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ラピュタへの道46 伊豆イチ!編

ドラクエ風に言うと魔法使い(クライマー)から戦士(スプリンター)へとジョブチェンジしたワイ。
 そういえば足も太いし体重もある(72キロ。さすがにに痩せねば…)。
 しかしながら、最大級に踏んでも平地で50キロも出せない。スプリンターとしては全然だ。
 スプリンターへの道もまた遠い。
 
 そこでワイは思いついた。次回のライドでどこに行くかを。

 伊豆イチ行くしか無いっしょ。

 聞く所によると伊豆の海岸線をぐるりと回る「伊豆イチ」は獲得標高は3000mをゆうに超えるらしい。
 スプリンターには全く向いていないのだが、思ったんです。 

 そうだ魔法戦士になろう。
 サイクリスト的には「パンチャー」か「ルーラー」かもしくは「オールラウンダー」というらしい。 細かい違いはわからないけど、ドラクエのジョブの中で一番カッコイイとされている(かどうかは知らん)魔法戦士がイイ!そう思た。 こうしてワイの魔法戦士として旅立ちの伊豆イチの試練は切って落とされた。

 当日朝。
 地元の駅に東海道本線の始発がホームに入ってくる。
 熱海駅まで輪行し、時計回りに伊豆半島を1周し、ワイもハレて伊豆イツァーとなれるのだ。
 魔法戦士としてのレベルもだいぶ上がっているでしょう。
 定石通り最後尾の車両に乗車。
 乗客は一人しかいない。さすが平日下り始発。
 しかしなんと最後尾のドンツキには輪行バックにパッキングされたロードバイクが固定されていた。

 さすがワイ…持ってる…。
 仕方なくサイドの壁にキャニオンを固定。
 内心「ぐぅぅ…」と思いながらも、持ち主に笑顔で会釈する。しかし完全無視。さり気なく目をそらされた。
 …よくあるさぁ、体験談としてさぁ、、伊豆イチですか?えぇ、一緒に行きますか!とかさぁ、そうゆうのってこの世に無いのかな。
 とか思いながらその中年男性の視界には入らず、愛車は見えるボックスシートに座るワイ。
 いいさ、昨日買っておいたカツ丼弁当を車窓を眺めながら食べ、旅行気分を心から満喫しようぞ!
 メットを置いて、グローブを外し、ウエストバックからお茶を取り出し一口飲んで、ふー…とかこれから始まるアドベンチャーなライドに思いを馳せつつ、ある意味本日のメインイベントとも言えるカツ丼弁当を取り出した早朝5時。なんの変哲のもない風景が薄暗いのに鮮やかに見える。
 電車は次の駅に到着、最後尾のドアから青年が乗車してくる。なぜか真隣のボックス席に座る。嘘でしょ…。他のボックス全部空いてんじゃん…。
 まあいいや。と開き直って旅気分旅気分!
 とカツ丼を食べ始めるけど、やはりなんとなく気を使ってしまいかき込んでしまう。
 旅も遠足もあったもんじゃないさ。

 熱海駅に到着。

6時半ころ


 柱の陰で輪行を解いていると、また違うサイクリストが現れて微妙な距離で輪行を解き始めた。同じ電車の先頭車両にいたっぽかった。
 友好的に目を合わせようとトライしてみるけど、不自然なくらいこっちを見ない。
 まいいか、と組み立て完了。
 その直後そのサイクリストが目の前を走り抜けていく。お高そうなBianchiだ。カッコイイ…。
 駅前は広場になっていて、そこには何組かの家族がいて、一緒に出かける感じだった。
 そこをBianchiが通り抜けると、5人くらいいる子供の中の5歳くらいの男の子が、Bianchiに目を奪われているのが見えた。キラキラした瞳で。
 Bianchiは走り去る。男の子見送る。そこにワイのキャニオン登場。よく見ると傷だらけの。ワイ何故か緊張。男の子ワイに気づく。心拍ちょっと上がる。男の子思わずって感じで数歩ワイに駆け寄る。ワイ車道に降りるため一時停止。少年とワイの視線が交差する。
ワイ「カッコいいべ」。少年はにかむ。
ワイ「キャニオンっていうんだ」。少年キラキラ見入る。
ワイ「世界一速いんだぜ」。少年更にテンションアップ。ワイ手を振りクールに走り出した。
 こうしてワイの伊豆イチは始まった。
 海岸線までの下りをワイは一人ニコニコしながら下り、伊豆イチ来て良かったと思い、Myキャニオンを誇りに思えた。
 もしかしたら未来のアルカンシエルを生み出してしまったかもね。フフフ…。
 

