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【EP1-4】「ケースアール」|オレらのグレイテスト・ステージ!

Arcanamusicaスピンオフ小説① 「オレらのグレイテスト・ステージ!」(渋吉 陸玖&切沢 玲央斗)

著:衣南 かのん

4.

 事務所主催のお笑いイベントに出たり、劇場で前座を任せてもらったり、その合間にオーディションに挑戦したり。

 ケースアールの活動は順風満帆で、それは事務所の関係者からも「一年目の若手とは思えない」と言われるほどだった。

 時々、深夜の若手向けのお笑い番組に呼ばれることもあって、テレビでネタを披露する機会ももらえた。エンタメ雑誌で新人対象の小さな特集に登場させてもらうこともあれば、町を歩いていて時々、「ケースアールのお二人ですよね」と声をかけられることもあった。

 ——順調だ。

 渋吉しぶよしは、芸人一年目にして獲得できた今の立ち位置に満足していた。
 テレビの出演がまだローカル局ばかりなのは残念だけど、地道にやっていれば全国区の番組に出るチャンスだってあるはず。なんたって、切沢きりさわと一緒なんだから。

 一方で、「顔だけだ」とか、「芸はイマイチ」という声があることも知っていたが……それだって、まだ一年目なんだから、まだまだ伸びしろはあるはず。

 切沢にもよく言われるように、渋吉はある意味とても能天気で、前向きだった。
 ——良くも、悪くも。


「新人コンテスト……ですか?」

「そう。通常は三年目くらいの若手を対象にしてるんだけど、二人なら挑戦してみてもいいんじゃないかってね」


 思いがけないチャンスが巡ってきたのは、事務所に所属してから約半年が経った、秋の始まりの頃だった。

 マネージャーに呼び出されて提案されたのは、新人向けのお笑いコンテストへの推薦の話。
 誰でも参加できるタイプのものではなく事務所からの推薦がなければ参加できない類のもので、歴代の優勝者には名だたる有名芸人ばかりが並んでいる、いわば登竜門と呼ばれるようなものだ。


「えっ、いいんですか? オレたちで!?」

「まあ、今二人とも勢いあるしね。ここで出るのも一つの手じゃないかって、社長とも話して」

「ありがとうございます! えっ、玲央斗れおと、出るよな、もちろん!」

「当たり前だろ。やるからにはてっぺん、獲りにいくぞ」

「うん!」

「審査条件に新ネタ、っていうのがあるから、あと3ヶ月、しっかり準備してね。要項はここにまとまってるから、わからないことがあったら聞いて。まあ、切沢くんがいるから大丈夫だと思うけど」

「えっ、オレは!?」

「うんうん、シブにも期待してるって。その持ち前のキャラクター活かして、しっかり爪痕残してね」

「はいっ! 玲央斗、どうする? 早速今日からネタ考えないと!」

「そう逸んな。着実にいくぞ」

 こつんと頭を小突かれて、へへと笑う。


(やっぱり……玲央斗となら、無敵だ!)


 最強で、最高の相方。この調子できっと新人コンテストだってうまくいく。
 渋吉の目の前には、まっすぐに輝く道が延びているように見えた。


 その日から早速、渋吉と切沢のネタ作りは始まった。
 互いにバイトがない日は朝から晩まで渋吉の家に集まって、新しいネタをああでもない、こうでもないと生み出していく。

「……っと、やべえ、もうこんな時間か」

 ある程度の時間になると、切沢は毎回必ず帰り支度を始めた。

「別に、泊まってってもいいのに」

「この狭い部屋のどこで野郎二人寝るんだよ」

「えー、テーブルどかせば床に寝られるって!」

「却下。体が資本の仕事なのに、床で寝て体痛めたら元も子もねえだろ」


 切沢は日頃から健康意識が高くて、週に数度のトレーニングは欠かさないし食事にも気を遣っている。
 そういう、どこかアスリートのようなストイックさも渋吉が切沢をカッコいいと思う理由の一つだった。


