点から無理に食べるようには指導されていないはずなのに。
ぼんやりと考えるうちに、青いみかんについて思い出した。
中学生の時、親友が「まだ青いころのみかんが好きなんだ」
と言っていたのを聞いて、みかんの色なんて気にしたことがなかったなと思った。
我が家では青いみかんをわざわざ買って食べる習慣がなかったので、新鮮だった。
それから毎年買うようになって数十年。
彼女はもうこの世からいなくなってしまい、あのみかんも食べることができなくなった。
「私より長く生きてね」と子どもの頃から言ってあったのに、約束を守ってくれないなんて。
ひどい。
こんなにも早く、病気でいなくなるとは思ってもみなかった。
治るだろうと信じていた。
「良くなるのを祈っていてね」と送られたメッセージを最後に、ずっと待ってはいてもこちらからは連絡をとらずにいた。
お葬式で他の友人たちはLINEで返事が来ないとしても既読がつくと、「ああ、まだ生きてる」と感じながら過ごしていたのだと言う。
「彼女はね、いつも『由美子、由美子』と言っていたよ。あなたにはつらいところ、見せたくなかったんだと思う」と言われた。
何それ?
意味がわからない。
つらいところを見せられなくて友達といえるだろうか?
私はいつも泣きついていたというのに。
でも、ほんとにそうかな。
彼女のご主人から葬儀の連絡があった日からずっと、何の挨拶もなく逝ってしまったことへの怒りの感情を持ち続けてきて、おかげで泣くこともなかったけれど、40代でこの世を去るつらさを私が一番わかってあげられなかったのかもしれない。
もう死んじゃうかもしれないって、どうゆう気持ちなんだろ。
大切な家族や友達に弱ってゆく自分を理解してそばにいてほしいのか、隠したいものか。
やっぱり考えてもわからない。
性格が違うし。
私だったら死をもっと軽く捉えてるかも。
ただの肉体の終了と。
もういい加減この堂々巡りとはさよならしよう。
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