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自宅リノベ全記録〜建築家サイド〜(4)レファレンス、スタディなど
自宅リノベーション全記録〜建築家サイド〜の4回目になります。今回はデザインを、どういうレファレンスでどういう風に考えて進めているかをできるだけ書いていきたいと思います。
前回は下記になります。
1. 先行研究
まず、これから何かを設計しようと思うと、すでに設計されているものを調べることから始めます。今回であれば住宅のリノベーション、RCの建物のリノベーションあたりを中心にDIY関係までなるべく関係がありそうな別のもの含めて雑誌やネットなどで探していきます。
①「狭山フラット 」引き算のリノベーション
これはRCリノベを考える上で外せないプロジェクトです。限られた予算の中でほど引き算のみ(床のエポキシは違いますが)で作られています。既存の再利用というだけでなく、特に価値がないと思われていたものをよく見るとかっこいいんじゃないかという価値観を更新するようなものだと思います。この考え方は常に持ってなければいけないなと思わせる設計です。なので引き算とか言って似たようなことをやってしまうと建築家として終わりなのでかなり気をつけないといけない方法だと思っています。
②「神泉のリノベーション」解体材の再利用
震災直後で建築資材の入手が困難な状況を逆手にとってというか、やむおえずといったところだとは思いますが、解体材を利用し運搬費、廃棄代を削減したシンプルなリノベーションは考え方の参考になります。ただ、解体材を利用することはかなり手間が増えるので、単純にお金が安くなったという話というよりは、解体材を使用するコストを自分たちの労働で賄ったということなのかなとは思います。
③「room K」周回型のプランと家具の扱い
この設計は周回型のプランということと、次で説明する「建物か家具か」という切り口で見た時にすごく興味深いと思いました。ここで書いていくと長くなってしまうので簡単に説明すると、棚を建物寄り(壁として)に、建具を家具寄りに設えることで、強い内部の連続性と緩やかな内外の連続性を実現していると思いました。そうすることで、乾さんの言う、支配的でない(建築家の一意的な意図によらない)空間を作っているのかなと思いました。
④「京都市立芸術大学プロポーザル案」セルフビルドのきっかけとなる設え
スキーマの提案として、床にあらかじめ単管を差し込める穴(単管穴)とセパ穴の位置に長押を取り付けて(セパ穴長押)学生のセルフビルドのきっかけにするというものです。コンクリート躯体そのままだと作り始めにくいのでそのような手掛かりになるマイクロストラクチャーを設けること、セルフビルドコアと呼ばれる材料や工具がまとめて置かれている場所をつくるという提案でした。これは、アレクザンダーのメキシカリプロジェクトのビルダーズヤードを参考にしていました。
⑤「house,Coutras」施工の手掛かりとなる幕板(長押)
既製品のビニールハウスを住居にする上で、施工の手掛かりとしてぐるっと幕板を回しています。そしてそれが立面のアクセントとなり無機質な全体にキャラクターを与えていて参考にするところが多い設計です。
他にもいろいろ見てはいますが、結果的に今回の設計につながりそうなものをあげています。どういうレファレンスから今回の案につながっていくか分かると思います。
2. 建物か家具か
僕のデザインを説明する前に、建築の見方の一つを紹介したいと思います。おそらく基礎的な話ですが、3.ではこういう考え方を前提に書いていくので一応説明させていただきます。
建築を設計する上で各部分のあり方を決めていくわけですが、今設計している部分を建物とみなすか家具とみなすかという考え方があります。無理矢理マトリクスにしてみると下記のような感じです。
要するに建物の部分(階段や部屋など)であるけど、意匠的に家具のように見せていたり、家具だけど建物の部分のように見えるような意匠のことです。
具体例で説明してみますと、下記のようなものです。
①は半分ネタだと思いますがトイレ(WC,ウォータークローゼット)をクローゼットとしてみせる。家具度MAXの設えです。②、③は階段を家具化して、後から入ってくる施主のモノと建築をなじませるような役割でしょうか。
④は建物のスケールの小屋的なストックが前に出てきてお店の顔となっています。
⑤は研磨した既存躯体に馴染むようにラワンに制作家具が設置されて既存の建物と一体になっているように見えます。建物に寄せた家具の例です。
僕の考え方としては島田さんの宮本町の家に近いとは思いますが、僕が勝手に思っていることなので実際の意図とは違うかもしれません。
3. 意匠を考える
意匠を考えていく上でのコンセプトは、作ることと作ってもらうことをどう接続していくか。そして、作り、改変していくことを促進するような意匠的、機能的な設えをどう考えるかということになります。そう考えると、すごく綺麗な素材で綺麗に納まっている取りつく島もないようなものではなく、よくあるような素材で、ビス打っても気にしないような寛容さが得られるものが良いなと思ってきます。あとから足す材料もなじむようホームセンターで買える材料で検討します。ラワン、ラーチ、ヒノキ 、シナ、mdf、OSB、パーティクルボード、ハードボード、など考えられますが、材料そのものがこの設計の目的になってしまわないよう、よく使われている素材でシナ、ラーチかラワンを検討し、ラワン合板にすることに決めました。
また、作ることと作ってもらうことの接続点として、工事の進め方が現れてくるような意匠はどうかと考えました。床を組んで、下地を組んで、必要な部分に仕上げ材を張っていくというプロセスが見えて、それがキャラクターとしてかわいく見えてくるようなものを考えます。
