幻聴と幻覚と
いま、腕を折り曲げてしまえば、私は死ぬ。
いま、このまま穏やかな眠気に負けて寝てしまえばまた地獄が私を襲う。
もう嫌なんだ。
もう自分の体がずたぼろになっていくのは嫌なんだ。
ずっと深淵を揺蕩う深海魚のように、日の目を見ることなく生きていくべきだったんだ。
無茶して陸にあがって、無茶して人並みの生活を送ろうとしたからこうなったんだ。
それでも後悔の念は無かった。多分こうでもしていないと自我が形成されなかったから。
私が病院に搬送されるのはこれで何度目だろう、記憶にない。
入院だって何度もした。
何度も痛い思いをして、何度も病院に運ばれた。
私は病院になんて行きたくなくて、逃げ出そうとした。
そのたびに馴染みの病院の先生は、眉を下げる。
ああよかった、呆れてはいるけど、見捨てられてはいない。
エゴにまみれた自分を蔑んだ。
腕に何本も刺さった点滴が私の体へ入っていく。
いやだ。死なせて。そう叫ぼうとしても口が乾いて声が発せない。
気だるさと自分の重さが自分の感覚を支配していく。
ああ。いつまでこんな生活が続くんだろう。
好きな人と一緒に暮らしているはずなのに、痛みが心を奪っていく。
それでもあの人のもとへ戻らなきゃ。死にたい。でも戻らなきゃ。
いや、いや、いや。
このまま点滴の針を折ってしまおうか。
腕さえ曲げられれば針は深く私に刺さるか折れるかだ。
もう、楽になりたいんだ。
涙が目尻を伝って枕元へ落ちた。