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【SS 04】斑目 ジュナ|Arcanamusica
SHORT STORY #04 斑目 ジュナ 編
著:衣南 かのん
小さな音を立てて、テーブルに置いたスマホが淡い光を放つ。
ちら、とその画面に目を走らせた斑目は、ポップアップで表示された『アルカナムジカ運営よりお知らせがあります』の言葉を見てすぐに視線を手元へと戻した。
美しいクリスタル製のワイングラスに施された、繊細なカッティング。美味い酒を出す店は探せばいくらでもあるけれど、グラスの意匠にまで拘りを見せてくれる店はそう多くない。
そういう意味で、この店は斑目にとって好んで足を運ぶ店の一つだった。
「あの……斑目、ジュナさんですよね?」
グラスの中で揺れる、淡いグリーンともレモンイエローともいえる透明な液体と、その液体に反射する美しい輝きを堪能していたところで——控えめな声が、斑目を呼んだ。
声のほうへ顔を向ければ、酒のせいかそれとも違う理由からか、わずかに頬を染めた二人組の女性が、斑目を見つめていた。
その首元や腕に光る華奢な輝きに、斑目は声をかけられた理由を察する。
「あの、私、『Juna』のアクセサリーの大ファンで。今日もつけてるんです。あっ、『Juna』はとても買えないので……『J.Stella』のものなんですけど」
彼女が示した首元に、わずかに目を向ける。
10Kの繊細なゴールドチェーンにガラスのパーツを組み合わせたステーションタイプのネックレスは、つい最近『J.Stella』で発売したばかりの新作だ。
斑目は、二つのジュエリーブランドを持っている。
『Juna』では、豪奢に輝く宝石の美しさを存分に引き立てる、特別なシーンのジュエリーを。
『J.Stella』では、比較的手の届きやすい価格帯で日常に寄りそうような、普段使いのジュエリーを。
どちらもデザインは斑目自身が行っているが、そのコンセプトは大きく異なっている。
そしてそこに込めた想いもまた、まったく異なるもので——。
「……ありがとう。大切にしてくれたら嬉しいな」
「! もちろんです! それで、あの……」
尚も会話を続ける彼女の声を遮るかのように、再び斑目のスマホが小さな音を立てた。
画面に目を向けた斑目は、今度はすぐにスマホを握り締め、カウンターに立つ店主に奥の部屋を使ってもいいかと尋ねる。
「ごめんね、急ぎの連絡なんだ。それじゃあ」
穏やかな笑みだけを女性に向けて、斑目は奥の部屋——VIPルームへと向かった。
「……ふふっ。また上手くなってるなぁ、静くん」
通知の元——『アルカナムジカ』でフォローしている歌い手、『 RiZ』の新曲を聴いて、斑目は恍惚と声を漏らす。
「サンプル音源とは違う……配信用に少し歌い方を変えているのかな? ああ……いい、輝きだ。僕をどこまでも、魅了してくれる——」
そっと目を閉じれば、耳に響く声がそのまま美しい輝きとなって、斑目の瞼裏を鮮やかに彩っていく。
美しく、儚く、けれど尊い——斑目のもっとも切望する、輝きが。
しばらくその輝きを堪能していたところで、三度、今度は電話を告げる着信音が斑目のスマホを揺らした。
「……もしもし? ああ、そうか。君のところにも来たんだね」
電話の向こうで聞こえる声は美しく、ひそやかな輝きを持っている。
けれど——まだ、足りない。
「もちろん……君の歌も、楽しみにしているよ——弦八」
自分が希う、唯一の輝き。
それに少しでも近づこうとする存在に優しい言葉をかけながら、斑目は緩く、笑みを浮かべた——。
斑目 ジュナ(TAROT:No.17 星) 歌唱曲
正位置楽曲『綺麗だ』
Vo:テティス / 斑目ジュナ(CV.寺島惇太)
Music & Lyrics:Somari
Movie : かこねこ / KITTENED
Direction : maruhachi
CG Design : maruhachi, mikanbako
Composite & Motion Graphics : maruhachi, mikanbako
Typo Design & Motion : urabenota
Character Design:おぐち