【支援先インタビュー】ZAICO、創業8年目で迎えた初の外部資金調達の舞台裏(前編)
クラウド在庫管理システムを開発するZAICO社は、2024年11月6日にシリーズAラウンドで3億円の資金調達を発表しました。今回は、同社CEOの田村壽英氏とArchetype Ventures(アーキタイプベンチャーズ)の野村美紀氏が対談し、資金調達の背景やZAICO社の未来について語りました。
本対談は、前編と後編の2回に分けてご紹介します。前編では、ZAICO社の創業の秘話からATVの新しい投資スタイルまでを、後編では、なぜATVから出資を受けたかについての内容です。
なぜZAICO社を始めたか?
ー実家の倉庫業への思いとfreee時代に得た顧客からの声
Archetype Ventures(以下、ATV):まずは、それぞれの自己紹介をお願いいたします。
野村美紀(以下、野村):ATVの野村と申します。5年ほど前から投資チームに参画をしています。元々は、ATVの1号ファンドの出資先のスタートアップに所属し、卒業のタイミングで声をかけていただきジョインしました。ゼロイチに関わるところがすごく好きで、ATVの起業家と一緒に事業に取り組むという姿勢が自分にかなりフィットしています。また、自分で事業をやりたいという思いも非常に強かったので、2年前に米国で食関連のビジネスを立ち上げ、事業家として活動しながら、投資家としても活動を続けています。領域としては、自分が食ビジネスを手掛けていることもあり、フードテック関連や、食事業者ならではの課題を解決するスタートアップをメインに出資をしています。
田村壽英(以下、田村):ZAICOの代表を務めています田村と申します。私は理系の大学を出た後、大手システムインテグレーターで4年間、主にエンジニアから簡単なマネジメントまでやっていました。その後、クラウド会計のfreeeに、まだ社員が数名しかいなかったときに最初はエンジニアとしてジョインして、プロダクトリード、プロダクトマネージャーの仕事を約4年間してきました。またその間に、私の実家であり、山形県米沢市にある小さな業務用倉庫の株式会社田村倉庫、の手伝いもしていました。
ATV:ZAICO社についても教えてください。
田村:ZAICO社は、freeeで働いた後、2016年の暮れに創業した会社になります。当社はクラウド在庫管理ソフトを展開しており、前述した株式会社田村倉庫が創業のきっかけです。当時、田村倉庫では在庫管理に大きな課題を抱えていました。私は長男なので、もしかしたらこの会社を継ぐかもしれないと思った時に、この状態で渡されるとかなり厳しいなという感覚がありました。遅かれ早かれ自分が直面する問題になるのであれば、自分の持っているスキルや知見を生かして早めに何か取り組もうと思いました。そこで、まずは課題である在庫管理をしっかりしようとし、ソフトを作り始めたのがZAICO誕生のきっかけになっています。
元々のZAICOの狙いは、もちろん業務効率化もありますが、在庫管理ソフトを無料で配布することによって、田村倉庫のお客様のリードを増やそうとしたんですね。倉庫を使う人が誰かと考えたときに、倉庫に預けるほどの荷物を持っている人なので、在庫管理をするだろうという仮説がありました。この在庫管理ソフトを無料で配って、その収集した情報を活用して山形県の倉庫に預けられたり、ソフト上からも入出庫ができることを構想して作り始めました。つまり、現場で使ってもらえないと構想自体が絵に描いた餅になってしまうので、現場の従業員の方がしっかりと使いこなせるソフトウェアにすることを第一優先にしました。ZAICOは、機能をシンプルに絞り、基本的な動作が簡単にできてわかりやすいことを優先して、開発してきました。機能が少ないというと語弊がありますが、在庫管理に関する一つ一つの動作がシンプルかつ、自動化されるようなプロダクトを作っています。
ATV:freeeでのご経験や、テクノロジーの進化が家業の倉庫業と親和性があるかもしれないと思うきっかけは何かあったんですか?
