一級建築士設計製図試験における要求室の床面積の不適合……「以上」は「異常」にあらず
令和元年以降、合格発表時に「受験者の答案の解答状況」が公表されてきています。この中にある「設計条件に関する基礎的な不適合」のうち、「要求している主要な室等の床面積の不適合」に着目してみようと思います。
「不適合」という以上、採点する際に「適合」と判断するための基準があるはずですので、標準解答例からそれを探ってみます。ただし、標準解答例は全てが模範的であるという前提のものではないと思われますので、探れるのは基準というより目安と言った方がいいかもしれません。
したがって、解答例で計画している床面積の大きさが、全て減点なしということにはならないかもしれないという認識をもっておく必要はあります。
「要求している主要な室等の床面積の不適合」が答案に見られたと公表されている令和元年(10月13日実施)、令和2年、令和3年、令和4年の本試験問題とそれぞれの標準解答例①②を対象として見ていきます。
また、「主要な室等」とありますので、欠落によりランクⅣとなる室等に対象は絞ることとします。
1.まず「約◯◯㎡」という要求について
「約◯◯㎡」と要求される床面積◯◯の「-10%~+10%」が目安であるというのは、20年以上前から言われてきていることです。しかしながら、「合格基準等」が公表されるようになった平成13年以降でも、「約」の適合範囲が明確に公表されたことはありません。
以下に、要求室とその床面積の要求(適宜以外)に対する標準解答例①②で計画された床面積をまとめています。
上記を見てみると、-10%~+22.5%となっていますので、+側の目安に注目してみます。
床面積が大きい室では、令和2年「地域交流スペース」の+14%(+14㎡)が最大になります。小さい室では、令和元年「荷解き室」の+22.5%(+4.5㎡)と+20%(+4㎡)、令和3年「消火ポンプ室」の+20%(+3㎡)があげられます。
-側の床面積の適合範囲は、これまで言われてきている通り、-10%までが目安になりそうです。
+側については、標準解答例の19例(室)を以下に分類してみます。
・~10%:13例
・11~20%:5例
・21~30%:1例
室の大小にもよるところはありそうですが、+10%まで又は+20%までが目安になると捉えることもできそうです。
上の目安は、基準が公表されない限り、「約」の採点上の適合範囲として断定ができないところです。「要求している主要な室等の床面積の不適合」を「設計条件に関する基礎的な不適合」の一つとしている以上、本来、採点上の「約」の適合範囲は明らかにすべきところだと考えますが……
そんなこともあってのことか……
令和4年の本試験では、「要求室」「その他の施設等」とも、床面積・面積の要求を全て「以上」とした出題にしています。たまたまそう試みたのか、令和5年以降も同様としていくのか、この点はこれからの経過を見ていくしかありません。
2.では「◯◯㎡以上」という要求について
「約」よりも「以上」の方が、床面積に不適合があるか否かが明白であることは、否定する必要のないところです。
また、「100㎡以上」という要求に対し、-100%(0㎡)は要求室が計画されていないこと(欠落)になり、ランクⅣと判断される対象になります。
これに対して、-50%(50㎡)と-5%(95㎡)はともに基礎的な不適合に当たると思われますが、同じ減点になるのか?……減点の度合いに差をつけているのか?……この点には、やはり憶測が残ります。
床面積の不適合があったと「受験者の答案の解答状況」がはじめて公表された令和元年の本試験において、「200㎡以上」と要求された「多⽬的展⽰室」を196㎡で計画して合格していた⼈も実際いますので、減点の度合いに差はありそうだとの推測はできそうです。
上記の通り全て「以上」で計画されているのは当然として、最大を見てみると、「要求室」では令和2年「デイルーム」の+38.7%、「その他の施設等」では令和3年「屋上庭園」の+194%となっています。
「約」と同じ様に標準解答例の「要求室」24例と「その他の施設等」10例を以下に分類してみます。
<要求室>
・~10%:13例
・11~20%:6例
・21~30%:4例
・31%~:1例
<その他の施設等>
・~10%:1例
・11~20%:1例
・21~30%:0例
・31%~:8例
「以上」とは言え「要求室」の場合、「約」と同様+20%まで、さらに事例から+30%までが目安になると捉えることもできそうです。
これに対し「その他の施設等」の場合は、+30%以上の事例が多く、「要求室」と比べ「その他の施設等」の方が、自由に計画できる余地が大きいと言えます。
「以上」を満たすことは当然のこととして、特に「要求室」の場合は上限についても、バランス感覚をもった判断が試されているとも考えられます。
たとえば10㎡以上と要求される常駐1人の「管理人室」を100㎡で計画していても、「以上」という日本語に対する点では基礎的な不適合には当たらないのかもしれません。
しかしながら、「以上」も度が過ぎると「異常」になりますので、採点者は「管理人室」で抱いた違和感を引きずりながら他の部分を色眼鏡で見てしまうことにもなりかねません。
そもそも、フロア全体の床面積を考えれば、「管理人室」を配置するようなゾーンに100㎡のスペースが確保できてしまうということは、フロア全体の空間構成におかしなところがあると思われます。
こうした室が大き過ぎるなどの異常な事態が生じた場合は、空間構成に問題が発生していることの黄色信号であると、認識しておくことは必要だと思います。床面積の不適合という観点からの減点はなかったとしても、空間構成という観点での減点があるかもしれないということです。
3.「%」だけでは適否を測れない小さい要求室
欠落していてもランクⅣとならないものなので、主要な室には当たらないかもしれませんが、令和元年の約15㎡の「ポンプ室」が+40%(+6㎡)であったこと、令和4年の10㎡以上の「管理人室」が+59%(+5.9㎡)であったことにも着目しておきます。
共通点は小さい室であることです。そして「%」は大きくなっていますが、ともに+6㎡程度です。
21㎡の「ポンプ室」と15.9㎡の「管理人室」は、「異常」とも言えないところがあり、「%」だけでは適否を測れないところの表れだと言えます。
こういった点は、1.で述べた小さい室(3室)にも言え、+20%代ではありますが、3室とも+5㎡以内となっています。
4.適切に計画すること
「以上」というのは「下限値つき適宜」であるとの解釈をしておくと、適切な計画に繋がっていくのではないかと考えます。
「下限値つき適宜」(適切に計画すること)とするなら、2.で述べた通り+0%~+20%まで又は+30%までが目安になると言えそうです。
条件として示される「◯◯㎡以上」の「◯◯」は、その室の機能から想定された適切な大きさであると考えておく必要があります。
「以上」が「約」と明らかに異なるところは、「◯◯㎡以上」に対し、これに満たない床面積や面積しか確保できていなかった場合は減点すると、受験者も納得できる明確な基準が示せることです。
ただし、確保できていない程度により、減点に度合いがあるのか否か、その詳細は推測の域を出ることができません……
あえて憶測を残し続けるのが、一級建築士設計製図試験の特徴である!
これは憶測なしで言えそうです。
*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。