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Hermès | H24 EAU DE TOILETTE

このレビューにエルメスが登場するとは予想していませんでした。

世界的ラグジュアリーブランドの代表格であり、レビューも数多く存在します。このnoteでは主にニッチフレグランスを紹介してきましたが、決してラグジュアリーブランドのフレグランスを敬遠していたわけではありません。ニッチフレグランスが続々と出てくるので、手が回らないだけでした。

しかし、ニッチというのは広大な砂漠の中からダイヤの原石を探し当てるようなものです。好奇心を満たしてくれるものの、自分の好みに完璧に合うものに出会える確率はそれほど高くありません。

そんなニッチ探索に疲れていた中で、エルメスに目を付けたのはやはり調香師の存在です。クリスティーヌ・ナジェル(以降、ナジェルと記載)は現在、エルメスの2代目専属調香師ですが、以前に彼女が調香したジョー・マローンのコロンを愛用していました。ならば、調香師起点でメゾンやラグジュアリーを試してみようという気になったというわけです。

15年ぶりのメンズ香水

エルメスの数ある香水の中で、最初に私の目に留まったのは「H24」でした。エルメスが15年ぶりに発売したメンズ香水です。ナジェルが手掛けたこの香りは、従来のメンズ香水のイメージを刷新することを目指したと聞き、その挑戦に強く惹かれたのです。

ちなみに「H24」の「H」はHERMÈS、HOUR(時間)、HOMME(男性)の頭文字であり、「24」は24時間という時の流れ、さらには1880年以来エルメスが第1号店を構えるパリのフォーブル・サントノーレ店の番地、24を意味しているとのこと。

スライドすると「H」が「24」に切り替わるムエット

率直にいって、私はエルメスやナジェルについて、これ以上語れる知識を有していません。とはいえ、このnoteを読んでくれた方のために、私なりにナジェルについて端的にまとめてからレビューに入りたいと思います。

ナジェルについて

出典:Wikipedia

クリスティーヌ・ナジェルはスイス・ジュネーヴ生まれ。化学者として世界最大級の香料メーカーであるフィルメニッヒ社の研究部門に勤めた後、独学で香水の世界へ足を踏み入れます。

フィルメニッヒで出会った調香師アルベルト・モリヤスが香りをテストする姿や、香水が人々の感情を動かす様子に魅了され、調香の道を志しますが、香水の都、グラース出身の男性調香師が主流だった時代背景により受け入れられませんでした。その後、ミシェル・アルメラックの下で調香を学びつつ、クロマトグラフィー責任者として分子レベルでの香りの分析に携わり、香りだけで成分を認識する稀有な能力を身につけていきます。

デビュー作のアランドロン「サムライ」を皮切りに、ジョー・マローン・ロンドンでは20作品以上を生み出し、成功を重ねます。2014年にはジャン=クロード・エレナの後継者としてエルメスの2代目専属調香師に就任。正統的な調香教育は受けていないものの、その独自の才能が認められての抜擢となりました。

以上は、ほぼ下記サイトから得た情報です。ナジェルのこれまでの人生の歩みや考え方が詳しく解説されていますので、ご興味のある方はぜひ一読してみてください。

H24 EAU DE TOILETTE

新緑の季節に摘まれたばかりのスイセンの茎を手に取り、その切り口から滲み出る植物の体液を指先で感じるような青々しさがある。確かに、祖父の洗面台に置かれていた瓶の中身を想起させる懐かしさも漂うが、それは決して古さを意味しない。緑の輝きを纏った現代的な清潔感である。かすかな苦みを帯びた植物の息吹は、都会の喧騒から切り取られた一片の庭園のように、穏やかな充足をもたらす。

時を経るごとに、植物の瑞々しさは徐々にハーバルな落ち着きへと変容してゆく。クラリセージの静謐な佇まいが前面に現れ、深く呼吸を整えると、そこにほのかなローズの残り香が寄り添う。それは花そのものではなく、花びらが散った後の木肌に残された繊細な記憶のようだ。この香りの重なりは、雨上がりの庭園に置かれた白木のデッキチェアに身を委ねているような心地よさを感じさせる。

上質な化粧水が肌に染み入るように、繊細な香りは静かに溶け込み、やがて私のものとなっていった。軽やかでありながら、その存在感は驚くほど持続する。昼下がりのオフィスではさりげない清涼感を漂わせ、夜には寝室の静けさの中で深い安らぎをもたらす、両義的な魅力を持つ香水である。ジョー・マローンのブティックで出会った香りの記憶が蘇るが、より洗練された印象を放っている。春の陽光に寄り添いながらも、四季を通じて愛用できる普遍的な魅力を備えている。

調香師:Christine Nagel(クリスティーヌ・ナジェル)
香りの強さ:★★★★☆
香りの持続時間:★★★★☆

まとめ

ナジェルが調香師を目指したきっかけ、「香水が人々の感情を揺さぶる光景に魅了された」という言葉に強く共感しました。私自身、デジタルプロダクトを通じて人々の体験をより良くする仕事に携わっており、その先にある人々の笑顔が私のモチベーションだからです。

ネットでよく見かける「おじさんのヘアトニックのような香り」という評価は理解できます。ただ、それはムエットでの試香だったり、ミドル序盤までの印象でしょう。そこから先に「E24」の本当の姿、すなわち科学者としてのバックグラウンドを持つナジェルの緻密な方程式と、幾多の困難に挑戦してきた彼女の生きざまが垣間見え、心を揺さぶられるのです。ニッチ探索疲れのつかの間の休息になったどころか、私が求めていた香りがエルメスにあったという発見は、自分にとって新鮮な驚きでした。

つい先日、「H24」シリーズの3作品のうち、最新作「H24 HERBES VIVES(エルブ ヴィーヴ)EDP」を試したくて初めてエルメスの店舗を訪れました。ラグジュアリーブランドにとって、香水はリード商材の一つですが、予想以上に香りについての専門的な会話が難しかったです。香水専門店とは異なる接客であることは理解していますが、再訪することはきっとないでしょう。

そのうちどこかでまた試す機会が訪れると良いですが、ナジェルの調香なら、直接購入しても満足できると信じています。

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