田村:「在庫管理」という分野を何のきっかけもなしに選んだかというと、間違いなく選ばなかったです。理系の大学を出て、ソフトウェアを作ってきてリアルビジネスに関わる機会があまりなかったので、思いとして実家がきっかけになったというのはかなりウェイトを占めています。ただ、創業のきっかけや、そのテーマにどっぷり浸かる理由としては、それだけではなくて、実際に、世の中のお困り事がどれぐらいあるかという手触り感もすごく大事です。
前職ではクラウド会計や、人事労務を中心にやっていて、リアルビジネスのところはそこまでやっていなかったのですが、お客様から要望が沢山来るんですね。会計ができるのであれば、それに関連するリアルビジネスのモノの管理や、そのモノの会計上の評価をやれるようにして欲しいという声を、プロダクトマネージャーというポジションだったのでよく耳にしていたんです。在庫管理という古くからある分野ですが、freeeでのお客様の声や家業への思い、さらにこの分野ではまだソフトウェアによる効率化や仕組み化がほとんど進んでいないといういくつかの要素の重ね合わせで、このテーマを選んで創業しました。
自己資金での経営から外部調達を目指した背景とは?
ーお客様の声で気付かされた、ツールを超えたプロダクトの価値
ATV:2016年末の創業から長らく自己資金で経営されてきて、なぜ外部資金を調達しようと思ったのですか?
田村:創業から今までの経緯をお話しすると、創業直後に妻の転勤で伊豆大島に4年間住んでいました。在庫管理ソフトを作り始めて、ちょっと良いツールとして一定人気が出ている状況に満足していました。自然とユーザーも増えて、アカウント数が約7万まで伸びた時期が、ZAICOのゆっくりと成長した第1章になります。
東京に帰ってきてから第2章が始まり、在庫管理ソフトが認知を得たことで、いろんな人と会う機会が自然と増えました。前職の同僚だったり、他の企業の社長さんだったり、ZAICOのお客様だったりと様々です。そういった方々から、「ZAICOは非常に良いプロダクトで、まだまだ可能性がある。もっと本気で取り組めば色んなことができるんじゃないか」というフィードバックを度々いただいていました。そうすると徐々に気持ちの変化が出てきて、これだけZAICOが世の中に認められ、ちゃんと売り上げが立てられているのは幸運なことで、これに甘んじているのは良くないという思いが芽生え始めました。今までも、ベンチャーキャピタルの方や事業会社から出資のご提案はありましたが、ちょっとした在庫管理ツールを売っただけでは、上場はできないし、急成長できないだろうという感覚があり、全てお断りしてきました。
しかし、ある時、お客様の展示会で「人が辞めちゃって人手不足なんですが、この在庫管理ソフトがあれば事業が回りますね」というお声をいただいたんです。もちろんこういったお声は以前から聞いてはいたものの、至るところから同じようなお声を頂くことが増え、その時にこのソフトは、単なる業務効率化ツールではなく、人の代わりの価値を発揮できることを改めて、自分で認識し言語化できました。そうなると、ソフトの値段が1000円とか3000円の世界ではなく、月額20万円〜というような対人件費の価値を訴求することができると思い直しました。せっかくこんなチャンスがある大きな市場で、自分たちの立ち位置も決して悪くはないと思った時に、しっかり資金を入れて、グロースさせないないのはもったいないという思いが大きくなりました。それが今回の資金調達をお願いした一番の動機になります。
ATV:資金調達活動の中で、ATVをどのように知っていただいたのですか?
田村:投資検討していただいていた他のベンチャーキャピタルの方に、BtoB領域で非常に良いVCさんがいますよとご紹介いただいたのが最初のきっかけです。
ATV:美紀さんは、どのタイミングで田村さんやZAICOのチームにお会いされたんですか?
野村:ATVのチーム内で投資仮説について議論する場があり、自分の食ビジネスの中で大きな課題である在庫管理や物流について触れたところ、弊社の福井がちょうど田村さんにお会いしたばかりのタイミングでZAICO社の話があがりました。私も一緒にお話を伺いたいと思い、今年の6月に初めてお会いしました。そこから急ピッチに進んでいった流れです。
お互いにどんな印象を持ちましたか?
