発作性上室性頻拍
PEとは、Physical Education(フィジカルエデュケーション)、つまり体育の授業を意味します。
ソフトボールをしたり、ランニングをしたりと、日本の高校で行われている体育の授業と、あまり大差はありません。
ところで私には、9歳の頃から、小さな持病がありました。
それは、「発作性上室性頻拍」と呼ばれるもので、平たく言えば、心房と心室の間に余分な回路があって、何かの拍子にその回路に信号がつながってしまうと、突然心臓が1分間に200回ものスピードで打ち出し、立っていられなくなるのです。
(今では、カテーテルで割と簡単に治せますが、当時はまだ一般的ではなく、どうしても治したい場合は、開胸するしかなかった模様)
でも、9歳の頃からの持病だったので、止め方も習得し(本当は危険なのですが、瞼の上を強く圧迫し、一瞬信号を止めて、元に戻すという離れ技)、高校生になる頃には滅多に起こらなくなっていて、油断していました。
その油断が、この病気をYFUの留学プログラムに提出する、健康診断書に記載することを、怠らせました。
でも、今思えば、本当は気になってはいたけれど、その病気が元で、ホームステイ先が決まらないのではないかと、どこかで不安に思っていたのかもしれません。
ある日、その「突然に心臓が凄いスピードで打ち始める」発作が、PEのランニング中に起こりました。
瞼の上を押さえて、自分で発作を止めようと、時々立ち止まる私に、先生は、「Don't stop, Minako !!」と、叫んでいます。
違う、私はサボっている訳ではなく、このロックのようなビートを止めなきゃ、走れないのよ!とは思うが、口で説明できません。
そこで私はその日の帰宅後、辞書でよくよく調べて言葉を選び、発作が起こった時は、それさえ止めれば大丈夫なので、その時は立ち止まらせて欲しいと、手紙を書いて、翌日、先生へ渡しました。
この勝手な行為が、ホストファミリーや日本の家族をも巻き込むちょっとした事件に発展しようとは、知る由もなく…。