見出し画像

Le Labo | NY発の香水ブランドの実力は?

今回はLe Labo(ル ラボ)です。近年話題になっているなと思っていたのですが、なんと2007年に日本に上陸していたんですね。

ル ラボはフランスの大手パフュームブランドで出会ったエディ・ロスキー氏とファブリース・ペノー氏の2名によって、2006年ニューヨークに誕生したフレグランスブランドです。

店内にラボを設けて、注文を受けてからその場で調合してボトリングするそうです。香水の製造過程に透明性を持たせながら、手作業で調香することで、香りの新鮮さを保証していると聞き、興味を持ちました。

ル ラボ 1号店(公式サイトより抜粋)

ニューヨークに続く2店舗目の路面店として東京の代官山を選んだというのは意外です。日本は「香水砂漠」といわれ、香水が売れない市場として世界的に認知されているにもかかわらず。

でも、彼らが代官山をブランドコンセプトにぴったりな街だと確信したというのは、勘が鋭いですね。

シンプルなボトル、特徴的なネーミング、透明なガラスボトルに白いラベル。こうしたミニマルなデザインは、多くの日本人の心を掴むでしょう。それが代官山で話題になれば、日本中に広がっていくことが容易に想像できます。

ル ラボで人気No.1の香りと言われるSANTAL 33

しかし、肝心の香りはどうなのか。それを確かめるために、フラッグシップぽいものを1つ、なるべく香りがかぶらなそうなものを4つ、計5種類のサンプルをオンラインショップで購入しました(当時は800円でした)。そのレビューをお届けします。


Santal 33

香水をひと吹きした瞬間、大西洋を渡る船旅のような目眩を覚える。サンダルウッドの香りが、獰猛な獣のごとく鼻腔に躍り込んでくる。その甘さは想像を超えて強烈だ。かすかに漂うカルダモンの温かみは、ニューヨーカーの心に失われた黄金時代への郷愁を呼び覚ますのだろうか。

謳われたスモーキーさや花々の香りは、この圧倒的なサンダルウッドの奔流に埋もれている。代わりに、クリーミーでミルキーな甘さが摩天楼のように際限なく立ち昇り、他の要素を押しのける。

SANTAL 33は、ニューヨークの魂が結晶化された香水と言えるのかもしれない。ゆえに、ニューヨーカー以外がこの強烈な香りをまとうのは場違いに感じられる。決して付けすぎないこと——これこそが、この香りをまとう者の唯一の選択肢だろう。

調香師:Frank Voelkl(フランク・フォルクル)
香りの強さ:★★★★★
香りの持続時間:★★★★★

The Noir 29

イチジクの葉を思わせるグリーンな空気感が、紅茶の温かみと独特のコントラストを生み、複雑な印象を醸し出す。

都会の喧騒から逃れた山荘での静寂な時間を想起させるこの香り——それは一部の人々には心地よく感じられるのだろう。しかし、肌から漂う紅茶の香りには微妙な違和感が潜み、現実世界への突然の引き戻しを感じさせる。

わずかなシダーウッドの香りが全体を柔らかく包み込み、深みを与えている点は評価に値する。THE NOIR 29は複雑な感情を呼び起こす香りだが、その真価は個人の嗜好に委ねられるのかもしれない。

調香師:Frank Voelkl(フランク・フォルクル)
香りの強さ:★★★☆☆
香りの持続時間:★★★☆☆

Ambrette 9

AMBRETTE 9は、自然界の秘宝を纏う体験を約束するが、その宝石は目に見えぬほどの繊細さを持つ。希少なアンブレットシードと白苔の調和は、忍耐を要する香りだ。

出だしは控えめで、その存在を感じ取るのに苦心する。体温の上昇とともに、アンブレットシードの香りがかすかに立ち昇るが、それは幻のように儚い。存在するのかしないのか、絶えず自問させられる静寂の持続だ。この得体の知れない特別感の真価は、嗅覚の鋭敏さと、ほとんど存在しない香りを追い求める執念に委ねられている。

