伊志嶺敏子さん vol.11
8.環境共生住宅
2009年より環境省の「21世紀環境共生型住宅のモデル整備事業促進事業」によって、極寒地や蒸暑地の全国20の自治体において省エネのモデルとなるエコハウスを設計し、建築して効果を確認する事業が実施された。蒸暑地として選出された宮古島市においては、伊志嶺さんが設計を勤めることとなった。
「事業の要望としては省エネ推進のモデルとなる1棟を建てるのに1億円使いきるような内容でした。ところが、沖縄で皆がそこまでお金をかけて建てることは現実的ではありません。エコハウスは普及性が肝要です。ローコストになるように配慮して、市街地型と郊外型の2棟を提案しました」
この事業によって伊志嶺さん設計により建築された環境共生住宅は、現在、宮古島市役所によって管理されている。環境共生住宅を広く知ってもらうため事前手続きをすれば一般の人も宿泊できる。市役所での対応が必要なため、土日祝日はチェックインおよびチェックアウトの手続きができない等の注意は必要だが、宿泊を通して宮古島の気候風土と建築について学び考える機会になるだろう。
そう考え、私も予約したのだけど日程が土日を挟んでいたこともあって市街地型に一泊しかできなかった。蒸暑地対応型として計画されているので、私の訪れた二月はシーズン外でもあった。宮古島市の繁華街である西里大通りのすぐ近くに市街地型は建っていることもあって、夜遅くまで飲んで酔っ払っての就寝だった。自身の身体の温熱感覚を通した体験によって、環境共生住宅を理解できればと思っていたのだが、私の旅程計画的に至らないところが多かった。反省である。次は夏に訪れる機会を作りたいと思って、市のエコアイランド推進課のエコハウス担当に尋ねてみたら「夏は予約が多いのでお早めに」とのことだった。利用を考えている方は参考にされたし。とはいえ、市街地型、郊外型ともに、伊志嶺さんにお話を伺いながら見学することができた。
市街地型は、繁華街の近くにあり、敷地的ゆとりの少なく間口の狭い環境下でのモデルとなっている。こういう環境下では閉鎖的になりがちだ。市街地型では妻側の玄関部は広めの土間スペースを持ち、木製戸と木格子戸が二重に設けられている。内側の木製戸だけを開放させて風を取り入れられるようになっている。全面を花ブロックで覆われている建物側面部は、キッチンやユーティリティ背面の管理通路となっていて、こちらも適度に風と光を取り込み、歩行者の視線を遮るバッファーゾーンになっている。他にもリビングの吹抜けや壁下の窓など、季節に応じて風向の異なる風をとり入れられるような配置だ。屋上には独自開発した遮熱材を塗布したベンチレーションブロックを敷設しており、これがかなり効果的だったそうだ。
ベンチレーションブロックは、屋根コンクリートスラブに日射が直接当たり蓄熱するのを防いでくれる保護ブロックで、花ブロックと同様、沖縄では以前から使われているブロックだ。ブロックと屋根スラブの間にバッファーとなる通気層ができるので、ここから熱を逃がすことが期待されている。さらに、ブロック表面に塗布された日射遮熱材は、カルシウムペレットと白セメントを混ぜたモルタルで、このプロジェクトのために独自開発された。このカルシウム分を粒状にしたカルシウムペレットについては少し説明が必要だ。隆起した琉球石灰岩からなる宮古島の水はカルシウム分が多く硬度がかなり高い。そのままでは飲用にも適さず水道管の腐食にもつながるために浄水場では硬度低減処理を行っている。その硬度低減処理の副産物として得られるのがカルシウムペレットだ。触れると少しひんやりとすることから冷却効果を期待して取り入れたところ、真夏のアスファルトのような火傷しそうな熱さから素足で歩けるほどになるのだという。
郊外型は宮古島南部の城辺町友利集落のコミュニティセンター近くにある。二棟を深い庇で囲ってつなげたような構成だ。庇の下で農作業後に手足を洗い、地域の人々含めて大きな木製テーブルで涼むなどができる半戸外の土間空間が魅力的だ。土間を介して離れ空間を持っており、高齢祖父母の同居や農作業小屋などが想定されている。躯体は鉄筋コンクリート造だが、屋根は木製小屋組みで赤瓦葺きだ。屋根下地は二重になっており通気層が設けられている。さらに開放的な縁側の天井は通気格子が設けられ、小屋裏に熱気が籠らないよう工夫されていた。