情報流通プラットフォーム対処法(2024年改正プロバイダ責任制限法)について
本記事では、2025年5月頃に施行が見込まれる改正プロ責法(情プラ法)について解説します。本改正により対応が必要となる事業者は大規模なコンテンツプロバイダのみですが、削除申請に対する一定期間内での対応や、専門員の選任・届出、毎年の運用状況の公表等、それなりに負担が重く、かつ継続的な対応が必要となっており、早期に準備すること求められます。
(当事務所では、大手コンテンツプロバイダに出向しコンテンツモデレーションに携わった経験を活かし、情プラ法の遵守サポートにも対応しております。)
1. 改正の経緯
2022年12月~2023年11月にかけて、総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」下の「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキング・グループ」において、プラットフォーム事業者による自主的な削除等の対応の透明性確保の在り方や、違法・有害情報に関してプラットフォーム事業者に求められる役割について検討
WGの議論の内容は、最終的に2024年1月「プラットフォームサービスに関する研究会第三次とりまとめ」の第1部にまとめられている。
上記取りまとめを踏まえ、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称「プロバイダ責任制限法」)の改正法案が第213回国会(2024年通常国会)に提出、2024年5月に可決
2. 改正法概要
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」
(成立日): 2024年5月10日
(公布日): 2024年5月17日
(施行日): 公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日
※ 本改正法により、プロバイダ責任制限法の法律名が、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(通称「情報流通プラットフォーム対処法」)に変更されます。「情プラ法」との略称が一般的なようです。
3. 改正内容
(1) 概要
「大規模特定電気通信役務提供者」に対する規制及びこれに関する罰則等が新設されます(第五章、第六章)。既存部分(プロバイダの責任制限や発信者情報開示請求権、発信者情報開示命令事件の手続き等)については、一部用語の変更を除き、変更はありません。
(2) 対象事業者
対象となるのは、総務大臣により「大規模特定電気通信役務提供者」に指定されたプロバイダです(20条1項)。
なお、規制の内容自体から、アクセスプロバイダは対象とはなり得ず、コンテンツプロバイダが指定対象となります。
具体的には、以下のいずれにも該当する特定電気通信役務(不特定の者に受信される電気通信サービス)であって、削除措置の迅速化・透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(「大規模特定電気通信役務」)を提供するプロバイダが指定対象となります(20条1項)。
当該サービスにおいて発信者となる者の数が以下のいずれかに該当すること
①月平均の発信者数が総務省令で定める数を超える
②月平均の延べ発信者数が総務省令で定める数を超える
※なお、総務大臣は、指定等に必要な限度で、プロバイダに対して月平均発信者数・延べ発信者数を報告させることができる(20条3項)。当該サービスにおいて侵害情報の送信防止措置が技術的に可能であること
当該サービスが、情報の流通により権利侵害が発生する恐れが少ないものとして総務省令で定めるものに該当しないこと
「削除措置の迅速化・透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの」について、第三次とりまとめでは「権利侵害情報の流通が生じやすい不特定者間の交流を目的とするサービス」(12頁)とされています。
上記1について、①はアカウント登録型サービスにおける月平均アクティブユーザー数、②は非登録型サービスにおける月平均投稿数が想定されています。具体的な数は総務省令を待つ必要があります。
なお、本規制と同様に大規模な電気通信役務を提供する事業者を対象とする電気通信事業法の検索情報電気通信役務や媒介相当電気通信役務(電気通信事業法164条2項4号・5号)では、月平均利用者数1000万人以上が指定の基準(同施行規則59条の3第4項・5項)となっており(指定事業者はこちら)、本規制においても同程度の数値が設定されるのではないかと考えられます。
上記3について、こちらも総務省令を待つ必要がありますが、第三次とりまとめでは「他のサービスに付随して提供されるサービスではないこと」とされています(12頁)。例えば、ゲーム内でのチャット機能は、ゲームというサービスに付随して提供されるものとして、除外される可能性があります。
(3) 届出義務
指定されたプロバイダは、指定を受けた日から3か月以内に以下の事項を総務大臣に届け出る必要があります(21条1項)。
名称、住所、代表者氏名
外国法人の場合、国内における代表者又は国内における代理人の氏名又は名称及び住所
