Poem)ピーターの黒い目
猫がいないのをいいことに
どうやら小さな動物が
住みついている
深夜に机に向かっていると
カタカタと音がする
そっとそっと
気付かないふりをして
目だけで音を追ってみる
何かがサッといなくなる
何日も何日も
そんな日が続いていた
だが、今日は
ふっと見たら
いる、
開け放しにしてあるドアの角に
いる
全く逃げようともしない
今さら誰?
とも尋ねたくない
見たままの彼だから。
ピーターと呼んでみた
ん?とこちらを向く
そしてもう、友だち。
名前というのはそういうもの。
急に自分と相手の距離が
縮まるものだ
あるいは、
きみは私の
私はきみの
両方の心に住み始めるのさ
ピーターの小さな手に
取っておきの
まんまるい大きなビスケットを
載せてあげた
パクパクギザギザと
軽快な音を立てて
黒いまんまるい目を私に向けて
食べている。
なんて、それは心地よい連続音、
なんて、それは心地よい時間のリズム。
すると、少しして
リズムの向こうから
ピーターは急に言い出した。
(心の秘密をひとつちょうだい。)
まるで、ビスケットをもう1枚ちょうだい、とでも言うように私に言った。
(それは、ないしょないしょ。)
私はちょっと意地悪になった
(今夜はね、緑色に光るという
不思議な石と種を
調べているんだ
ピーターとは遊べない)
ビスケットの時を刻む音が急に止む。
静けさが音を立てる、
というのも変だけれど、
その時は本当に、
部屋中に拡がる静けさが、
ガラガラと
部屋の壁を崩していきそうだった
いや、実際、部屋の天井が崩れかけた。
だって、天井のあるところから、
星が瞬いていたもの
2つ、3つ…
ピーターの黒い目が
湖の底のように青くなった
(ピーター泣いてるの?
ごめんごめん
…
でもね、心の秘密って…
そう簡単には話せないんだ…
しまってある部屋の鍵をね、
開けて来なくちゃならないんだ…
鍵の暗号だって、わからなくなってしまっていて…)
きっと私の瞳も、ピーターのように
青くなっていたに違いない
だってピーターの顔が
雨降りのように、
青い青い水玉の向こうに
透けてみえたからね。
ザーザー
ザーザー雨の音。
キラキラ
キラキラ星が光っていて。
しばらくして、ピーターは
もとの黒いまんまるい目をして
私に話しだした
手に持っているビスケットは、
半月みたいな形になっていて
(あのね、僕は知っている
…
きみたち人間がね、毎日、とっても淋しそうだということを)
そこまで喋って、
ピーターはパクパクギザギザと
ビスケットの続きを食べだした。
なんて、それは心地よい連続音、
なんて、それは心地よい時間のリズム。
どのくらい、時間て経ったのだろう
ピーターは、また少し青い目になって
ゆっくりゆっくり話しだした。
(そしてね、
悲しいことがある時にはね、
この国のもう少し先にあって。
電車でもバスでも飛行機でも
本当は歩いてでも行けるのだけれど、
ひかり色した国の
パスポートが発行されると聞いたんだ。
僕にできることはそんなにないけれど。
ビスケット1枚もらったみたいに、
きみにパスポート1枚あげようと思ったんだ。僕にできること。)
ピーターの言葉は、時々難しかった。
(その時ね、人の心の秘密はね、
土に返していくんだ。それが約束。
土は優しく卵を抱くように、人の心の秘密を眠らせる。緑の種になれるまでゆっくりゆっくり眠らせる。緑の夢が生まれるまで眠らせる)
ピーターと長い時間話していた。
ピーターは、
取っておきの
まんまるい大きなビスケットを
パクパクギザギザと
軽快な音を立てて、
黒いまんまるい目を私に向けて
食べ続けていた。
なんて、それは心地よい連続音、
なんて、それは心地よい時間のリズム。
by Arim
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