見出し画像

伊志嶺敏子さん vol.01

1.いきさつ

 きっかけは『沖縄島建築』(トゥーヴァージンズ刊)という本の出版に関わったことだった。『沖縄島建築』では著名建築の紹介が主軸ではなく、沖縄建築とそこで生活する人に焦点を当てた内容だ。テーマや紙面の都合もあって、建築設計に関わる人々を書籍内で紹介することができなかった。個人的にその不足を補おうと思い立ち、2020年11月から2023年2月にわたってタイムス住宅新聞紙面にて『フクハラ君、沖縄建築を学びなおしなさい』という連載を計18回続けた。沖縄建築に貢献している先輩方を訪ねて、私自身が学びなおす過程を読者にお届けする企画だ。

 近代建築の巨匠ルイス・カーンが建築家としての名声を得たのはやっと50歳代になってからだったという。建築界では30~40歳代でもまだ若造という認識だったりする場合があるのだ。そんな若造が沖縄建築の監修とは何事かと叱られるつもりで先輩方を訪ね歩いたのだが、皆さん好意的だった。「この馬鹿もんがっ!」と罵倒されるようなこともなく取材させていただいた。

 その後、これらの中間まとめのような位置づけの記事として『建築ジャーナル 2023年5月号 No.1342 特集:沖縄建築の半世紀』にて「米軍統治時代の沖縄建築を支えた人々」を寄稿したりもした。

 何かしら活動して、その結果を振り返ってみると自身の不足が目についてしまう。連載で紹介した沖縄建築の先輩方がみな男性であり沖縄の女性建築家を紹介しきれなかった。他にも、紹介する内容が沖縄本島にまつわる建築に偏ってしまっていることなどだ。まったく考えていなかったわけではないのだが人選や場所的な都合などの問題もあって、取りこぼしてしまっていた。そんな反省から、上記の条件を満たしている人物として宮古島で活躍されている建築家・伊志嶺敏子さんに取材を申し込んだところ快く引き受けていただけた。ちょうど伊志嶺さんは2022年に南山舎より『閉じつつ開く――暮らしの中に風土を読み建築に翻訳する』という単著も出版されたところだった。実はこれまで宮古島を訪れたことが無かった私が沖縄を学びなおす場所としてうってつけだろう。そう独りごちながら、特派員はウェブブラウザで宮古島行きのチケットをポチッとするのであった。

 本連載は、2024年の2月8日から11日にかけて宮古島に滞在して伊志嶺敏子さんの話を伺った内容をまとめた記録だ。『フクハラ君、沖縄建築を学びなおしなさい~next~』みたいな続編のつもりで読んでいただきたい。

今回の連載で紹介する建築家・伊志嶺敏子さん

目次

1.   いきさつ
2.   情念的か、構造的か
3.   平良団地
幕間:宮古の夜
4.   幼少期と父母
5.   宮古島を離れて本土へ
幕間:ネフスキーにムナイする
6.   宮古の風土を翻訳する
7.   閉じつつ開く
幕間:宮古のお墓
8.   環境共生住宅
9.   省エネって何だろう?
幕間:ぶばかり石(人頭税石)と向き合う
10.   皿を洗うように設計をする
11.   あとがき及び謝辞
   参考文献

※毎週金曜日あたりに次の章をアップする予定です。
※幕間の章のいくつかは、本編の話から少しズレた内容のため、試験的に有料記事にする予定です。御支援のつもりで投げ銭いただけますと幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?