ショートショート「アイスは別腹」
私と妻は高級レストランを後にした。結婚20周年のお祝いだからといって、少し食べ過ぎたかな。そんなことを考えながら歩いていると、妻は「帰りにいつものアイス食べて帰りましょうよ。」と言った。私たちが付き合いたての頃から通っているアイス屋さんだ。あそこのアイスはほっぺたが落ちるほど美味しいのだ。とはいえ二人共もういい歳だ。
「おいおい、さっきあれだけ食べたじゃないか。もう食べられないだろ。」
「大丈夫、アイスは別腹だもん。」
そう言うと妻は、カバンからもう一つのお腹を取り出し、慣れた手つきで元々ついていたお腹と取り換えた。こういう所も昔から変わってないな。
「さあ、アイス屋さん行きましょ。」
「またそれか。明日は健康診断だろ?」
「大丈夫、ヘルシーな食事の時は、病院用のお腹で食べてたから。明日はそれで行くの。」
「それ辞めろっていつも言ってるだろ。でも20回目の結婚記念日だし、今日ぐらい良いか。」
「やったぁ!」
そう言って妻ははしゃぐ。家には妻専用のお腹がタンスいっぱいにあるのだ。もう20年も経つと、どれが本来の妻のお腹か分からない。でもそんな別腹の数だけ妻の笑顔があるのなら、どれでもいい気がしてきた。
そんなことを思いながら、私は予備のほっぺたを用意し、妻と共にアイス屋さんへと向かった。