(でも、毎回終電で帰るの大変じゃないかな)

「あのさ、いつもうちじゃなくて、玲央斗の家の近くでネタ合わせする? そしたら、玲央斗も帰るの大変じゃないだろ?」

「別に大した負担になってねえから気にすんな。それに、そうしたら場所代もかかるだろ。お前、いつも金ないって言ってんのに」

「そ、それくらい……バイト増やせば……」

「それでネタ作ったり合わせたりする時間が減ったら、それこそ意味ないだろ。……いいから、俺のことは気にすんなって」

「でも……」


 新人同士、お金がないのはお互い様のはずだ。
 だけど切沢は、自分は実家住まいで楽をさせてもらっているからと言って、渋吉の家でネタ合わせをする時には絶対に何かしら買い物をしてきて、手製の料理を振る舞ってくれる。そのおかげで、渋吉の健康は守られているし食費も正直かなり助かっていた。


(なんか、オレばっかり玲央斗に助けられてる気がするんだよな)

 もっと頼ってほしいけれど、やはり切沢にとって自分は頼りないのかもしれない。


(……あ、そうだ)

「……じゃあさ、一緒に暮らす……っていうのは?」

 思いつきをそのまま言葉にすると、切沢がぴたりと止まった。

(あれ……)

「や、ほら、先輩とか結構そういう人たちいるから、オレたちもどうかなって! そしたらいつでもネタ出しもネタ合わせもできるし、まあ、玲央斗は今よりお金かかっちゃうかもしれないけど……」

「あー……まあ、そうだな……」

 珍しく口ごもった様子を見せながら、切沢が困ったように笑う。

「まあ……考えとく」

 きっとそれは断りの言葉なんだろうな、とわかりながらも、渋吉は深くは聞かず「考えておいて」とだけ笑って返した。


   *


「え、今日バイト?」

「ああ……悪いな」

 一ヶ月ほど経った頃、急に切沢が忙しくなった。

「玲央斗……なんか、最近バイトばっかりしてない?」

「まあ、ちょっと……何かと入り用でな」

 バイトをしているのはお互い様だけれど、それにしてもここ最近の切沢の忙しさは不自然だった。
 何より、コンテストまであと二ヶ月を切っている。

 一応ネタはできているけれど、まだまだ完成には遠い状態でここからもっとブラッシュアップが必要だし、ネタ合わせの時間も足りていない。
 あと二ヶ月。時間はたっぷりあるようで、きっとあっという間だ。

