【都市の経済構造を考えてみる!】(第46回)「シンクタンクのレポートを確認してみた!」
前回は、第三次産業の外の力を、ちょっと細かくみてみました。圏内需要に対しての割合は高くありませんが、一定割合で、移輸入が各産業部門でありまして、サービス業の移輸入って、パッとイメージできない部分もありまして、詳しくみてみたいなと思ったのがその理由でした。
・(第45回)「第三次産業における外の力を確認してみた!(仙台経済圏)」
https://note.com/areaia/n/n20234630b5de
さて、今回は、前回の終わりに、今回からは東京圏の産業連関表をみていきたいと思っておりましたが、以前の木下AIR編集長の投稿で、あるシンクタンクのレポートが言及されておりまして、そちらの内容が本稿「都市の経済構造を考えてみる!」にも近しい内容でありましたので、今回は、そちらを取り上げたいと思っとります。
◯ 元資料を入手します!
木下編集長の元投稿は、こちらですね。
・編集長コラム「道路が整備され、チェーン店舗が増加すると、なぜ地方は衰退するのか。」
https://air2.areaia.jp/main/article/detail/29924
で、こちらの投稿でとりあげられたシンクタンクのレポートがこちらです。
・(内閣府委託事業)日本の各都道府県における地域の資金循環及び流出入についての調査研究 報告書 平成27年3月 大和総研
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/report/chiikishikinjunkan_report.pdf
検索してみますと、サマリーもございました。
・日本の各都道府県における地域の資金循環及び流出入について
の調査研究 ~噴水構造の資金循環から「地産地消の資金循環」への転換~ 平成27年3月 大和総研
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/report/chiikishikinjunkan_point.pdf
研究報告書の方は、目次にありますように、100ページ超の大作でもありまして、読破するのに、少々時間がかかりました。サマリーの方は、図表を中心に14ページにまとまっておりますので、そちらをベースに、気付きを確認していきたいと思います。
◯ 第1章 地域経済圏の構造と課題
第1章で、地域経済圏の構造と課題について、詳しく分析があります。この章が、本稿「都市の経済構造を考えてみる!」と近しい部分になりますね。サマリーの方では、p1からp4とp8からp10になります。
統計上の制約からでしょうか、本レポートでは、都市圏別ではなく、都道府県別での分析になっています。
サマリーp1「地域経済圏の構造」にあるように、本レポートでは、まず産業面での分析から始まります。本稿でいう「稼ぐ力」と「回す力」・「支える力」を、「域外市場産業」と「域内市場産業」に分け、地域の域外市場産業は、農林水産業、その加工業、宿泊業、労働集約型製造業などが多く、専門職比率が低く、生産性に課題があるとしています。
このあたりの地域経済圏のみかたについては、本稿でも、天下の大和総研様と似たような分析アプローチであり、ちょっと自信になったというか、間違っていないんだな、と感じております。
しかし、生産性が高く、平均所得も多い、東京都とそれ以外の都道府県との比較での分析結果であり、国内地方部のすべてが東京都になるのは、無理筋な話でもあり、地域経済の課題を、東京都の比較だけから抽出してしまうのは、そのあとの打ち手として、これまた無理筋な打ち手が出てくるように感じました。
本稿では、まだ東京都の分析にもたどり着けていませんが、東京は世界でも類を見ない大都市圏であり、その東京と比較して、東京とのギャップを埋める方向だけでの考え方は、片手落ちのように感じているところです。
統計など情報入手に課題がありますが、都市化の流れ、都市の巨大化や、大都市の超巨大化は、ここ100年の世界的な潮流でもあり、日本で言えば、東京との比較だけでなく、各国の第2の都市や第3の都市、はたまた豊かな地方都市との比較も必要というか、そちらの方にこそ、示唆が多いように期待しているところでもります。
サマリーp2「資金循環の実態」では、資金循環の面での分析です。産業面での表裏一体といいますか、モノの流れの後ろにあるお金の流れの分析となります。本稿では、まだ都市圏の域外収支を念頭においた都市の経済構造について考えている段階で、今後どこかのタイミングで、都市圏内における「投資 → 事業 → 収益 → 分配 → 再投資」といった投資のサイクルといったテーマも考えていきたいと思っておりまして、そのとっかかりとして、非常にありがたい内容であります。
以前、仙台経済圏でみましたように、「支える力」の増大傾向は、日本全国的な傾向のようで、資金循環の上でも、「公的部門を経由する還流ウェイトが拡大」とありますね。
サマリーp3「地域経済活性化の目標設定と達成策のポイント」にては、地域の産業構造の分析と資金循環の分析から、「地域活性化の目標」について、記載があります。
本稿は、まず都市の経済構造について詳しく知りたい、と思って、考え始めたテーマでありますが、できれば、このレポートのように、本稿でも、より目線を高くして、「都市経営の目標」、といったあたりまで、考えていきたいなぁ、と考えさせられました。
また、域外市場産業における生産性の向上、移出額の増加、といった流れは、本稿での域外収支の論点とも一致するところです。
しかしながら、そのあとに、「地域活性化の目標は地域GDPの向上」とあり、さらには「就業者1人当りGDPの向上、すなわち生産性の改善が地域GDP向上のポイント」とありまして、ちょっと、この設定には、違和感を覚えました。
