ラクオリア創薬がTRPM8遮断薬をXgene Pharmaceuticalに導出
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ラクオリア創薬が2021年9月22日に、ラクオリアが創製した「TRPM8遮断薬」に関して香港の企業である「Xgene Pharmaceutical」とライセンス契約(導出)を発表しました。
香港Xgene Pharmaceutical Co. Ltd.との新規TRPM8遮断薬に関する ライセンス契約締結のお知らせ
TRPM8遮断薬について
今回ラクオリアがXgeneに導出したTRPM8遮断薬の化合物コードは「RQ-00434739」です。
過去には、ラクオリアのTRPM8遮断薬には「RQ-00203078」という化合物コードのものもありましたが、いつかからか上記の化合物コードの方に切り替わって表に出るようになっています。
ラクオリア創薬は「イオンチャネル」創薬に強みを持っています。
昔からラクオリア創薬の企業説明では、創製したイオンチャネル関係の化合物として、このTRPM8遮断薬(RQ-00434739)がよく紹介されていました。
2016年8月10日には、RQ-00434739が前臨床開発段階に移行することを決定したことを発表しています。
しかし、毎度イオンチャネルの薬として紹介されるも待てど暮らせど一向に前臨床開発が開始されず、どこかの企業に導出もせず、いったいどうなったのやら状態でした。
さすがにそろそろ導出されるだろうとワクワクしながら待っていましたが、導出されず、その間に、ラクオリアが「旭化成ファーマ(途中でイーライリリーに再導出)」や「マルホ」、「EAファーマ」と契約しているイオンチャネルの化合物の方が開発が進んでいき、また、特許の期間もどんどん短くなっていっていると考えられるため、お蔵入りコースかなぁ~と思っていました。
そしたら、ここに来て導出発表。
お蔵入りにならずに済みました。
今回の発表内容には、
「規制当局が求める前臨床試験を速やかに実施し、臨床第1相試験に進むことを計画しています」
と記載があり、素早く開発が進めむことが期待でき、楽しみです。
RQ-00434739については、ラクオリアが2021年6月30日に発表した「中期経営計画」に以下の説明スライドが載っています。
TRPM8は、28度以下の冷刺激またはメントール(ミントの成分)によって活性化される温度感受性イオンチャネルです。
つまり、TRPM8遮断ということは、冷刺激が伝わるのを遮断するといったものです。
上記の資料の想定適応症の項目に「抗がん剤起因性冷アロディニア」と記載があります。
オキサリプラチンなどの抗がん剤を使用すると、「冷アロディニア」という副作用が起き、ドアノブなどの金属や冷たい飲み物など冷たいものに接すると、激しい痛みが出ます。
この副作用をTRPM8遮断薬で止めようという疼痛治療の薬となります。
冷アロディニアを適応とする既存薬は2021年現在存在しないため、RQ-00434739は未充足の医療ニーズに応える画期的新薬になる可能性があります。
上記の資料には、市場規模として、日本・米国・欧州・中国で患者数を100万人と推測し、ピークセールス予想を200億円としています。
また、過去にラクオリアはRQ-00434739について、東京大学と共同研究をしており、過活動膀胱の泌尿器疾患領域の治療薬としての研究も行っていました。
そのため、RQ-00434739は様々な適応症で使われる薬になる可能性を秘めています。
様々な適応症で開発できれば、その分、RQ-00434739がもたらす利益も増加します。
様々な適応症の治療薬になる可能性があるため、今回のXgeneとの契約の発表のタイトルを見た時に、いったい何の適応症の範囲で導出したのかと気になりました。
しかし、2021年9月22日の契約発表の資料には、どの適応症について契約したか記載がありませんでした。
そのため、おそらく適応症は絞らずに、契約したと予想します(裏では適応症を絞っており、何かしらの事情があって公表していない可能性もありますが)。
契約発表資料には、適応症の説明として、冷アロディニアや過活動膀胱とは記載されておらず「慢性疼痛」とだけ記載があります。
2021年10月1日付で、ラクオリア公式Webページのパイプラインのページが更新されているのですが、今までRQ-00434739の主適応症が「神経障害性疼痛(化学療法起因性冷アロディニア)」と書かれていたのに、「疼痛」という表現に変わっています。
