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【アルメニア】アンベルド要塞
場所:アラガツォトゥン県
時代:7世紀~10世紀
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首都エレバンから北西に約50km、アラガツ山の南斜面の標高約2100mの険しい崖の上に、中世のアンベルド要塞が建っています。そこへ通じる道は、山々を通る曲がりくねった一本道で、雪に覆われる冬はおそらく行くのが難しいと思います。この場所は石器時代の集落として始まり、青銅器時代からウラルトゥ時代にかけて城塞が存在したことが知られています。現在残っているアンベルド要塞の壁面の一部は、7世紀に遡る貴族カムサラカン家(イランの七大家の一つであり、パルティア起源のカレン家の分家であるアルメニア貴族)の離宮のものです。
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その後、この要塞は別のアルメニア貴族パフラヴニ家のものとなり、グリゴール・マギストロス・パフラヴニの写本の記録によると、11世紀の領主ヴァグラム・パフラヴニはアンベルド要塞を強化し、彼にちなんでヴァフラマシェンと名付けた教会をすぐ側に建てました。ヴァフラマシェン教会の碑文には、1026年に建てられたという記述があり、ほぼ完全な状態で残っています。教会の建築は要塞全体と同様にシンプルな造りで、南側の扉だけが精巧なディテールとなっています。
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アンベルド要塞の壁は、巨大な玄武岩のブロックをモルタルで固めて作られており、攻城兵器から守るために場所によっては壁を4mもの厚さにしています。現在の要塞は廃墟ですが、建築の基礎部分といくつかの壁が保存されています。このように要塞は優れた防御力を備えていましたが、11世紀末に中央アジアからやって来たセルジューク朝の侵略を受けました。その後13世紀には、モンゴル帝国によって占領され破壊された後、20世紀になって考古学的発掘や補修が始まるまで、放置され、手つかずのまま残されていました。
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要塞の考古学的調査によると、浴場の遺跡と川に通じる多数の地下通路が発見されており、かつての給水システムがあったことがわかっています。また城の内部は3階建てで、3階には王族のための居住区があり、部屋は非常に豪華で、優雅な彫刻が施された装飾、オイルランプ、香炉、絹や錦で飾られた壁などがあり、それらには青銅、金、銀の装飾が施されていたことがわかっています。しかし、アンベルド要塞での最も興味深い発見は、12世紀に遡って食べられていたラヴァシュ(アルメニアの薄焼きパン)が発見されたことでした。
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アンベルド要塞はアルメニアで人気の観光地で、コーカサスに残る代表的な中世建築のひとつですが、ヨーロッパの建造物で最も危機に瀕している建物のひとつでもあり、老朽化や補修のための資金不足、長年風に晒されたことによる浸食と地震のため、近い将来倒壊する恐れがあると言われています。アルメニアには2022年10月に訪れましたが、このような古城や教会史跡は首都エレバンから離れた地方にたくさん残っています。残念ながらアルメニアでは、日本で発行されるジュネーブ交通条約の国際運転免許証では運転できません(隣国ジョージアは運転可能です)。よってアルメニアでは、Viatorなどのツアーに申し込んで史跡巡りをしました。レンタカーや公共交通機関で行けばもっと安上がりだったのかもしれませんが、欧米と違ってもともと物価は安いほうですし、時間的な制約も考えれば、地方へはツアーを使って訪れるのもよい方法だと思います。