見出し画像

さらっとデザイン史2〜アールヌーボーからアール・デコへ〜

さらっとデザイン史1〜工場制手工業からアーツアンドクラフツ運動まで〜
の続きです。

アールヌーボーの世界

アーツ・アンド・クラフツ運動は国を飛び越えて職人、建築家、工芸家など、様々な人々に影響を与えました。時を同じくして鎖国をやめた日本の文化、ジャポニズムがヨーロッパに流行しはじめたことで、フランスのデザイン様式に微妙な変化が起こりだします。これらの影響は、装身具、家具調度、建築、ポスターに至るまであらゆる工芸品のデザインに及びます。そして、次第に独自に発展し、ベルギーとフランスを中心とし欧米の主要都市でしなやかな曲線と曲面を持った装飾、つまりアール・ヌーヴォーが大流行していきました。アール・ヌーヴォーとはフランス語で「新しいアート」という意味です。花や植物などの有機的なモチーフや自由曲線の組み合わせを新素材である鉄やガラスといった当時の新素材を利用することで表現する等様々な新しい試みがなされています。

画像5

ルネラリックのガラス工芸 写真:JEWELRYJOURNAL

アールヌーボーによる新たな建築表現

建築においても、アールヌーボーというデザイン様式が広く取り入れられていくことになります。

中でもベルギーの建築家ヴィクトールオルタはタッセル邸によってアールヌーボーの代表的建築家としてその存在感を表します。

画像6

タッセル邸 設計:ヴィクトールオルタ(ユネスコ世界遺産) 写真:wikipedia

階段室のある玄関ホールに立つ鉄を露わに用いた柱は、建物の荷重を支えているにも関わらず、ほっそりとし、装飾と構造が一体となってデザインされています。植物の茎を思わせる柱の形態は、床及び壁に描かれた模様とともに流動的な空間を生み出しています。

鉄は当時の素材としては新しく、細やかな表現も可能となるため、「新しい芸術」を表現するのにはもってこいでした。

また、住宅のみではなく、アールヌーボーデザインは地下鉄の駅など公共施設にも用いられていきます。

画像7

Abbesses駅 写真:Merci-Paris.net

また、スペインのバルセロナでは、アールヌーボーを発展させ、独自の装飾芸術を展開させていきます。
その中で最も有名な建築家はアントニ・ガウディです。
現在でも建設が続けられているサクラダ・ファミリアの教会建築はまさにその最たるものではないでしょうか。

画像6

サクラダ・ファミリア 写真:wikipedia
サグラダ・ファミリアは、カタロニア・モダニズム建築の最も良く知られた作品例であり、カタロニアの建築家アントニ・ガウディの未完作品である。バルセロナ市のシンボルであるこの建物は、綿密に構成された象徴詩的なシンボロジーと共に、パラボリックな(放物線状の)構造のアーチや、鐘楼に据えられた自然主義と抽象主義の混在する彫刻などで、大胆な建築様式を誇っている。2004年の統計によれば、サグラダ・ファミリアはアルハンブラ宮殿やマドリッドのプラド美術館を抜いてスペインで最も観光客を集めたモニュメントとなり、2008年には270万人を集めた。 wikipedia

ポスターの黄金時代

アールヌーボーの時代はポスターの黄金時代でもありました。ポスター専門作家の活躍があっただけではなく、画家が正面からポスター制作に立ち向かった時代は、そのあとも類を見ません。

ポスターの黄金時代は、むろんのことフランスに特有のものではありませんでした。それは、新しい年の時代にふさわしい美意識の誕生であり、それに伴うアートへの姿勢の切り替えを意味していました。

画像8

テオフィル・アレクサンドル・スタンラン『黒猫』ポスター 
写真:wikipedia

アールヌーボーからアールデコへ

大流行したアールヌーボーでしたが、時代が移り変わるとともに、やがてデザインの最先端はアールデコへと移行していきます。
有機的なモチーフを曲線的なデザインで表現したアールヌーボーは、モリスの起こしたアーツアンドクラフト同様にとても高価なものとされたのです。よりシンプルで合理的さ、幾何学図形をモチーフにした直線的・記号的な表現が求められていくことにより生まれたのがアールデコです。

デザインの歴史を振り返ると、凝ったデザインがしばらく続いた後にはシンプルなデザインが新しく見え、装飾を削ぎ落としたデザインが生まれるという流れがあります。華美で豪華な装飾を特徴とするバロック時代の終焉からロココとネオクラシック時代への移行にと同じように、アール・ヌーヴォースタイルが世の中を席巻した後、人々は徐々に流線的なデザインから直線的なデザインへと目を向けるようになります。

当時、パリではアールデコはそれほど盛んになりませんでしたが、海を渡ったアメリカで第一次世界大戦時の好景気の影響もあり、大々的に花開きます。
アールデコスタイルの代表的な建築は、エンパイア・ステート・ビルディングクライスラー・ビルディングロックフェラー・センターなどの、いわゆるニューヨークマンハッタンの建築群です。
特にクライスラー・ビルディングはニューヨークマンハッタンのシンボル的な存在で、その美しい外観から、アールデコ建築の最高傑作との呼び声も高い建造物となっています。

画像9

クライスラービル 写真:Archlife

富裕層向けの一点制作のものが中心となったアール・ヌーヴォーのデザインに対し、アール・デコのデザインは一点ものも多かったものの、大量生産とデザインの調和を図ろうとした活動でした。
ただ、アール・デコもまた、装飾ではなく規格化された形態を重視する機能的モダニズムの論理に合わないことから、流行が去ると過去の悪趣味な装飾と捉えられることもありました。従来の美術史、デザイン史では全く評価されることもなかったのですが、1966年、パリで開催された「25年代展」以降、モダンデザイン批判やポスト・モダニズムの流れの中で再評価が進められてきています。

さらっとデザイン史3〜グラスゴー派とウィーン分離派の活動〜

建築に関して様々に情報を配信していけたらと考えています。 興味を持っていただける記事作成のため、ご要望や質問等も随時承っております! 何かありましたらkn@archlife.jpまでよろしくお願いいたします!