【スペイン】コバルビアスの塔
場所:コバルビアス (Covarrubias)、ブルゴス県
時代:10世紀
マドリードから北上し、ブルゴスの手前にあるレルマという町から東へ向かう山道を進むとコバルビアスの町がある。調べてみると、人口はたった600人足らずというが、アルランサ川の渓谷にあって、中世そのままの町と周辺の豊かな自然が非常に美しい場所である。
歴史的には、青銅器時代から始まってローマ時代、そして西ゴート時代の遺跡が発掘されているが、町を有名にしたのはフェルナン・ゴンサレス(910年ごろ~970年)が活躍した10世紀になってから。彼はカスティーリャ王国の基礎をつくった家系の始祖で、当時ムーア人に支配されていたイベリア半島でキリスト教国を回復すべく、他のキリスト教国であるレオン王国などと同盟を結び、ともに戦った。ここには2002年10月と2005年9月の2度訪れているが、先述のとおり町の美しさから、また行きたいと思っているし、周辺にある西ゴート時代の教会を巡る拠点としても便利の良い場所だと思う。
コバルビアスの塔
10世紀に遡るモサラベ様式の建築で、カスティーリャ初の要塞建築とされている。塔の名は、建造者にちなんで「トレオン・デ・フェルナン・ゴンサレス」、またはその娘にちなんで「トレオン・デ・ドニャ・ウラカ」と呼ばれている。この塔ができる前には、この場所にローマ時代の塔があったと伝わっている。塔は重厚な石造りで無駄な装飾もなく、非常にシンプルな戦闘的要素を持った建物で、まさに難攻不落の要塞といった様相を呈している。ヴァイキングの襲撃に備えたアイルランドのラウンドタワーの如く、この塔への入口は1つしかなく、また敵の侵入を防ぐために高さ15mの位置に設けられており、梯子を引き上げてしまえば外からの侵入は非常に困難となる。
伝説によると、娘のウラカが父フェルナン・ゴンサレスが画策した政略結婚に反して羊飼いの青年との禁断の恋に陥り、そのため父からこの塔に監禁されたという話が伝わっている。
コバルビアスは2度訪れたが、塔の敷地内へ入る門は固く閉ざされており、残念ながらまだこの塔の中は入っていないので、次回は必ず中も訪れたい。現在は塔を見学するツアーがあり、中は古代から中世の兵器などが展示されているらしい。
サンコスメおよびサンダミアン教会
現在の教会は15世紀に、それまでにあったロマネスク教会の上に建てられたもので、現在も演奏されているカスティーリャ最古の、17世紀のオルガンがある。この教会には別の場所から改葬された、フェルナン・ゴンサレスとその妻サンチャ・デ・パンプローナ、娘ウラカ・フェルナンデスなどの王族が埋葬されている。
伝統的な家屋
15世紀から16世紀ごろに造られた、荒削りの黒い木枠とレンガの上に塗られた真っ白い漆喰のコントラストが美しい、この地方独特の建物。軒が張り出して歩行者の日除けになっている。軒を支える柱は木製もあるが、古代の石柱をリサイクルしているものもある。ここでは街角のゴミ箱も建物に溶け込むデザインになっている。
石壁と門
10世紀から13世紀にかけて建造された、コバルビアスを囲む石造りの壁の一部が残っている。16世紀にこの地方を襲った疫病によって、町の中の通気を良くするため大部分の壁が破壊された。石壁には本来3つの門があったとされ、現在残っている門は1575年に造られたもので、かつては市庁舎として利用されたが、現在は観光局や図書館が入っている。