【ドイツ】ロルシュ修道院
場所:ロルシュ、ヘッセン州
時代:8~9世紀(カロリング朝)
ロルシュ修道院(Kloster Lorsch)の歴史は、764年以前にこの地の領主であった貴族が建設した聖ペテロに献げられた教会が始まりと言われ、764年以降修道院に拡張された後、ローマ教皇パウロ1世から聖ナザリウスの遺骨を譲り受けたことがきっかけとなり、各地から大勢の巡礼者が訪れるようになって、政治的影響力を持つようになりました。ニーベルンゲンの歌の伝説では、4世紀末にブルゴーニュ王の妃がここに修道院を設立したとされています。771年以降は、巡礼者の増加による修道院の発展とともに、周囲の貴族や司教から攻撃されることが多くなり、ついにシャルルマーニュ大帝の保護下に置かれることになりました。そして876年に国王ルイ2世が死去した後には、東フランク王の埋葬地となり、また地元の貴族らによる寄進のおかげで、11世紀末まで修道院は所領を拡大していきました。1232年にはマインツ大司教区に組み込まれ、修道院には中世で最大といわれる図書館のひとつが附属していました。当時の書籍は、現在世界の73の図書館に残されており、古代ローマ以降に現存する最古の医学、薬学の写本として知られています。
しかし1556年になると宗教改革が導入され、1564年には修道院はついに廃止されるに至りました。その後17世紀の三十年戦争で灰燼に帰してしまい、何と破壊された修道院は採石場となってしまったそうです。今では修道院そのものはすっかり廃墟になって、広い敷地の中に石の土台部分が残されているにすぎません。それでも現在にまで残った遺構としては、9世紀に建造された「王の門」と呼ばれるかつての楼門と、11世紀の教会の一部を見ることができます。特に王の門は、ローマ時代以降のドイツで完全に保存されている最古の石造建造物のひとつで、カロリング朝建築を代表する希少な建物として知られています。
以前、ドイツのユネスコ世界遺産のひとつである、アーヘン大聖堂について書きましたが、このロルシュ修道院も1991年に世界遺産に登録されています。しかしロルシュ修道院には、同じカロリング朝時代の建造物であるアーヘン大聖堂のような、豪華絢爛といった雰囲気は全くありません。前述のように、かつては多くの建物で賑わっていたであろうこの地には、現在は王の門と古い教会の一部、そして石の土台だけが唯一往時の様子を物語ってくれます。
ここを初めて訪れたのは2004年でしたが、王の門のところにだけ見学者が若干いる程度で、本当に寂しい感じがしました。ロルシュの町そのものもとても小さな町で、他に見るべきものはほとんどありません。しかし2016年の2回目の訪問時では、王の門のそばに博物館兼インフォメーションセンターの新しい建物ができており、それなりに観光客が増えていました。といってもドイツ国内か周辺国から来たであろう観光客ばかりで、私のようなはるばる東洋から来た物好きは博物館でも珍しがられました。最初の訪問はレンタカーで移動中にちょっと立ち寄っただけなのですが、2回目のときはフランクフルトから列車を利用して訪れました。今も列車の運行が同じであれば、フランクフルト駅から南のハイデルベルク行きの電車に乗って、途中ベンスハイムでヴォルムス行きに乗り換えて1つ目の駅がロルシュです。片道約1時間の距離なので、フランクフルトで半日以上余裕があるときは、ロルシュを訪れてみてはどうでしょうか。