2021年10月現在、Xgeneの公式Webページのパイプラインの表には、
「An ion channel modulator in development for neuropathic pain.」
と説明が書かれたパイプラインがあり、これがもしもRQ-00434739のことだとしたら「神経因性疼痛」という表現しかありません。
あえて戦略として具体的な適応症を記載していないのか、まだ開発を進める適応症を絞り切れていないのかはわかりませんが、前臨床試験を速やかに実施と書いているため、さすがに適応症は絞っていると推測します。
ラクオリアの他の開発が進んでいるイオンチャネルの化合物も具体的な適応症を公表しない傾向があるため、おそらく同じ戦略なのでしょう。
契約発表資料には、
「本契約締結は、東京証券取引所の規則に定める適時開示には該当いたしませんが、有用な情報と判断したため、任意開示いたします」
という記載があります。
適時開示に該当するかどうかのルールに利益の額があるため、適時開示に該当しないということは、少なくとも開示必須の額には達していない契約一時金であったといえます。
わざわざこんな文章を記載しなくても良いのにと思いましたが、カッチリしているのか、それとも、投資家に対して、契約一時金の額をむやみに期待させないようにしたのか。
契約一時金の額が多くないだろうと知り、残念でしたが、2016年に前臨床開発段階入りしたのに、5年以上も前臨床開発が開始されず、導出もできなかった化合物な上に、開発もそう簡単なものではなさそうな気がするため、仕方がないかぁ、開発を素早くやってくれようとしてくれているだけ非常にありがたいという個人的感想です。
もしも開発が難しいから、契約一時金は少なくし、マイルストンの額とロイヤルティの率を多くしているような契約だったら嬉しいですが、期待しないでおきます。
契約範囲の国については、
「⽇本を除く全世界を対象とした独占的な開発・製造・販売権」
と記載があり、日本以外全世界です。
日本の他のバイオ企業の契約を見ていて思うのですが、日本だけ除く場合があるため、業界的にそういうもんなのかな~なぜだろうと以前から疑問に思っています(だいたい予想はつきますが)。
このくらいの話は、バイオ・製薬会社勤めの人に聞いたらすぐ回答してくれそうな気もします。
Xgene Pharmaceuticalについて
Xgene Pharmaceuticalは、中国語で「昌郁醫藥」、「昌郁医药」と書きます。
公式Webページはこちらです ⇒ Xgene Pharmaceutical 公式Webページ
設立した年は、なぜか、2015年と書かれている説明もあれば、2016年と書かれている説明もありますが、どちらにせよ、設立後まだ約5年くらいしか経っていない新しい会社です。
設立年だけ見ると、スタートアップやベンチャーくらいの企業かと思いますが、既に米国で臨床試験のフェーズ3実施予定のパイプラインがあります。
ラクオリアの契約発表資料には、Xgeneについて以下のような説明が書かれています。
神経疾患領域における未充足のニーズを満たす画期的な治療薬の開発に取り組んでいます。
同社のアプロ―チは、独自のリンカー技術によって異なる二つの薬剤分子を結合させることで、複数の標的に作用しうる複合体分子を作り出すというものです。
このような複合体分子を用いることで、薬剤分子を単独で用いた場合に比べて吸収・代謝等の薬物動態特性を改善することができます。
複数の複合体分子の前臨床試験の結果から、同社のリンカー技術が薬効の向上や毒性の低減に有効であることが示されています。
リンカー技術や複合体分子については私は知識がないのでスルーしますが、上記の説明以外に、ラクオリアの契約発表資料の説明文やXgeneのWebページを見ますと、Xgeneは2021年10月現在、「疼痛」の治療薬に焦点を当てていることがわかります。
それもあり、ラクオリアは、主に疼痛を適応症とするRQ-00434739をXgeneに導出したという経緯です。
XgeneのWebページのパイプラインのページには、化合物コードがあるものでは「XG005-02」、「XG005-03」「XG004-03」、「XG043」の4種類が掲載されており、全て疼痛を適応症としています。
ただ、こんな設立間もない小さい企業に導出してもどうなんだろうと思いつつ、ネット上でXgeneの情報を探していたら、Xgeneや疼痛治療薬の市場について色々情報が書かれている下記の中国語の記事を発見しました。
