ゆめ
わたしは目覚まし時計は持っていない。嫌いだ。というかそもそも朝が苦手でもっと言うと起こして欲しいと頼んだ相手に起こしてもらった挙句ブチ切れるぐらいに寝起きの機嫌が最悪だ。朝は大嫌いだ。なので比較的優しめに起こしてくれる(?)iPhoneのアラームで何回かに分けて起きる。毎朝のかなり嫌な瞬間…未だに慣れない。きっと慣れることは一生ない。
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ある日の朝、明らかにアラームではない音が部屋中に響いた。寝ぼけ眼でiPhoneを凝視する。それはTwitterで知り合ったフォロワーからの着信音だった。
え…
いつもなら通話なんて嫌がるタイプじゃん。何かあった??どうした…??
不思議に思って出てみる。そこには首にロープを巻き付けて青白くなった顔の彼が映像として出てきた。
一瞬で状況を悟る。あぁ、そうか……………
「久しぶり。びっくりさせてごめんね。」
というか初めて顔を見たよ。でも不思議と懐かしさしかない。
「とうとう決めたのね。」
「うん、今回は大丈夫そう。会いに来ちゃった。」
こんな状況でなんだが照れくさそうに答える彼がちょっとだけ可愛く思えた。
「一緒に行く??」
……少し考え、答えた。
「もうちょっとしたら私も行くから先に行って待っててよ。」
彼もきっとそう返ってくると分かってたであろう穏やかな表情を浮かべる。
「とりあえず今のところは何年先になるか、分からないけど待ってて。そのときはたくさん飲もう。あれ?お酒持ち込み大丈夫なのかな?」
「……分かった、らしいね。」
とてもとても穏やかな優しい笑顔でわたしを見る。
ふわり
ふわり
ふわり
首にかかったロープがほどけていく。
「最後に会えてうれしかったよ。」
「わたしこそ会いに来てくれてありがとう。」
「それじゃいくね。」
「うん。」
「さよなら。」
「さよなら。」
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ここでハッと我に返った。慌てて掴んだiPhoneに涙でぐちゃぐちゃになった顔が映った。彼は何度かの自殺未遂の末に、とうとう今回は失敗せずに逝けそうだった。その前にわたしに会いに来てくれたらしい。
LINEを見返してもそのようなやりとりはない。安堵する。でもなんだか現実のような気がしてしばらく呆然としていた。本人に連絡しようか迷った。でもどうせ困惑させるだけだろうからやめた。
でも悲しくて寂しくてどうしようもなくて、声を殺してわあわあ泣いた。
きっと同じようなときが来たとき、わたしは同じような対応をするだろう。悲しいよ、とか寂しいよ、とかそんなありきたりな言葉はかけないだろう。お疲れ、元気でな。あとで行くから待っててな。それがいいと本気で思っている。ちゃんとシュミレーションしてるよ。だから安心してね………
なあんて思いながら、何とも言えない気持ちで、いつもの金麦を飲んでいる。さて、そろそろストロングゼロあけるか。
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