ー「大変な時でも長くお付き合いできそう」(田村)
ー「落ち着いている一方で、独特の言葉遣いや遊び心を感じさせる方」(野村)
田村:資金調達活動の中で、VCさんによって様々な色があるなと思いました。まだうまく言語化できていないですが、ATVは自分と波長が合うなと思ったんです。もう少し別な言葉に変えると、大変な時でも長くお付き合いできそうというのを直感ベースで感じました。もちろんシンプルに優しいだけではなくて、事業に対して言うことはもちろん言う。事業を伸ばすことに建設的に寄り添ってくれる雰囲気をすごく感じました。それは事業に対する質問の内容だったり、様々なやりとりの中で感じて得た印象です。事業の方向性やビジョンについて、特に深掘りして聞いていただけた点が印象に残っています。
ATV:美紀さんはどうですか?
野村:独特な世界観を持った方だなというのが最初の印象です。落ち着いている一方で、独特の言葉遣いや遊び心を感じさせる方だと思いました。それでいて、一つ話し始めるとどんどん議論が進むので、そういう意味で波長が合うとはまさにおっしゃっていた通りですね。議論のテンポが一緒で私達もすごくワクワクすると感じています。長く事業をやっていらっしゃるので、自分で培ってきたものへのプライドがあったり、変わることへの恐怖があったりするケースも多いと思うのですが、そこがすごくオープンな方です。
ATVとして、新しい投資スタイルへの挑戦とは?
ー投資後の初速を作るためのブートキャンプ形式のセッション
野村:私と福井は一緒に働いて5年目となり、一緒に投資する件数も結構多いのですが、今回は、新しい投資スタイルだと2人で話しています。ZAICOを見たときに、これまで長く事業を続けてきてトラクションもある分、成長が地続きになってしまうかもしれないので、今、私達が考えるべきことは伸ばす角度を作ることだと思いました。どうやって進化していくか、どれぐらい早くできるかという意味で、初速を作るところが一つポイントでした。ZAICO自身が進化できるか、そして私達のバリューアップのやり方を進化させられるかという2つのチャレンジがあると考え、私達としては意識的に各分野のエキスパートの方々をお繋ぎし、短期間で集中的に壁打ちを繰り返すブートキャンプ形式のセッションを、1〜2週間の間ですごい数をやっていただきました。
ATV:ブートキャンプって、どんなものだったんですか?
田村:他のベンチャー企業の社長さんや、各方面の専門家の方にZAICOの課題をぶつけてそれに対してフィードバックをいただくというのを、短期間で繰り返していました。
野村:そうですね、10名くらいとそれぞれお時間作っていただいて、Product-Led Growthやプライシング設計、営業や広報戦略、採用といった各専門家と課題の炙り出しや鬼のような質問を浴びる場を設けました。
田村:それが非常に良かったなと思っていて。自分たちが変化するためには、自分たちができてない部分を知ることができたのが一番大きかったです。自分たちの課題意識が明らかになり、かつ重み付けされていった感覚です。そういう機会をいきなりふんだんにいただけたのは、自分の行動変容に少しずつ繋がり、非常にありがたかったです。
以上、ZAICO社の田村氏との対談インタビュー(前編)でした。
17万社以上に導入されるクラウド在庫管理システムを開発するZAICO社の誕生秘話や、外部資金調達に踏み切ったエピソードなど田村氏の創業初期の様子を知れる内容が盛りだくさんでした。後編では、実際になぜATVとして投資したかや、ZAICO社がATVを選んだ理由について深掘りしていきます!
ZAICO社、採用強化中!
ZAICO社は、今回の資金調達を受けて採用を強化していきます。ぜひ採用ページをご覧ください!
起業家の方へ
ATVの投資チームとの面談をご希望の場合、こちらからDMください📩