まぼろしの市街戦

戦争は狂気の沙汰

 フランスに進軍したドイツ軍に、イギリスの伝書鳩担当兵がなんでか差し向けられる。ドイツ軍が配備した爆薬の処理が任務だが、鳩兵は精神病院に迷い込み、なんでか馴染んでしまう。

 今ウクライナで戦争をしているのをニュースで見ていて、実際の戦場がどんななのか、まったく分からなくなった。戦時中が舞台の小説を読んだり、戦争中に子どもだった人の話を聞いたりすると、焼夷弾が目の前に落ちて、ちょっとずれてれば死んでたという感じで、戦争中というのは爆弾が飛び交ってるのかと思ってた。でも少し考えれば分かることだが、そんなにたて続けに爆弾を撃ち続けては、砲弾が枯渇する。戦時中とはいえ四六時中、爆弾が破裂していたわけではなかったのだ。

 この作品は、戦争中のフランスを舞台にしているが、砲撃されるシーンはあまりない。みんなが疎開しているせいか、むしろ静寂でさえある。そこに送り込まれたスコットランドの伝書鳩兵が、精神病者たちと交流する。精神病者たちは、時局にそぐわない恰好、ふるまいをして、サーカスの一団を思わせる。シェークスピアのフール同様、狂気が世の正常とされるものを、ゼロから考え直させる。

 作品の最後は、ドイツ軍とイギリス軍の小部隊が正面衝突して、両軍とも全滅する。精神病患者たちは病院に戻り、鳩兵士もその中に加わり、一緒にトランプで遊ぶ。

 自分は異常でないと思っているが、本当にまともなのか。精神病者と兵士と、どっちがまともなのか。戦争を主導する人、それに唯々諾々と従う人、それを漫然と見過ごす人、みんなおかしい。そんな状況になってしまったら、戦争に反対するには、精神病者を装うしかないのかもしれない。そんなことになる前に、なんとかしなければならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?