プロレス英文読解教室 ストーム和訳ブレーカー編
こんにちは。札幌で英語講師をしているアラといいます。
先日、新日本プロレスの選手に新型コロナウィルスの感染者がでたというニュースがあり、5月の横浜スタジアムと東京ドームでの大会が延期されることが発表されました。
もう本当に新型コロナにはうんざりですね。早くワクチン接種が広まって、心置きなくプロレスが楽しめる日々が戻ってきて欲しいです。
僕のお仕事的には、今の中学校、高校の二年生が心配です。部活や行事の中止や延期で退屈な思いを強いられているのは他の学年の子と一緒ですが、何より勉強が遅れている印象を受けます。昨年、中学高校に上がって右も左も分からない中で休校になってしまって、例年以上に日々の勉強が進路や受験にどう関係してくるのかが見えにくいんじゃないでしょうか。リモート授業で十分な学びを得られる子ばかりではありません。学校には出来る限り休校措置を避けてほしいと思います。
難関高校、難関大学を目指す方はとにかく早めに動きましょう。一年生の復習を日々の勉強と並行してやっていくなんてどうでしょうか。
さて、そうは言うものの、菅総理がワクチンを直接調達してきたこともあり、あとはどう打つか、という問題が残されているとはいえ、もうモノはあるので、この新型コロナ騒動も終わりが見えてきました。振り返ってみれば、不安な日々もやっぱりプロレスに助けてもらったな、としみじみ思います。そんなプロレスの強さを見せつけるような試合が、5月4日にありましたね。そうです、IWGP世界ヘビー級王者ウィル・オスプレイ選手対鷹木信悟選手の選手権試合です。この試合、大会の締めとなるメインの試合でしたが、出場予定の選手のコロナ感染があって、セミファイナルがカード変更になっています。そんなモヤモヤを抱え、プロレス大丈夫なのか、とファンも思ってしまうなかで、両選手が素晴らしい試合をみせてくれました。
週刊プロレスではこの試合の写真が表紙になりました。トップ記事で試合の内容が語られていましたが、鷹木選手に注目した記事作りでした。もちろん鷹木選手は本当にすごかったんですが、僕はオスプレイ選手のチャンピオンぶりに驚きました。
オスプレイ選手は昨年ヘビー級に転向して、自身のユニット、ユナイテッド・エンパイアを立ち上げ、そして新設されたIWGP世界ヘビー級王座についたわけですが、これまで、ジュニアヘビー級そのままの軽やかな動きに驚かされたものの、新日本プロレスのチャンピオンとしてどういうプロレスを見せていくのか、今ひとつはっきりしないところがありました。
特に、オスプレイ選手がすごいレスラーであることはファンにとってもう当たり前のことでしたから、「じゃあ、IWGPヘビーのチャンピオンとしてはどうなんだ。」という点が気がかりでした。大会を成功させる力、対戦相手を引き上げる力。この二つがチャンピオンには求められます。5月4日の試合の前まではむしろ、対戦相手の鷹木信悟選手のほうが、この二つの力を持っているのではないかと思われていたのではないでしょうか。なんといってもあのマイクの上手さ、そして誰と対戦しても名勝負にしてしまう実力があるんですから。
試合の序盤は、そのように進んだように思います。鷹木選手が試合を引っ張っているように見えました。でも結果的に、中盤以降、というか、40分以上もの戦いの大部分で、オスプレイ選手がチャンピオンとして常に試合をコントロールしていると感じました。お馴染みの技を繰り出しながら、相手の技を小気味良く受けて、時には大胆に吹っ飛ばされ、感情を剥き出しにしたと思ったら、意外な一撃を見せて驚かせ、最後は必殺技で決める。「新日本プロレスのチャンピオンってこういうのだよな。もう技がすごいレスラーじゃなくて、団体の顔になれるレスラーになっちゃったんだな、オスプレイは。」そう痛感しました。
まだ28歳。ここから長い防衛ロードが始まることを期待していたのですが、本当に残念なことに、つい先日、オスプレイ選手は首の怪我を負ってしまったということでベルトを返上しました。まだまだ若い選手ですから、まずはじっくり治療して欲しいですね。この試合のオスプレイ選手の戦いぶりを見ると、ファイトスタイルを変えたとしても第一線の選手としてやっていけるのは間違いないだろうと思います。
ということで、今回の読解教室はウィル・オスプレイ選手についての英語版Wikipediaの記事の文章を読んでみましょう。
①With this wrestling match being awarded 5 stars, ②Dave Meltzer and Bryan Alvarez suggested ③that Will Ospreay has reached a point in his career ④where he is a serious contender for being the best wrestler in the world. (Will Ospreay)
