セバーグ(2019)を観た。
主演は第94回アカデミー賞にて「スペンサー ダイアナの決意」で主演女優賞にノミネートされたクリステン・スチュワート。
共演はMCUのファルコン役アンソニー・マッキーや「不屈の男 アンブロークン」ジャック・オコンネルなど。
監督は本作がキャリア2本目となるベネディクト・アンドリューズ。
個人的にずっと国内での劇場公開ないしはサブスク配信を待ち侘びて、今回ようやく観ることが出来た作品。
アメリカでは既に2019年に公開されてたんですが、監督の前作「Una(日本未公開)」とは打って変わり、今作は批評家の反応もイマイチだったせいか日本では丸3年、劇場公開・配信どちらも棚上げ状態。
私も半ば諦めていた訳ですが、今年になって突如なぜかNetflixで配信リリース。
アメリカではAmazon Studiosが配給なのにね(イギリスはユニバーサルが担当)。
ただ実際に映画を観てみると確かに評判が良くないのも分かるなぁというのが正直な印象。
ジーン・セバーグを演じるクリステン・スチュワートは安定の上手さな訳ですが、それ以外はストーリーとしても演出面も全体的にインパクトに乏しくて些か退屈。
公民権運動の活動家や黒人運動家に寄付する彼女が、FBIや彼らのリーク情報をゴシップとして報じるマスコミに追い詰められて精神の均衡を失っていくという展開な訳ですが、
既婚で息子もいるセバーグが、しょっぱな同じく妻子持ちの活動家と不倫する所から始まるので、見ていてかなり彼女に寄り添いにくいんですよ。
実際のジーン・セバーグはヌーベルヴァーグ「勝手にしやがれ」で脚光を浴びるも、その後はヒット作品に恵まれない不遇とも言えるキャリアを過ごしていて、本作はその恵まれない時期と晩年の話にフォーカスが当てられています。
闇のハリウッド歴史モノとしてはそれなり興味深いんですが、
彼女自身の栄華と零落のうち後者しかほぼ描かれないので、やっぱり観ていて登場人物の境遇にあまり落差がなく、ドラマ性にもやっぱり欠けるんです。
上記の通り段々情緒を失っていくセバーグに何とか寄り添おうとするロマン・ガリや息子の姿を観ていると、申し訳ないがセバーグよりはむしろこちらの2人の方が気の毒に感じざるを得ない状況が最後続いて…。
セバーグを自身取り巻くサスペンススリラーにもなりきれず、ヒューマンドラマとしてはドラマ自体が弱くて消化不良。
凄く散漫な出来という印象しか残りませんでした。
あと、ジャック・オコンネル演じるFBI捜査官がもう1人の主人公としてそれなりに時間を割かれていてるんですが、そっちもあまり面白くはない…。
こちらは度重なる盗聴や違法捜査に自責の念に駆られて奥さんとギクシャクしていく展開なわけですが、
最初から「自分のやっていることは何かおかしい」と感じつつも、終盤まで抜け出せずズルズル行ってしまうだけで、やっぱりこれもドラマらしいドラマにはなっていなくて、正直見応えがない。
確かにFBIのやり方は、セバーグの家に盗聴器を仕掛けたり、傍受した内容をマスコミに流して揺さぶろうとしたりetcなど異常でエゲツなく、観ていてかなり気分は悪いんですけどね…。
ただ前述の通り、「なんでセバーグをここまで追い詰めるんだ」という感情が沸いても同時に「でも結構ゲスいレベルの不倫もしてるしなぁ」と同情にはほぼ遠く、終始かなり冷めた気分で見てしまいました。
ジーン・セバーグについては水声社から「FBI vs ジーン・セバーグ(著:ジーン・ラッセル・ラーソン+ギャリー・マッギー)」や「ジーン・セバーグ(著:ギャリー・マッギー)」の2冊(いずれも訳:石崎一樹)が出版されています。
ですので、日本でも相応に彼女の生涯に関心を持つ人はいると思ういますが、その関心の高さに応えるには些か物足りない出来だったなぁというが個人的に思うところでした。
最後に、クリステン・スチュワートについては、「スペンサー ダイアナの決意」が2022年秋頃に日本で劇場公開予定となっています(遅い…)。
セバーグとダイアナの経歴を比べてみると、マスコミやパパラッチに翻弄された事や非業の死を遂げた事などいくつか酷似している部分もありますので、
もしかしたら公開後はジーン・セバーグと比較してみるのも面白いかもしれません。