魅惑的な瞬間と「何も感じない」失望の間を揺れ動く、砂漠の蜃気楼のような体験。その稀有な瞬間を求めて、再び肌に近づけてしまう不思議な魅力を秘めていることは否定しない。

調香師:Michel Almairac(ミシェル・アルメラック)
香りの強さ:★☆☆☆☆
香りの持続時間:★★★★☆

Rose 31

静謐なセンティフォリアローズの香りが、古城の一室に置かれた一輪の花のごとく、控えめながら確かな存在感を放つ。グラースの丘陵で育まれたバラの繊細さが、この香水の魂となっている。

時を経るごとに、バラの香りは徐々に変化し、サンダルウッドの柔らかな木の香りが、バラの印象に深みを加える。やがて、キャラウェイとクミンのスパイシーなニュアンスが顔を覗かせる。しかし、それらはあくまでバラの存在感を引き立てる脇役に徹し、主役の座を揺るがすことはない。シダーの凛とした木の香りが、全体を包み込むように広がり、バラの香りに清澄な印象を添える。

静かな佇まいの中に独特の味わいを見出す者の心に響く一品。その特徴は、時間をかけて香りの変遷を観察する者にこそ理解されるのだろう。

調香師:Daphné Bugey(ダフネ・ビュジェ)
香りの強さ:★★★☆☆
香りの持続時間:★★★★☆

Labdanum 18

薬草を思わせる鋭いラブダナムの出だしに戸惑いを覚えるも、それは長くは続かない。シナモンの温かみが静かに立ち上がり、予想外の展開が始まる。パチョリの土っぽさが瞬く間に現れては消え、樹脂の深い余韻を残す。最後にトンカビーンの甘美な香りが姿を現し、異なる要素が意外な調和を生む。

LABDANUM 18は、魔法の薬を身にまとうかのような体験をもたらす。強烈な個性を放ち、五感に新たな刺激を与え続ける。

そして、体温が上がると、アニマリックなムスクとバニラの香りが前面に。その素朴で飽きやすい甘さは、複雑な構成を霞ませてしまう。香りに驚きを期待する者には至宝だが、肌質によっては慎重な吟味が必要となるのかもしれない。

調香師:Maurice Roucel(モーリス・ルーセル)
香りの強さ:★★★★☆
香りの持続時間:★★★★★

まとめ

実はサンプルを買ったのは1年以上前の話です。レビューを残すかどうか悩んだ初めてのブランドとなりました。

ル ラボのフレグランスを総評するのはかなり難しいです。「香り方には個人差があり、肌質や体温によっても変化する」という、どの香水にも当てはまる注釈をあえて強調しておきたいです。

いくつか感じた疑問について、私なりの見解を記して締めくくりたいと思います。

ル ラボは高いのか

必ずしも「高い」と言い切れないのが、賦香率(香料の割合)です。パルファム並みに高いのです。香料の割合が高いということは、当然価格にも反映されるだろうという推察です。

賦香率と持続時間は比例しないそうですが、Santal 33は1滴で十分に香り、長く肌にとどまる印象がありました。Labdanum 18も同様に持続時間が長いように思います。価格だけ見ると50mlボトルで3万弱は決して安くありませんが、製品によっては長く香るものがある=ボトルが長持ちすると考えれば、むしろ経済的という見方もできるかもしれません。

ただ、シティ エクスクルーシブはどうでしょう。東京限定のGaiac 10は確かに良い香りです。しかし他の作品に比べて格段に良いかと問われたら疑問が残ります。50mlボトルで5万近いのは明らかに高価だと思います。

どこに価値を感じるか

ル ラボの評価において、最も難しいのが価格の妥当性です。

この話には多少の定量的データがあります。香水愛好家のコミュニティとして知られるFragranticaでは、多くのユーザーがLe Laboの価格を、

  • かなり高すぎる(way overpriced)

  • 高すぎる(overpriced)

と評価しています。これは価格に見合う価値があるかどうかという観点での「高さ」を示しています。ストレートに言うと、多くの人が価格に見合わない香りだと思っているということです。