「……悪いな、明日は一日、空けてるから」

「や、うん、事情もあるだろうし仕方ないって! また明日な!」

 募る焦燥感には見ないふりをして、渋吉は笑顔を作った。切沢がそう言っているなら、仕方ない。

 真面目な切沢のことだ、コンテストをないがしろにしているわけではなく、本当に何か、どうしても、の理由があるんだろう。

「……よっし、それじゃあオレは、ネタのブラッシュアップに励むかな!」

 基本的にケースアールのネタは二人で話し合って作っている。渋吉一人でも、何か考えておけば明日の時間だって有意義なものになるはずだ。

 コンテスト用のネタを書き込んだノートを開いて、渋吉は早速、明日の話し合いに向けたネタ出しに励んだ。
 

 その翌日、切沢は約束どおり渋吉の家に来た。——片手に白い箱と、もう一方の手にはビニール袋を提げて。

「えっ、何それ!?」

「ケーキと酒」

「酒!? なんで!? 玲央斗、あんまりアルコール飲まないって……」

「まあ、付き合いとか、人にもらったりとか……そういう時しか飲まねえけど」

 そう言いながら、ん、と切沢がビニール袋を差し出してくる。
 その中にはジュースみたいなチューハイがいくつか入っていた。

「誕生日だろ、陸玖りく

「え……あ!」

「ハタチの誕生日に一緒に酒飲むって、去年約束してただろ?」

 たしかに去年、誕生日当日に誕生日であることを告げた陸玖に、ラーメンを奢って軽く祝ってくれた切沢とそんな約束をした覚えがある。

 だけど一年経ってもまだ覚えてくれていたなんて——しかも、こんな忙しそうな時に。


「あ、ありがとう! すげーうれしい!」

「いいから、ケーキだけ先に食おうぜ。酒は後で、なんかつまみ作ってやる」

「いいの!? すっげー楽しみ!」

 早速狭いキッチンでケーキの箱を開けると、中から『誕生日おめでとう りくくん』と書かれたプレートの載った小さなホールケーキが出てきた。

「……ぷっ。玲央斗、これ買ったの?」

「あ? せっかくならそっちの方が誕生日っぽいだろ」

「そうだけど……!」

 切沢が、どんな顔でこれを頼んだのだろうと想像するだけでも面白かった。大真面目な顔で、頼んでくれたのだろうか。

「オレ……こんなふうに自分の名前が入った誕生日ケーキ、初めて! ていうか、誕生日ケーキが初めてなんだけど」

「そうなのか?」

「あっ、ほら、オレんち、大家族だからさ。いちいち誕生日祝ってらんないんだよね。クリスマスはやるんだけど、ケーキが出るのはその時くらいだから……」

 自分の名前のプレートも、20という数字のろうそくも。
 こんなにもうれしいものなのかと、びっくりしてしまう。

「ケーキ、半分に切ればいい?」

「いや、フォークでそのまま食えばいいだろ」

「何それ! 贅沢……!」

 ケーキを食べて、ネタ合わせをして、その後は切沢が作ってくれたつまみを食べながら甘いチューハイを飲んで。


 ジュースみたいなチューハイでもほんのり酔いが回る渋吉に、切沢は「お前はあんま飲まない方がいいな」と笑った。

「玲央斗がいる時だけにする、そしたら」

「世話かけんの前提だろ、それ」

 お酒のせいなのか、少しふわふわして、それが心地よくて。
 こんな幸せな誕生日、生まれて初めてだ、と思った。


    *
 


 だけどその日から、また、切沢は忙しくなってしまった。
 ネタはなんとか完成したけれど、そこからのネタ合わせの時間は思うように取れていない。

 刻一刻とコンテストの日が迫ってくる中、さすがの渋吉も焦りを感じてくる。なんとか切沢に時間を作ってもらわなくてはと考えていたその時、ある先輩から、切沢の話を聞いた。

「病院……ですか?」

「ああ。俺の他にも見たやついるみたいだから、通院でもしてるんじゃないかって噂になってるんだよ」

「え……」

「シブ、何も聞いてないの?」

「……」

 切沢を大きな病院で見かけた人間が、何人かいるという。
 渋吉も名前を聞いたことがあるような有名な病院で、そこに何度も行っているとなれば……何かあったとしか、思えなかった。

(もしかして、最近連絡がつきづらかったり忙しそうだったりしたのって、それで……?)

「ま、とにかく……コンテスト、近いんだろ? ちゃんと切沢に聞いてみろよ。なんかあるなら腹割って話した方がいいぞ。コンビなんだからさ」

「……はい」

 ちゃんと答えられたか、はっきりしない。
 頭の中は、どうして、とか、なんで、とか、そんな言葉でいっぱいだった。

 だけど、聞かなければ、とは思った。少しぶつかることになっても……玲央斗なら、きっと大丈夫だから。


(言われてみれば、最近ちょっと、顔色悪いかも……)

 久しぶりのネタ合わせ。本番さながらにリハーサルするため借りたスタジオで、渋吉はそっと切沢を窺った。
 あれほど渋吉に健康のことを説いていた切沢なのに、どこか疲れた様子で心なしかげっそりとしても見える。

(やっぱり、何か……)

