あるす家のチーズおかき分解論争──あるいは菓子分解心理における『かいけつゾロリ』が果たす役割に関する一論考
※この記事は、2024年3月に執り行った結婚式にて作成した冊子に収録した文章を、ウェブ公開用に修正したものです。
結婚式の過程・報告についても執筆予定です。
──真っ青な空に白い雲。くるくるまわる背の高い灰色の送風機。列をなす棒状の緑。 僕の地元・静岡ではごくありふれた、茶畑が広がる夏の光景だった。
僕は子どもの頃、年始やお盆などの長期休みには、静岡の田舎にある母の実家に帰省していた。
ゴールデンウィークには、実家で育てている茶畑の茶摘みを家族で手伝うのが恒例行事だった。
暑くなり始めた5月の日差しから逃れた休憩の時間には、決まって冷たい麦茶と小さなお菓子が出された。
個包装されたミルクチョコレート、そしてチーズおかきが定番だった。
僕は、チーズおかきを食べるときには、ぴったりくっついたおかきを分解して食べようとした。
割ったり、チーズをこびりつかせたりすることなく、綺麗に2つに分けてから食べる快感にゲーム性を見出していた。
時が経ち、僕はチーズおかきをほとんど食べなくなった。
しかし、子どもの頃に身体に染み付いた経験は色褪せず、チーズおかきといえば分解して食べるものだった。
ある日、ひょんなことから妻とチーズおかきの話題になり、分解する快感について共有しようとしたところ、まったく理解してもらえなかった。
私:「チーズおかき、分解したくなるよね?」
妻:「え〜? オレオならわかるけど、チーズおかきは分解しなくない?」
私:「オレオを分解する人ならチーズおかきも分解するでしょ!」
妻:「オレオは2つのクッキーから構成されるけど、チーズおかきはそれで1つのおかきじゃん。分解しようとさせるアフォーダンスがないよ」
話は平行線だった。僕はチーズおかきを分解するのは全人類が通る道だと思っていたし、妻はチーズおかきを分解する発想の僕を異教の信者だと思っていた。
普段、僕よりモノのアフォーダンスを感じることが多い妻でも、チーズおかき分解のアフォーダンスは感じていないようだった。
友人が訪ねてきた際にも聞いてみたが、友人にも妻側の立場に立たれ、僕は1対2で迫害される異教徒の地位を確立した。
しかし、先日、X(Twitter)でアンケートを取ったところ、チーズおかきを分解して食べた経験のある方はむしろ多数派だった。
これを見て、おかき分解が容認される土壌には、「かいけつゾロリ」が一役買っているのではないか?と考えた。
『かいけつゾロリのチョコレートじょう』 では、チョコレートを層ごとに舐めたり、ポッキーのチョコ部分だけを舐めとる「いやしんぼなめ」が登場する。
子どもの頃にかいけつゾロリに親しんだ世代なら、お菓子の分解食べ(いやしんぼたべ)もやってみたくなるのかもしれない。
チーズおかきやオレオ以外にも、きのこの山、パイの実、ビスコ、アポロ。
2つに分けたくなるお菓子もいっぱいあるよね??
──チーズおかきなんてここ10年で10枚も食べていないだろうに、ここまで語れることに自分でもびっくりした。
暑い日差しのなか、汗を流して茶摘みをする合間にチーズおかきをうまいこと分解する快感は、子ども心に印象深く残っていたのだろう。
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