①どのような表現にしていくか
次に、どのような表現にしていくかというところでレファレンスを見てみます。
①cafe day / schemata architects 仮囲い的な表現(仮設性の示唆)
出展 : http://schemata.jp/wordpress/wp-content/uploads/3.jpg
出展:https://www.kimuko.net/home/staff/Windows-Live-Writer/ad4928950df1_FC77/IMG_0005_2.jpg
②Papabubble in Yokohama / schemata architects 型枠的な表現(意匠の特徴として利用)
出展 : http://schemata.jp/wordpress/wp-content/uploads/03_PPBB_119B_DC39365S_S.jpg
出展:https://livedoor.blogimg.jp/design_1st/imgs/c/d/cde1d56f.jpg
③Mori Art Museum /
Japan in Architecture: Genealogies of Its Transformation / DDAA
大道具的な表現(裏の表現→表側を示唆)
出展 : http://www.dskmtg.com/work/japan_in_architecture.html
④Mori Art Museum /
Japan in Architecture: Genealogies of Its Transformation / DDAA
家具的な表現(クレート)(移動可能性の示唆、クレートである事の印象の利用)
出展 : http://www.dskmtg.com/work/japan_in_architecture.html
出展:http://sky-packing.com/business.html
⑤山崎町の住居 / 島田陽 下地的な表現(未完成である事の示唆、二次、三次造作に対する寛容性)←ここを狙いたい
島田さんの文章では梱包のような見え方を狙ったと書いてありましたが、間柱の寸法、プロポーションと出隅の勝ち負けを作らない組み方は梱包の意図とは外れているように思います。
出展:https://tat-o.com/projects/745/
出展:https://www.rehome-japan.com/contents/check-piller/
この中で⑤の下地的な表現が工事のプロセスのキャラクター化という部分と相性が良さそうなので⑤の方向性でまとめていこうと思います。ただ、山崎町の住居は裏的な表現も含んでいると思うので、コンセプトが違うため、自然と差別化が図れると思います。
スタディ用CGだとこんな感じです。
②どのような組み方にしていくか
ディテールをどうするかということに近いですが、線材と面材を金物を使わずにどう組んでいくかということは、いくつか選択肢が出てきます。
金物を使っても良いのですが、DIYのしやすさというのは金物を使わず(買わずに)木の組み方でだけでできるということもあると思うので、組み方の意図と意匠との間に乖離が起きてしまうので今回は使いません。
金物を使った組み方はそれはそれでまた検討が必要な部分ですが。
細かい検討項目として、
①x軸壁とy軸壁の勝ち負けをどうするか、
②面材を貼るタイミング
③ピッチ
④天井まで届かせるかどうか
を検討して、
①勝ち負けを作る。玄関側を勝たせて面としても見えるようにする。→面として感じられることでLDKから奥の部分もひとつながりに感じられる。
②2×4工法のようにパネル化したものを組むのではなく、下地を組んだ後に面材を張る→下地同士をXY軸の交点で繋ぐための部材が現れてきて、それが、下地に不規則なリズムを与える。(等間隔だと、その間に新たな部材を挿入しにくい)
③面として等間隔のピッチが現れるように全体を整え、②不規則な部材が入っても全体としてのバランスを保てるようにする。
④天井まで行かせると梁をまたぐ部分が出てきて面としての強度が落ちるので、梁下で揃えるようにする。
というふうに下地的な見え方と組み方を決めていきました。
③キッチン部分の考え方
次にキッチン側のあり方ですが、リビングに面しているためあまりキッチンぽいものにしたくなくて、家具のように見えるように棚部分を設計しています。棚の木口を勝たせた作りで、左側のDIYの棚と造りを合わせています。
ただ、左側と一体的に作りすぎると、家具の集まりというよりは、面を構成する大きな家具と見えてしまわないように、左側の天井まで至る棚、右側上部の棚、右側下部のキッチンという分節が見えるように、意識しています。
④外周部分の考え方
外周部分には、DIYしやすいように長押と巾木を設置します。長押だけだと下部の固定が難しく、上下で前後の垂直が出ていて止められれば左右の垂直を出しやすくなります。また、RC壁の不陸とフローリング部分の調整、ペリメーターゾーンの小物置き場(植物や靴など)などにも使えて建物と雑貨的なものをつなぐ役割になります。長押も同様に棚的な役割、配線を流す場合のガイド、後付けのコンセントタップを設置するために利用します。
長押巾木はDIYのきっかけになるだけでなく、器具や雑貨の拠り所としての役割も担います。
これで、全体の構成として、
①水周りを含むコア部分の構成→下地表現の意匠
②外周部の設え→長押巾木
③キッチンエリアの家具の考え方→家具に寄せた見え方
の方針が決まりました。
実施設計では建具、長押巾木、後付けコンセントなどの詳細を詰めつつ、全体を調整していきます。