その他総務省令で定める事項
この届出をせず、または虚偽の届出をした場合、プロバイダ(法人)は1億円以下の罰金刑の対象となります(35条、37条)。
(4) 削除対応の迅速化に係る規律(ユーザーからの削除申請対応)
削除対応の迅速化のために、大規模特定電気通信役務提供者に指定されたプロバイダは、 ユーザーからの削除申請に関して、以下の対応を義務付けられます。
削除申請方法の公表(22条):誹謗中傷等により自己の権利を侵害されたとする者が、プロバイダに対して当該侵害情報の削除を申請する方法を定め、公表しなければならない。申請方法はインターネットを介して行えるものでなければならず、申請者に過重な負担を課すものであってはならない。
侵害情報に係る調査の実施(23条):削除申請を受けた場合に、権利侵害の有無について遅滞なく必要な調査を行わなければならない。
侵害情報調査専門員の選任・届出(24条):上記の調査のうち専門的な知識経験を有するものを適正に行わせるために、侵害情報調査専門員を選任し、総務省に届出なければならない。必要な専門員の数は、月平均発信者数等に応じた総務省令で定める数以上でなければならない。
申請者に対する通知(25条):削除の申請を受けてから14日以内の総務省令で定める期間内に、申請に対する回答(削除措置を講じたか否か、講じなかった場合はその理由)をしなければならない。ただし、発信者の意見を聞く場合、専門員による調査を行う場合、その他やむを得ない理由がある場合には、上記期間内にその旨を申請者に伝えることで、それ以降に申請に対する回答をすることができる。
(5) 削除対応の透明化に係る規律(削除基準の公表等)
削除対応の透明化を図るために、大規模特定電気通信役務提供者に指定されたプロバイダは、以下の対応を義務付けられます。
任意削除基準の公表(26条1~3項):以下の場合を除き、任意に削除を行うには、事前にその基準をできる限り具体的に定め、公表していなければならない。
プロバイダ自身が発信者に該当する場合
法令上削除義務がある場合
通常予測できない種類の情報について緊急で削除する必要がある場合(ただし、当該種類の情報について、事後的に削除基準に反映させなければならない)
任意削除事例の公表(26条4項):公表した任意削除基準に従って削除措置を講じた情報の事例に関する資料を作成し公表するよう努めなければならない(努力義務)。
発信者に対する通知(27条):任意削除を行った場合、削除された情報の発信者に対して、削除の旨及び理由を通知し、または容易に知りうる状態に置く措置を講じなければならない。
運用状況の公表(28条):毎年、総務省令で定めるところにより、以下の事項を公表しなければならない。
※立案担当者解説によれば、所要日数別での削除申請に対する通知件数や削除理由別での発信者への通知件数等が想定されています(18頁)。任意削除申請の受付状況
申請者に対する通知の実施状況
発信者に対する通知の実施状況
その他の任意削除措置の実施状況
上記各事項についてのプロバイダによる自己評価
その他総務省令で定める事項
(6) 報告徴収・勧告・命令等
総務大臣は、①削除申請方法の公表(22条)、②侵害情報調査専門員の選任(24条)、③申請者に対する通知(25条)、④任意削除基準の公表(26条1項又は3項)、⑤発信者に対する通知(27条)、⑥運用状況の公表(28条)の規定の施行に必要な限度で、大規模特定電気通信役務提供者から報告を徴収することができます(29条)。
また、総務大臣は、上記①~⑥に違反していると認める場合、大規模特定電気通信役務提供者に対して是正措置を勧告し、応じない場合には是正措置を命ずることができます(30条)。係る命令に違反した場合、プロバイダ(法人)は1億円以下の罰金刑の対象となります(35条、37条)。
なお、侵害情報に係る調査(23条)については、報告徴収等の対象となっていません。これについて、立案担当者解説では、プロバイダによる権利侵害の判断に行政が関与しないことを明確にするため、と説明されています。
4. 施行規則について
上記のとおり、具体的な基準等について、総務省令に委任されているところ、現時点(2024年11月)では総務省令は定められていません。
総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」において、省令やガイドラインについての検討が進められており、同検討会の議論を注視する必要があります。(※総務省令の内容が判明し次第、アップデート予定)※2024.11.21
5. 雑感
私はプロバイダ側を代理することが多いため、立場的に偏った見方かもしれませんが、改正の検討段階において、表現の自由への影響やプロバイダ側の負担が必ずしも十分に考慮されていないように感じました(例えば、WGの議論において、削除申請の標準処理期間は1週間程度が適当とされていました。個人的に、第三次とりまとめに対するパブリックコメントにおいても、この点を指摘しました。35頁等)。
法律では第三次とりまとめから緩和された部分もありますが、対象となる大手コンテンツプロバイダは、削除体制の見直し、専門員の選任、毎年の運用状況の集計・公表等の対応が求められ、近年増加している発信者情報開示請求への対応とも相まって、その負担はますます大きなものとなることが予想されます。