「陸玖? 次、お前の台詞だぞ」

「あっ、ああ、ごめん!」

「集中しろよ、あんまり練習する時間、ねえんだから」

 いつもなら流せるその言葉が、引っかかってしまった。
 ざわざわとしていた胸の中を嫌な感じに撫でていって、止めることができない。

「……練習できてないのは、玲央斗があまり時間取れないからだろ」

「……それは、」

「玲央斗、オレに隠してること、ない?」

「は? 別に、ねえけど」

 ふい、と目を逸らされる。明らかに嘘だけれど、それ以上何かを聞かれたくもないのだろうな、というのもわかった。


 だけど……今回は、引きたくない。


「……病院通ってるって。見た先輩がいるって、何人か」

「……!」

 明らかに、切沢が動揺した。
 その反応に、やはり噂は噂ではなく、本当なのだと確信する。

「なあ、どっか悪いの? なんで言ってくれなかったんだよ!」

「いや……」

「オレ、相方だろ! なんでも言ってくれるべきじゃないの!? 大事なことなら、尚更……!」


「……うるせえ」


 その冷たい声は、詰め寄る渋吉を止めるには十分すぎるほどだった。


「……え」

「相方だろうがなんだろうが、言えねえことくらいあるだろ」

「……っ」

「いろいろあるんだよ、俺だって」

「だから、それを言ってくれればって……」

「言ったら何か変わんのか? お前が、何かできんのか」

「それは……」

「……お前みたいに、能天気に生きてるやつばっかじゃねえんだよ」

 鋭い言葉は、それ以上の言葉を渋吉から完全に奪った。
 部屋に無言の瞬間が訪れて——ぎゅっと、渋吉は拳を強く握りしめる。


(それは……そうだ)

 自分が頼りないことなんてわかりきっていたのに、何かできるかも、なんて。
 相方だから、なんて——どうして、思ったりしたんだろう。


『相方だろうがなんだろうが、言えねえことくらいあるだろ』


 ——そのとおりだ。
 オレだって……いくつもの嘘を、重ねてる。

「……悪い」

「……いや、オレこそ……ごめん、しつこく聞いて……」

「とにかく、俺の体調は大丈夫だから……続き、やるぞ」

「うん……」


 けれどそれから何度練習を繰り返しても、もう、オレたちは最強だ、なんて幻想——抱けなかった。


   *


 コンテストの当日まで、切沢とはぎくしゃくとした関係が続いていた。

 ネタ合わせをしても、なんとなくかみ合わない。
 お互いにそれはわかっていて、だけど……渋吉は、それ以上踏み込むことはできなかった。

 また、拒まれるのが怖かった。

(あんなふうに突っ込んで言わなきゃよかったんだ)

 切沢が答えを躊躇っていた時点で引くべきだった。いつもだったら、これまでの友達だったら、それができた。

 空気が変わりそうなのを察知して、笑いながらその場をおさめて、ごまかして……なんとなく、取り繕う。
 そんなの得意だったはずなのに、どうして切沢にはできなかったんだろう。

 何度も、何度も後悔を繰り返す。

 どうして、切沢には——玲央斗には、本音でぶつかれるかも、なんて、思ったんだろう。


(オレが本当のことを言ったら、みんな離れてくって……わかってたのに)


 会場の緊張感の中で順番を待つ間も、渋吉と切沢は一言も話さなかった。
 周りの芸人たちがコンビ同士で打ち合わせをしたり、他の芸人のネタの感想を言い合ったりしていても。

「……やるぞ、陸玖」

「……うん」


 でも、きっと。
 まだ、きっと。

 このコンテストが、うまくいけば。
 ステージの上で、前みたいにネタをできれば。

 そうしたらまた、元に戻れる。この間はごめんって謝って、うまくいっても駄目でも、その話をして。そうしたら——。

 祈るみたいに、渋吉はそう信じていた。



「エントリーナンバー29 ケースアール」


 アナウンスが二人を呼んで、音楽が流れる。
 スポットライトの当たるステージへ——渋吉は、踏み出した。


「で、その時オレ、背中のおばあちゃんのことすっかり忘れてて!」

「なんで忘れられるんだ、その状況で」

「振り返ったらおばあちゃん! びっくりして慌てて——」

「お、おい、まさか」

(よかった、大丈夫だ)

 ネタが始まると、いつもどおりにできた。
 渋吉のボケに、切沢が的確に、冷静にツッコむ。
 客席からも笑い声は起きていて、よかった、これなら大丈夫だと思いながらネタを続けたその時——


「……っ!」


(玲央斗?)