继XG005-02进入美国III期临床,昌郁医药又一款疼痛类新药品种完成I期临床试验
この記事は、まとまっていて非常に良い記事なので、全部読むのをオススメします。
XgeneのCEOの「徐景宏 博士」は非常に優秀な方であり、またチームも医薬品の研究開発と業界で豊富な経験を持つ人らが集まっており、
「わずか5年間で、新しいNCE薬の開発を米国での第3相臨床試験に進めた」
と記事に書かれています。
「XG005-02」が米国で臨床試験フェーズ3予定なのもありますが、別の化合物の「XG005-03」もオーストラリアでフェーズ1が完了し、近いうちに米国でフェーズ2を開始予定とのことです。
「XG005-02」については、中国でのブリッジング試験がうんたらかんたらとも書かれています。
このスピード感と順調に開発を進めるXgeneに対して、「こんな設立間もない小さい企業に導出してもどうなんだろう」と思うのは、とても失礼な超優秀な企業でした。
ここで気になったのは、ラクオリアが導出したRQ-00434739は、Xgeneが香港の企業なのでてっきり中国で開発を進めて行くのかと勝手に思い込んでいましたが、Xgeneの他の化合物同様に、米国を第1に、市場が大きい中国を第2(または並行して)に開発を進めて行く可能性があるのではと思いました。
もしも最初から米国市場がターゲットとなると売上や知名度が高くなるため、非常に楽しみです。
また、この記事の最後の方に「Xgeneは来年IPOを議題にする予定」と書かれています。
「IPOを議題(アジェンダ)」って何だろう…
IPOするまでのどの段階のことを指しているのか不明ですが、少なくともIPOへの意欲があるということがわかり、もしもIPOをすれば、資金的にRQ-00434739の開発などがしやすくなり、薬や企業の知名度向上にも繋がるため、ラクオリアにとってはプラスになります。
企業名を見た時や契約一時金が少なそうだなぁと思った時は、お蔵入りするよりかはマシかぁ、順調に開発が進んで販売まで行けたらいいなぁ~くらいにしか思っていませんでしたが、上記の中国の記事を読んだら、ワクワク感が出てきました。
2021年のノーベル賞と関連
2021年の「ノーベル賞」の「ノーベル生理学・医学賞」は、デヴィッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏が受賞し、
「温度と触覚の受容体の発見(discoveries of receptors for temperature and touch)」
に対しての賞となりました。
Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2021
ラクオリアのTRPM8遮断薬を知っていた私は、ノーベル生理学・医学賞のニュースで「温度」という単語を見た瞬間に「TRPM8では?」と思いました。
そしたら、本当に、温度の受容体のTRPV1やTRPM8、機械刺激の受容体のPiezo1やPiezo2の発見に対する受賞でした。
ラクオリアがTRPM8遮断薬の契約発表した約2週間後に、TRPM8関係でノーベル賞とは、タイミングが良過ぎます。
私が見聞きした限りでは、日本のニュースでは軽く「これらの発見によって、疼痛の薬の開発に繋がるんですよ~」くらいしか述べてなく、今これらに関する薬をどこの企業が開発しているかなどまで述べているものは見かけませんでした。
しかし、中国の記事では、そこまで調べている記事がありました。
中国人、さすがです。
先程のXgeneに関する中国記事も疼痛治療薬の市場について簡潔かつよくまとめられて書かれていましたし、ノーベル賞についても自国の人が受賞したわけでもないのに、ここまで深掘りして記事を書いています。
何年か前に、日本のマスメディア・記者は専門的のことを全然調べず中身がない記事ばかり書くが、中国のマスメディア・記者は専門的な知識が豊富で非常に優秀であるため、日本のマスメディア・記者はあかん!とネット上で大きく話題になったことがありましたが、まさにその状況を目の当たりにしてしまいます。
この記事の中には、TRPM8をターゲットとした薬として、ラクオリアとXgeneの名前とともにRQ-00434739の名前が掲載されています。
ラクオリアが創製したTRPM8遮断薬「RQ-00434739」の開発が順調に進み、画期的新薬として販売され、未充⾜の医療ニーズを満たす日がやってくることを期待します。