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名付ける…
自分が生まれ育った土地には、古刹もいろいろあったが、どんな名前の山に囲まれどんな人が住んでいたのか、人に説明ができるほど詳しくはなかった。
郷里をあとにして住んだ土地の歴史は、いろいろと調べたり歩いてみた。生まれ育った場所というのは、安心感があって山の名前など覚えなくとも、守られていたのかもしれない。
子供に、今日は富士山や南アルプスが真っ白だね、と言ってみた。さすがに富士山は知っているけれど、 他の山は、見ていても気づいていないかもしれない。山には名前があるのだけれど、私たちは、それを意識しないで暮らしている。
人の周りにあるものには、だいたい名前がつけられている。花も雑草も木々も鳥も魚も。風や雨にも昔人は名前をつけた。自然の中で生きるということは、名付けることが必要だったのだと思う。
現代人は、名前を知らないものに囲まれて生きていることが多い。鳥や虫や山や雲や風や。今何時かは、分刻みで知っている。でも、太陽の投げる影の長さで今日の季節や時間を測れない。
スマホなどで、SNSなんて凄いものを手中にするから、簡単に地球の裏側のことまで映像が流れてきて、いろいろなことを知っていそうだけれど…。足元の土の色や感触、湿った風が雨を連れてきそうな匂いや、木陰に鳥が丸まって休んでいる姿や、手に触れる水の美しさを知らないで過ごしている。