ジュニアヘビー時代の2019年、ドミニオン大会でドラゴン・リー選手との対戦に勝利し、三度目のIWGPジュニアヘビー級チャンピオンになった後、評論家の二人から寄せられた評価についての文です。
いつも通り、なるべく文頭から訳を当てていって、文法的にほどほど正確な読解をする練習をしましょう。
①With this wrestling match being awarded 5 stars,
文頭に前置詞withがきました。前置詞withの訳も、他の前置詞と同様にさまざまありますが、とりあえずここでは「〜と」ぐらいに考えましょうか。訳を当ててしまうことでワーキングメモリを解放するイメージです。では「何と」なのか。「this wrestling matchと」ですね。
この後にbeingとくるので、教科書的にはここで「さっきのwithは付帯状況のwithだ。」と気づくべきポイントです。付帯状況のwithというのは、withの後に「意味的に」SVが続いて、主節の動詞と同時または連続して起きたことを表します。「意味的に」というのがポイントで、withは前置詞ですから、直後には目的語が置かれるのであって主語を置いてはいけません。さらにその後ろに動詞が来てもいけません。主語と動詞が続くのは接続詞でしたね。
なので、with the wrestling match beingは、the wrestling matchがwithの目的語であり、beingはisかwasの分詞である、ということになります。
ということは、the wrestling match was awarded 5 starsという文が元々で、その先頭にwithが有る感覚で読めばいいわけです。「そのレスリングの試合が5つ星を与えられると」とか「そのレスリングの試合が5つ星を与えられて」となるでしょうか。with O Vingを「OがVすると、OがVして」と覚えておいてもいいかもしれません。
②Dave Meltzer and Bryan Alvarez suggested
デイブ・メルツァー氏はWrestling Observer Newsletterというプロレスメディアの主宰者で、プロレスファンにはお馴染みの評論家ですね。ブライアン・アルバレス氏もFigure Four Weeklyというプロレスメディアの主宰者で、ご本人もレスラーです。あとは簡単、
「デイブ・メルツァー氏とブライアン・アルバレス氏は示唆した」
となりますね。suggestの訳は「提案する」とか「仄めかす」とかいろいろですが、「言う」っていう感じでも使われるのであまり拘らないほうがよさそうです。
じゃあ何を示唆したのか。
③that Will Ospreay has reached a point in his career
「ウィル・オスプレイ選手は、彼のキャリアの中である地点に到達した」ことを示唆したわけですね。あまりややこしいところのない部分ですが、現在完了が使われていることが面倒です。(とはいえこれは気にしなくていいと思いますけどね。)で、何が面倒かというと、時制の一致が起きていない、という点です。主節の動詞suggestedが過去形ですから、従属節の動詞has reachedも本来had reachedになっているべきなのにそうなっていない。
千葉修司著『学習文法拡充ファイル』によると、「大雑把に言って、従属節で取り上げられている事柄が、文の発話時点においても、依然として成り立つような事柄となっている(pp.152)」場合、時制の一致のルールに従わず、従属節の動詞は現在形になるそうです。(実際にはより細かく微妙で曖昧な部分のある現象なのですが、それは本書を読んで確認してください。)
ということで、suggestedの時点で、オスプレイ選手は「ある地点」に到達しており、それが今現在も通用する見解であるので、has reachedという現在形を使った表現のままなのだ、と分析できますね。
ま、日本語は時制の一致が起きない言語だとされているので、あんまり気にせず読んじゃっていいと思います。文章の前後関係に注意して、出来事の順番を思い浮かべながら読めば大丈夫です。プロレスファンなら、今のウィル・オスプレイ選手がもうずっとすごい選手で居続けているのは自明のことですしね。
④where he is a serious contender for being the best wrestler in the world.