例えばですが、イソップの調香で知られるバーナベ・フィリオンが手がけたGeranium 33(100本限定)が非常に気になりますが、法外な価格で取引されています。かつてデザインに惚れ込んだスニーカーが転売価格でしか手に入らず、スニーカーそのものへ興味を失ったことを思い出しました。

私にとって香水は、もっとシンプルなものです。ファッションと同様に毎日の気分を高め、人生をより豊かに過ごすための生活必需品。希少性は私にとって重要ではありません。欲しいときに正規価格で買えること、そして香りに対する価格が妥当であること。つまり、誠実であることが私にとって何よりも重要なのです。

ル ラボは一流の調香師を起用し、希少で高級な香料を惜しみなく使い、手間のかかる「メイド・トゥ・オーダー方式」を採用して、ユーザー体験と顧客体験を高めています。

結局のところ、ル ラボに魅力を感じるかどうかは、こうしたブランドのこだわりに価値を見出せるかどうかにかかっていると思います。

サンプルは作りたてではないと思いますが、ル ラボの製造工程を鑑みると古くはないと思います

寝かせたほうがいい

その場で作ってくれるフレッシュさがル ラボの特徴ですが、ネット上では「寝かせた方がいい」という話をときどき目にします。「買ってすぐに使えない香水?」と疑念を抱きましたが、アルコールと香料が混ざり、香水として完成に至るには一定の時間がかかると聞くので、次の解説は一定の精度があるように思います。

香水の使用期限は未開封時で約3年と言われているのですが(※保管状況や使用香料により大幅に前後します)、香水店の在庫状況によっては使用期限ギリギリの香水を買わされてしまうことも。ですがルラボは調香師がデザインした香りのレシピをもとに店員さんがその場で香水を作ってくれるので、いつでも新鮮な状態のフレグランスを手にすることができます!
香りが熟成・安定していく1週間~1ヶ月のあいだに、繊細な香りの変化を楽しむことができるのも魅力。

出典:ルラボ(LE LABO)の人気香水おすすめ11選!本物志向の上質な香りたち by カラリアマガジン

作り置きするは経年劣化が避けられないというのと、香りの熟成について触れています。私の経験でも、新品で購入したボトルのバッチコード(製造ロットを示す記号)から製造年月を調べたら、2年前に作られたものだったということが普通にありました。

フエギアのように「熟成」という発想のブランドもあるので、元々の香水の品質が高ければ、古いことは必ずしも悪いとは言えないかもしれません。ただ、フレッシュなほうが気持ちは良い気がします。

寝かせるかどうかは人それぞれだと思いますが、人間には確証バイアス(自分の考えに都合の良い情報だけを受け入れやすい傾向)や期待効果(期待することで実際にその通りになりやすい心理効果)があります。おまじないだと思って寝かせると、プラセボ効果によってより良く感じられる可能性があります。

完全に主観になりますが、ル ラボで1年以上時間をおいたサンプルは当初よりも香り尖りが丸まり、深みと安定感が増したように感じます。

ばらつきは分からない

フレッシュブレンディング対応店舗で、その場で調合する人がどんなに熟練者であったとしても、人間が行う作業である以上、個人差が出ることは避けられないでしょう。しかし、それを消費者が嗅ぎ分けられるかというと、難しいのではないでしょうか。たとえ人によるばらつきが多少あったとしても、レシピを間違えない限り、一般の消費者には分からないのではないかと思います。

そうしたプロセスを採用し「香水の製造過程に透明性を」と謳うなら、その場でフレッシュブレンディングする調合師の姿や調合のプロセスを、公式サイトに記載すれば、よりブランドへの信頼が高まるのではないでしょうか。

以上、ル ラボの紹介でした。個人的にこの価格なら他に欲しい香水がたくさんあります。いくつか惹かれる香りはありました。しかし今のところ、これ以上ル ラボを探索する予定はありません。

いいなと思ったら応援しよう!