ネタ合わせがしたい

 僕たちA連理はネタ合わせをほとんどしない。
とにかくネタ合わせがしたいのである。

 以前やった事のあるネタ、いわゆる"有りネタ"の場合、おえちゃんの「1度やったことあるネタは常に頭の中に入っているだろう」という理論のもとネタ合わせはしないのである。
 初めて披露するネタ、いわゆる"新ネタ"の場合、「1度説明すれば覚えれるだろう」という理論のもとネタ合わせはしない。
百歩譲ってプロとしては当たり前のことかもしれない。

 だがしかし!!
これが運転なら非常に危険な
"だろう運転"である!!
本当に皆これで事故ってるから!!!

 もし仮に芸人が免許制になった際には
こんな"だろうネタ合わせ"ではなく、
「有りネタだけど忘れているかもしれない」
「1度説明しただけではまだ覚えてないかもしれない」と"かもしれないネタ合わせ"を心がけてほしいものだ。

 というかぶっちゃけ、ネタ合わせをしない事が問題なのではない。なんと、おえちゃんは

 1ミスも許してくれないのである。

 そうなると話は変わる!!
だって怒ったら怖いんだもん!!
めっちゃこわい!!!
ものすごい詰められる!!
なるべく怒られたくない!!

 僕から見ればおえちゃんは、なまはげなのである。
きっと、なまはげという文化は僕がおえちゃんに怒られている姿を秋田の人が見て着想を得たに違いない。絶対にそうだ!
 僕はクイズ番組に出て、なまはげの起源を答える問題が出たら、即答で「市川おえ!」と答えることだろう。そして、撮影終了後プロデューサーから「あの問題よく分かったね!」と褒められ、その起源に自分も関わっていることは伏せ、「たまたま知ってて」と鼻の下を伸ばすことだろう。

 コンビを組んですぐの頃はライブの数時間前に集まり、カラオケなどに入ってその日するネタの確認をし練習をしていたのだが、少しずつその時間は短くなり、数時間前から1時間前、1時間前から30分前、そして遂には、若手芸人では珍しい「どのライブも楽屋の入り時間に直接集合するコンビ」になってしまったのである。

 ライブというのは必ず入り時間というのが設けられており、その時間までに会場に向かいそこで出欠確認、リハーサル、企画の説明などが行われる。
そのタイミングでその日初めておえちゃんに会い、
僕から「今日、何のネタする?」と声をかけるのだ。

 そこからおえちゃんの「考えたらわかるでしょ」という "ネタを全然教えてくれないボケ" をひたすら捌き、ライブがまもなく始まるというタイミングでようやく「○○のネタで」と教えてもらうのだ。

 これはまだ良い方で、本当にひどい日は
ライブが始まっているのにおえちゃんは何のネタをするか教えてくれず、自分たちの出番まであと数組、
1組、また1組とネタが終わり、自分たちの出番が近づいてくる。おえちゃんを見ると平然とヘアアイロンで前髪を整えている。

 そんな場合じゃない!ネタを教えてくれ!

 そう思い僕が「何のネタする?」と聞くも、
おえちゃんは、「教えたくないですねー」とか抜かしやがる。

 ふざけてる場合じゃねえ!
もう出番が来る!やばい!
僕の心臓はバクバクである。

 結局自分たちの出囃子が鳴るなか、あとは照明が明るくなれば「はいどうもー!!」と元気に出なければいけないというタイミングで、
おえちゃんが小さめの声で

 「ツカミはやります。」

何のネタするか言えよ!!!
おい!!!!
何のネタするか!!!!
言えよ!!!!!
ばーか!!ばーか!!


 そして、そのまま何の武器も持たずに舞台に立ち、
僕からしたら1発でも当たったら死ぬ拳銃の弾をスレスレで、生身で避けるように超反射神経でツッコむのだ。これが非常にしんどい!!そもそも成立しているのか?こんなのが、、、

 しかし、そういう日に限ってウケたりする。
もう本当に意味がわからない。お笑いって何なんだよ。むじーよ。


 僕はネタ合わせさえできたらそれで良いのである。
ネタ合わせを夢見る普通の少女なのだ。
高校生になったら友達がたくさんできて、部活もそこそこ頑張って、勉強はあんまだけど、人並みにネタ合わせもして、そういうもんだと思っていた。

 周りの同級生たちとお泊まり会をしようもんなら、
「あんたどこまで進んでんの?」
「ネタ合わせもうした?」
とか学生特有の探り合いが始まるのだ。
周りの中で唯一ネタ合わせをしてない女子高生の僕だけが、「私そういうの興味ないから」と周りを一蹴して、人の話を聞き、ネタ合わせをする妄想をしながら寝たふりを決め込むのである。

 僕は定期的におえちゃんに「ネタ合わせしよ」というのだ。しかし「嫌です」と普通に断られてしまう。
次ネタ合わせをする頃には心の中の女子高生だった僕がOLになってしまうのではないかと思いつつ、
今日も楽屋でおえちゃんに振り回されるのである。

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