 渋吉のボケに、言葉が返ってこない。
 ハッとした様子の切沢が、悔しそうに眉根を寄せた。

(……台詞、飛んでる!?)

 渋吉は何回もやらかしたミスだけど、切沢は初めてだ。
 なんとかフォローしようと言葉を重ねてみたけれど、会場がトーンダウンしていくのがわかる。

(もう少し……あと、ちょっと……!)

 早く終われ、と願ってしまった。なんでもいいから、もう、この時間が早く終わってくれないかと。

「ったく、いい加減にしろ」

 わずかな動揺はありながらも、切沢が締めの台詞にたどり着く。後は渋吉が、いつもどおりに受ければ終わりだ。

『でも、玲央斗、オレのこと大好きだよな?』

 そう言って笑って、そうしたら——

「——!」


 口を開いた、その瞬間に。
 制限時間を知らせるブザーが鳴った。


 誰がどう見ても、失敗だった。

 途中でミスっただけじゃなく、最後の台詞まで言えなかった。消化不良なネタでは、まともに審査の対象にもならないだろう。

 控え室に戻る途中、切沢の背中が後悔とか、悔しさとか、自分への怒りとか……そういうもので震えているのが、わかった。

「あ、えっと……」

 だから、なんとかしたくて。
 この重たい空気を、少しでも軽くしたくて。
 渋吉は笑みを浮かべて、口を開いた。


「い、いやー、コンテストってやっぱすごい緊張するな! へへ、でも、玲央斗が失敗するなんて意外だった~! 台詞飛ばしはオレの得意技なのに……って、得意技とか言うなってな!」

「……」

「まあでも、いい経験になったよな! オレたち一番のド新人だったしさ、来年またチャレンジさせてもらって——……」

「……んで」

「え?」

「なんで怒らねえんだよ、お前は」

 振り返った切沢の瞳が、怒りに震えている。

「怒れよ、こういう時くらい! お前のせいだろって! てめえの事情で練習もまともにできなくて、そのうえこんな醜態晒して! お前のせいで台無しだって、怒ればいいだろ! 
なんでこんな時までヘラヘラしてんだよ、お前は! 俺は、……お前のチャンスまで潰したんだぞ……!」


「……っ、怒れるわけ……ない、だろ」


 怒れるわけがなかった。
 だって、渋吉が今ここにいるのは……あんなふうにステージに立てたのは。


(全部、玲央斗がいたから、なのに……)


「れ、玲央斗こそ、そんな思いつめないでさ……ね?」

「そうやって、いつも笑ってごまかして……本当のこと言わねえのは、お前も同じじゃねえか」

「っ」


 だって、本当のことを言ったら、おまえは離れていくじゃないか。
 あんなふうに、オレを突き放すじゃないか。


 言い返したかった言葉は、だけど一つも声にならずに……
 渋吉はただ、去っていく切沢の背中を見送ることしかできなかった。


   *


 切沢からコンビを解消しないか、と持ち掛けられたのは、それから三ヶ月後のことだった。


「もう、無理だろ……俺たち」


 コンテストの失敗から三ヶ月、ほとんど活動休止状態だったから、その申し出はもっともなものだった。


 渋吉も、……同意することしかできなかった。
 嫌だと言うことも、もっと続けようと粘ることも、何もできなかった。


 春が来る前に——ケースアールは、終わった。



To be continued…

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