【Arentで働く人たち】宇宙物理学からプラント設計へ。博士からスタートアップCo-CEOの道|織田 岳志
本記事は、2022年7月にwantedlyにに掲載したものに一部加筆修正を加え、転載したものです。
本日はArentの取締役でもあり、千代田化工建設株式会社と株式会社Arentのジョイントベンチャーである、株式会社PlantStremでCo-CEOを務める織田岳志さんに話を聞きました。
プロフィール
学生時代から現在まで
~宇宙物理学から企業のCADへ~
学生時代に学んだことは?
宇宙の研究です。理学部、ノーベル賞研究者といえば、東大よりも京大だろうと当時は思い込んでいました。そこでは宇宙物理学を学んでおり、観測的宇宙論と呼ばれる分野の理論的な研究をしていました。
博士号取得後、研究職に残らず、一般企業のCADの世界へ飛び出したのはなぜですか?
研究者としての能力に限界を感じたためです。ポスドク問題と言われる、優秀な博士号取得者でも、長期間に渡って非正規雇用の形で研究を続けることになる問題があります。まわりにいる優秀な先輩が、ポスドクとして何年も不安定な立場で研究を続けている姿をみて、
「自分の能力であの人達と競争して勝ち残っていけるのか?」
「その厳しい環境の中で、自分が熱意をもってあと20年30年と研究をつづける覚悟はあるのか?」
と考えたときに、ポジティブな結論に至らなかったのが大学に残らなかった一番の理由です。
また、学問の外の世界に触れる機会があったのも一つの理由だったとも思います。当時仲がよかった同期に、アウトリーチ活動を積極的に行っている人たちや、起業して会社経営をしていた人がいました。その友人たちと話をしたり、また一緒にアウトリーチ活動を行う中で、研究以外のところでも自分の強みを活かせるのではないかという気持ちになっていたのもあるような気がします。
CADの世界に入ったきっかけは?
CADの世界に入ったのは本当にたまたまです。それまで一切就職活動というものをしていなかったので、ダメ元で手当たりしだいに、分野を問わず手当たり次第に採用を受けました。その中で縁があり内定をいただき、カルチャーが合うと感じた企業がCADソフトウェアの開発をしていた企業だったのがきっかけです。
PlantStreamの強みと市場への影響
現在開発に携わっているPlantStream®︎が市場にある他の3D CADと比較して優れている点は?
市場にある 3D CAD は、最後の施工につながる設計をカバーしなければなりません。そのため非常に細かな機能が豊富にあり、「なんでもできる」ものになっています。なんでもできるのですが、設定や豊富で複雑な機能になってしまい、プロ仕様のソフトウェアになってしまいます。実際、現場の多くのプラントエンジニアとよばれる方たちは、データを見て良し悪しは判断できますが、自分でデータを作成できる人はごく少数です。ここがDX、IT化の大きな障壁であり、ニーズがあります。だれでも適切な精度のデータを簡単につくることができる、この点がPlantStream®︎の強みであり、現在市場にある 3D CAD との一番の違いです。
石油、ガス会社に限らず、プラント建設には大きなリスクが伴います。そのリスクを早期に軽減できるところが、このソフトウェアの魅力となっています。
また、早期に誰でもが簡単に3D データを作成できるようになることにより、これまでの設計フローを変革し、より効率化できるようにもなります。
上流工程のaspentechやP&IDのソフトウェアとの関係を教えて下さい
これまでは上流工程のソフトウェアと、3D CAD の連携には大きな課題がいくつもあり、うまく行っている例はあまり多くありませんでした。PlantStream®︎は、この架け橋になるソフトウェアです。
競合ソフトウェアとの違いは?
同じ自動ルーティングとよばれる機能を有するソフトがありますが、その機能の使い方や、ソフトウエアの根底にある思想が大きな違いであると感じています。
千代田化工建設の現場にあって競合ソフトウェアでは解決できなかった問題であったり、千代田化工建設の業務改善、DXに対する考え方を取り込んだソフトウエアですので、より設計の現場に寄り添ったソフトウエアになっていると感じています。
他のプラント 3D CADとの関係を教えてください
従来の 3D CADは、実際のプラント製造ではなくてはならないソフトウエアであり、ある意味では、プラント製造の基幹システムの一つです。
ただ昨今のSaaSの隆盛をみていてもそうですが、1つの巨大なシステム、ソフトウエアが全てを網羅できるというわけではなく、専門性の高いソフトウエアがお互いに連携することが重要になってきます。PlantStream®︎は、同じ3D CADと分類されてしまうソフトウエアですが、従来のCADでは、解決しにくかった問題に特化して使用するソフトウェアですので、お互い補完する関係になると思っています。
PlantStreamの未来と可能性
将来的にPlantStream®︎が実現することは?