ひとつは、生産性の改善の定義というかレベル感について、記載がないことです。東京圏以外の地域では生産性が下がっているから、生産性が少しでも向上して生産性の上昇率がプラスになれば良い話なのか、東京圏以上の生産性を達成する、もしくは、生産性において東京圏以上の上昇を達成すべき、なのか、そのあたりの記載がないことです。
生産性が向上することは、地域だけでなく、東京も必要ですし、この令和の時代だけでなく、明治期以降、昭和の頃も、平成の時代も、いつの時代も必要なことでした。なので、単純に生産性の改善とあるのは、至極当たり前というか、何も言っていないの等しい印象を受けた次第です。
もうひとつは、地域GDPや就業者1人当りGDPが増加すると、必ず、地域が活性化するのか、という部分です。生産額ベースでは、支える力が増加することで、経済圏の総生産は増加しています。本レポート本文に詳しくあるように、域外市場産業における生産性の向上の結果としての就業者1人当りGDPの増加、としても、稼ぐ力で、数千億円の移輸出額があっても、雇用者所得は、100億円未満という産業部門もありました。これまでも、ロボットやITの導入はどんどん進んでいます。昨今は、人手不足も大きく叫ばれているところですが、所得の方は大きな変化を感じないところでもあります。
このあたり、「都市経営の目標」を今後考えていくにあたって、また考えていきたいと思っておりますが、地域活性化の目標として、数字を捉えるならば、GDPや(稼ぐ力の)生産額、もしくは、その増加、だけでなく、個人所得、もしくは、家計所得と、人口の社会増減、も大切かな、とおぼろげには思っております。統計上の限界などはあるかもしれませんので、現実的なKPIというよりも、今の段階では、概念的な目標、というレベルでもありますが、引き続き、考えていきたいと思っております。
サマリーp4「域外市場産業の生産性向上」では、生産性向上策として、「地場の域外市場産業の強みを再検討のうえ、生産拠点の機能補完や上流下流展開を図り生産性を向上し、知識集約型への転換を目指す」とあって、「域外市場産業で生産性が改善され、移出が拡大することで、人口滋養力をつけ、移住や自然増を促し、域内市場産業も拡大する」としています。
人口減少下では、域内市場産業の生産額が全体として大きくなることはありませんから、まず、域外市場産業を伸ばして、そこでの雇用増加で圏内人口を増やして、域内市場産業も成長路線に向かう、ということですが、出生数、出生率の改善が明確になっていない状況では、日本だけでいえば、全ての地域で、域外市場産業を成長させることは簡単ではありません。移出先のパイを奪い合うからです。輸出産業であれば、世界人口は増加していますから、国内全ての地域で成長することはあり得るかもしれません。
サマリーp8には「域外市場産業には都市型と地方型がある」とありまして、都市には都市の、地方には地方の、それぞれに適した域外市場産業がある、とあります。言われてみれば当然なんですが、目から鱗といいますか、この図表7は、ちょっと開眼した気分です。大和総研さん、ありがとうございます!
サマリーp9「製造業で生産性が高いのは、専門職の比率が高いもの」として、都道府県別にプロットされています。このあたりの統計の扱いは、さすがシンクタンク!ですね。図表15をみておりますと、どこかにも記載がありましたが、製造業という切り口ですと、東京と地方、という2分よりも、東京、いけてる工業県、やばい工業県、という3つか、図表15のように4つに分けて考えるのが良さそうに感じました。
サマリーp10に「本社、財政を結節点として資金は地域に還流」がありまして、サマリーp2ともセットでみておりますと、資金循環の観点では、日本全体が、東京の郊外、という印象を持ちました。首都ですから、当然でしょ、と言われればそれまでですが。。。
◯ 第2章 域内循環の施策の事例
第2章では、十日町市・津南町、広島県、鹿児島県、鹿児島県日置市の4つの事例が紹介されています。
これらの4つの事例分析から、サマリーp5で、「4つの事例が示唆する共通の成功要因」として、次の5点にまとめられています。
・冷静な地域認識
・移出に焦点を宛てた取り組み
・外部視線による戦略
・戦略を引っ張るリーダーシップ
・住民・議会の理解と協働
事例ごとのサマリーは、サマリーp12-13「事例調査のまとめ」にありますね。レポートの本文の方が、事例の経緯や背景も詳しく、また具体的な事例の説明でもあり非常に読みやすいので、気になった事例があれば、是非レポート本文をご参照くださいませ!
本レポートでは、これら4つの事例を、成功事例として紹介してくれていまして、それぞれに示唆のある貴重な挑戦であり、うまくいってくれるといいな、と感じる事例でありますが、個人的には、なにをもって成功と位置づけるのか、いまいち、よくわかりませんでした。
域外市場産業として、いくら移輸出が増加したのか、生産性が向上したのか、雇用が増えたのか、などなど、その成果がよくわからないのが残念でした。それぞれに、取り組みの方向性が期待できるものであり、まだプロジェクトの途中でまだ成果を評価する段階ではない、ということだとは思いますが、これまでの成果も知りたいところでした。
このあたり、逆に言えば、このレポートで紹介された4つの事例が、その時点での日本最高の4事例とすれば、生産性の向上や、地域活性化というテーマにおいては、そうそう短期間で成果がでるものではない、ということになろうかと思いました。一声、10年、短くても5年は継続的な取り組みが必要という考え方もできそうです。
であれば、本レポートの趣旨に沿った事例を、1990年代や1980年代に始まった取り組みの中から、紹介いただく方が良かったやもしれません。
◯ 第3章 分析から得られる提言
最終章となる第3章では、提言がまとめられています。サマリーp6では、「提言 噴水構造の資金循環から「地産地消の資金循環」への転換」となっていますが、本文の方では、ちょっとニュアンスが異なっていますね。
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