whereは関係副詞です。先行詞はa pointですね。「点」は場所なのか、というと、場所です。日本語でも「その点において、ヒドゥンブレードは良い技だ。」と言いますが、「おいて」は「置く」からできた言葉だといいますから、「点」と場所というのは人間の感覚では自然と結びつくものと言えそうですよね。
関係副詞whereの読み方は「そこで、そこでは」です。「〜ある地点に到達した。そこで彼は、〜」と読んでいくと、後ろに戻らずに解釈していくことができます。関係詞のような日本語にはない言葉にも訳を当てていくことで、「Aという意味かもしれないし、Bという意味かもしれない。先を読んでから考えよう。」という状態を減らすことができます。こういう状態は、暗算を途中で止めて、次の暗算を始めるようなものです。絶対にこんがらがるし、途中で止めたところに戻ったところで間違いなく正解は出ません。
では続きを考えてみましょう。「そこで彼は、本格的な挑戦者である。」という感じでしょうか。seriousは文脈によって訳を選ばないといけませんね。そして、for being the best wrestler in the worldですが、これは、意味を考えるとその前のcontenderと繋がっているのでしょう。なので「そこで彼は、世界で最も優れたレスラーであることへの真の挑戦者である。」と訳せます。
全部まとめてみましょう。
With this wrestling match being awarded 5 stars, Dave Meltzer and Bryan Alvarez suggested that Will Ospreay has reached a point in his career where he is a serious contender for being the best wrestler in the world.
そのレスリングの試合が5つ星を与えられて、デイブ・メルツァー氏とブライアン・アルバレス氏は示唆した。ウィル・オスプレイ選手は、彼のキャリアの中である地点に到達した。そこで彼は、世界で最も優れたレスラーであることへの本格的な挑戦者である。
直訳だけでも十分正確な理解はできると思います。誰が誰にどういう評価をしたのか明確ですね。英文を読む、ということに関しては、このくらいの訳でいいのですが、大学入試での和訳問題では少し減点されるだろうと思います。日本語としての自然さがないからです。ではちょっと整えてみましょう。
その試合に5つ星が与えられたことをふまえ、デイブ・メルツァー氏とブライアン・アルバレス氏は、以下のように言った。ウィル・オスプレイ選手は、彼のキャリアにおいて、世界で最も優れたレスラーであることへ本格的に挑戦するところにまで到達している、と。
この和訳のポイントとしてはまず、「五つ星」が主語になっている、という点ですね。英文ではwithの後にthis wrestling matchが来ていますから、理屈の上ではこれを主語とするべきでしょうが、そうすると日本語的には「この試合が五つ星を獲得して」と能動的に訳したほうが自然でしょう。しかし受験生としては、being awardedが受動態になっているのを見逃してませんよ、とアピールしたいところですから、どっちを取るのか悩ましいところです。僕は受動態の方を取りました。
そして「ふまえ」ですね。付帯状況のwithに「ふまえ」という訳が相応しいのかというと、当然「場合による」わけです。今回は「五つ星の評価を受けた→ウィル・オスプレイ超すごい」という流れですから、明らかに「ふまえ」てますよね。
次のポイントは、suggestedとthat以下の内容節を分けた、というところです。大学入試の和訳問題の採点基準が公開されることはないので断言はできませんが、僕自身は分けて書いたほうがわかりやすいと思っています。特に今回の場合、もし分けないで訳すと、「デイブ・メルツァー氏とブライアン・アルバレス氏は、ウィル・オスプレイ選手が」とカタカナの人名が三つ並んでしまい、すごくわかりにくくなると思います。試験の和訳であっても、読み手への配慮はあるべきでしょう。
そして、「本格的な挑戦者」を「本格的に挑戦する」と訳したところですね。名詞を動詞にして訳しているのだから罪が大きそうですけど、ま、学校で配られる系の参考書によく載っている「名詞構文」というやつです。"My mother is a good pianist."という文を「私の母は良いピアニストです。」と訳すのではなく「私の母は上手にピアノを弾きます。」とか「私の母はピアノが上手です。」とかに訳してもいいよ、という単元ですね。結局のところ、日本語と英語の間にはなんの関係もないので、直訳が不自然になるケースばかりです。だからこういう場合は日本語としての自然さを優先させてもいいよ、というのが名詞構文です。無生物主語も同様の単元です。要するにテストでもちゃんとした日本語を書きなさい、と言っているわけです。テストだからといってなんでもかんでも直訳じゃだめだよ、と。
はい、お疲れ様でした。それにしても今回のお題の文のように、僕たちは、ウィル・オスプレイ選手が本当に世界一のレスラーになろうとしている瞬間を目撃しているんですねえ。コロナ禍が終わって、傷の癒えたオスプレイ選手が世界の強豪たちと戦っていく姿を見るのが楽しみです。そして、これまでのオスプレイ選手の健闘を改めて讃えたい。素晴らしい戦いをありがとう。
では、また次回のプロレス英文読解教室でお会いしましょう。