プラントの建設は、いかに建設期間を短縮し、建設コストを下げるところに課題があります。とくに一つ一つのプラントが巨大で、計画から操業までが非常に長期になる石油、ガスではその傾向が顕著です。
ただし現在の設計や建築フローでは、これまでにも細かい改善がたくさん行われてきており、劇的な改善は難しい状況でもあります。
この一種の膠着状態から抜け出すためには、これまでの延長線上にない、工程の劇的な変化が必要になると思っています。PlantStream®︎はその起爆剤になり、その中核になりえる可能性を秘めていると感じています。
数学力が生かされている具体的な側面は?
非常に抽象的な話になりますが、異なるバックグラウンドを持った人々が新しい情報に触れることで革新が生まれやすくなると考えています。数学や計算機のアルゴリズムに精通した人たちが、これまで縁がなかったプラント設計のプロフェッショナルと交わることで、新たな視点が生まれます。これまで暗黙知とされていたものが言語化され、形式知化されるものだと思います。
特にプラント設計の世界は複雑な物理現象と密接につながっています。設計のプロフェッショナルが持つ感覚や暗黙知を言語化する上で、私たちのメンバーが持っている『数学力』が非常に役立ちました。これにより、設計のプロセスをより精密に、効率的に進めることが可能になったと感じています。
千代田化工建設の熟練エンジニアのノウハウをアルゴリズム化する上での苦労話などを教えて下さい。
「配管エンジニアにお話を伺っていた際に、『ねぇ君たち、このコップに入った水の飲み方を説明しろって言われてできる?プロの配管エンジニアは、水を飲むのと同じ感覚で設計してるんだよ』と言われたことがありました。この言葉で、自分たちの知識の無さや質問の大雑把さを痛感しました。
しかし、その後、知識を深めて詳細な質問をしていくと、その背後には物理的な理由や施工・運転時の経験に基づくノウハウがあることを理解しました。この過程で、設計の奥深さを知り、そのエンジニアの方はPlantStream®︎の一番の理解者となってくださいました。
しっかりとノウハウを聞き出すためには、しっかりと基礎知識を身につけ、その分野の専門用語を使えるようになる必要性があることを痛感したエピソードです。
なぜArentやPlantStreamは、技術力に優れた優秀なエンジニアを採用できているのでしょうか?
やはり一番大きいのは、優秀なエンジニアのいる会社に優秀なエンジニアは集まる。ということだと感じています。
また技術力だけでなく、素直さというような「いい人」の観点も見て、カルチャーにフィットするかという点も重視しているところも影響しているとは思います。
ある総務のメンバーには、「優秀なエンジニアが多いというので入る前はすごく怖かったんですよ。理詰めで問い詰められたりしたらどうしようみたいな。でも入ってみて逆の意味でびっくりしました。みんないい人で」という風に言われたこともあります。
プロダクトという観点からみますと、(特定の技術をベースにしたプロダクトというわけではなく)ユーザーの課題をベースにしたプロダクト開発を行っているところが、技術者に魅力的に見えるという点はあるのかもしれません。
また PlantStream®︎は、ソフトウエアの世界で「日本から世界を変える」という点も魅力だと思っています。まずは国内からというスタートアップがほとんどですので、いきなり世界に打って出るというのは非常にやりがいがあります。
PlantStreamのビジョン
PlantStream®︎の目指す理想の世界は?
Arentの理念とも重なりますが、 PlantStream®︎をつかうことにより、プラントエンジニアが創造に注力できる世界にしたいと思っています。
PlantStream®︎の開発をすすめることにより、プラントエンジニアが頭の中に思い描いているものを、すぐに見える化でき、お互い同じものをみながら議論をし、よりよいものを作る世界そんな世界がすぐに来ると思っています。
最後に
Arentは「暗黙知を民主化する」というミッションのもと、エンジニアを中心としたメンバーで業界の課題解消に取り組んでいます。今すぐ転職をお考えでなくても構いません。
Arentはみなさまのご連絡をお待ちしております!