6時33分夜明けと共に冒険が始まる


 朝焼けの海岸線を時計回りに南下する。
 早くも登り。道幅も狭く、交通量もなかなか。
 しかしこれくらいの交通量は普段多摩沿線道路で慣れているのでさほど気にならない。
 海が圧倒的に広くて、伊豆を走っている実感を噛みしめることができる。
 トンネルの壁は岩にコンクリートを塗りつけただけのようなワイルド仕上で冒険感を盛り上げてくれる。
 しばらく海岸線を走り、事前にsnsなどで情報収集した分岐点で109号線に入る。
 途端に交通量は減り、走りやすくなる。
 いよいよ伊豆イチ本番って感じだ。
 すぐに公衆トイレがあって、ここは入った方がいいです。しばらくコンビニすらないので。
 

こんな109号線が続く

 109号線はやたら上る。やがて住宅街に入る。それくらいでワイは猛烈にトイレに行きたくなった。
 そろそろコンビニでもあるだろう、と我慢しながら進む、上る。けど、ない。
 観光案内板があって、そこにトイレが載っていた。
 これ幸いと案内に従ってルートを外れる。かなり下る…オイオイまだ下るの?ってくらい下る。

トイレを求めて下った先にこんな道があった。

 だいぶ遠回りになったが、どうにかトイレには間に合い、下りた道を登り返した。
 ロングライドにハプニングはつきものさ、とポジティブにヒルクライムをして109号線に復帰、すぐに135号線に合流し、早速コンビニがあった…。その分強くなれたのさ…。

 135号線は再び海沿いを走る。
 岩がゴツゴツとしていて波が砕ける。
 東映映画のオープニングみたいなのが続く。そういえば海の匂いをあまり感じないな…とか思いながら進んだ。

 熱海駅以来一人のサイクリストとも会わなかった。
 天気は最高、風も弱い。何の問題もなく順調に快適にワイの伊豆イチは進行した。

もうすぐ最南端

 石廊崎が近づいて来るとやや風が出てきた。
 そして北上し始めると、暴風となった。
 まるで台風、ハリケーン、ツイスターだ!
 真っ直ぐ走ることもままならない。
 突然激変。
 たまらず小さな港の建物の脇に避難する。
 空は晴れているが、風は尋常じゃない。
 座っておにぎりを頬張るけど風がおさまる気配はない。
 飛んできたレジ袋がブラックホールに吸い込まれるみたいに飛んでいく。でもたまに通り過ぎる車のドライバーは無表情に車を走らせている。この程度の風は日常なのだろうか?
 仕方なく所在なく避難した甲斐もなく意を決して出発。激坂に挑むんだ、と自分に言い聞かせた。
 ここに来てディープリムにしたことが災いとなるけど進むしかない。
 追い風ならいいけど追い風ではない。
 追い風ではない風が前から右から左から斜め上から終始容赦がない。こんな暴風の中を走るのは初めてだ。
 激坂だと自分を偽るのは不可能で、亡霊たちのはだか祭りの中を走ってるみたいだ。
 やがて道は海から離れ山道になる。すこーしだけ風は緩むけどキツイ。
 そんな中どうにかヒルクライムしていると、唐突に風が追い風に変わった。
 急に楽になり、落ち葉が舞い上がった。
 舞い上がった黄色や茶色やだいだい色した大小の落ち葉が護衛し先導するみたいにワイを取り囲み、同じ方向に山道を駆け上がって飛んでいく。
 ワイの周りだけ時間が止まったみたいだった。
 ほんの数秒のことだったのだろうけど、特別な瞬間だった。
 だいぶ前にトンボの大群の中を走った事があったけど(確か諏訪湖だったかな…)あのときとはまた違う神秘的な瞬間だった。

        思い返していたら時間が過ぎてしまったので後編に続く。
  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

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