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ラピュタへの道25 ちょっとした怪奇現象

ラピュタ坂登坂世界一を目指しているというのに、全然ラピュタ坂に行けていない。
寝坊やら用事やらで、天気はいいのに近場の走りやすい道を往復したりするのみで特筆することもなく、秋は徐々に深まってきた。

しかしワイの身にちょっとした怪奇現象が巻き起こった。
本当(マブ)。

それはいつものように愛車に跨り多摩サイクリングロードを向かい風ニモマケズ走っていると目の隅、斜め右上の中空に何かが浮かんでいるのが見えた。気がした。

『ゆがみ』のような『ひずみ』のような…あ、同じ字なんだ。歪み。
とにかくなんか見えた。

最初は気のせいだと気にしなかった。
次に見えたときは、自分の視力の悪さのせいだと思って気にしなかった。
次はゴーグルとメガネと太陽との光の屈折だと思い気にしなかった。

しかしそれぞれの仮説は、
…ではないな。
…でもなさそうだな。
と否定されていって、【それは実際そこに浮いている『歪み』なんじゃないか説】が有力視されていく。
【これはただごとではない説】が湧き上がり始めるとロードバイクの速度は否が応でも落ちていき、

『歪み』がいくつもいくつも浮かんでいるのが見え、止まって足を着いて、目を凝らせば凝らすほど見え、ゴーグルを外しメガネのブリッジをクイと上げれば上げるほど確実に確認出来た。

『歪み』は幅50センチくらいの縦型の筒状で、長さはよくわからない。よく見ると固定はされていないと思えるけど、はっきりと動いているようにも見えない。

何だかSF映画の時空の歪みみたいにも見えるし、透明になったプレデターみたいにも見えるし、海に漂う大きなクラゲみたいにも見えた。

何にせよ、確実にこの多摩サイクリングロードに沿って、いくつものその『歪み』は実際浮かんでいた。現実に。

もしこれが時空の歪みとか裂け目で、これに飛び込んだら時を超えどこかの場所に行けるのだとしたら、選択肢はかなりあることになる。

うーむ…未来にしようか過去にしようか…悩むなァ…
でも残念ながら一つ一つの歪みに『本能寺の変』とか『ポンペイ最後の日』やら『海王星植民地化』などの札はかかげられてないからエイヤで飛び込むしかない。

ロードバイクに跨がったまま『それ』を観察しながら、もし戦国時代の戦に参加すれば、刀を振りかざし「我こそは武田家光圀公家臣 川崎茂左衛門なりい!尋常に勝負せぇい!」と討ち死に覚悟で馬で敵陣に1人突撃するっていう男なら一度はやってみたいアレが出来るかも、とか妄想するワイ。

写真も撮ったけど何も写らない。

雀の手前にその歪みはある。でも写らならい。

ひととおりの妄想が終わると、薄々わかっていた結論を否定できなくなった。
蚊柱だ。

間違いない。

なぁんだと刀を納め馬じゃなくてロードバイクを走らせる。
途端にゴーグルに蚊?がピシピシと当たる。
土手沿いサイクリングロードあるあるだ。
しかし今日はやけに激しい。
何匹かはゴーグルへの着地を成功させる。
それは蚊ではなく羽蟻だった。

蚊柱ではなく、時空の歪みでも歪でもプレデターでもクラゲでもなく、羽蟻柱だったのだ。

恐らくは繁殖行動なのであろう。
恐らくは1年の内で一番盛り上がりなのではないだろうか。
恐らくは今年一番命を殺めてしまっただろう。
悪いとは思うがわざとではない。ワイもワイなりにラピュタ坂日本一を目指す身(目指すのは勝手だ)なのだ。

可能な限りは避けるが、実際は不可能で、歩いている人々でさえ羽蟻柱に突っ込んでしまい顔の前で両手を振り回したりしている。
まるで「違う違う違う違う違う!違う‼ちがぁうちがぁうそーじゃなぁいぃ違うってんだヨ‼」って言ってるみたいだ。
そこに勝者はいない。

これがワイが体験した怪奇現象。ではない。
それは帰宅後に起こるのだ。

羽蟻柱に耐えきれなくて多摩サイを離れる。羽蟻柱はなくなり快適に走れる。スピードはあまり出せないので、いくつか気になっているポイントに行くことにした。

給水関連の建物
会社?マンション?

住宅街に迷い込んでこんなんと遭遇したりもした。

これからどうするんだろうか…
また今度見に来よう。

とりあえず自分で納得できるくらい走り込んで帰路につく。
来週は時間が取れそうだからラピュタに行こう、とか考えつつ昼前に帰宅。

そしてそれは起きた。

オクサマが洗濯をしている脇でサイクルジャージを脱ぐと、ワイの胸に羽蟻の死骸が張り付いていた。
1匹2匹ではない。
大量の羽蟻の死骸が胸いっぱいにはりついたいたのさ。
本当に胸毛が、剛毛が生えてきたのかと思ったくらいだ。リック・スタイナーみたい!って。
マジか!って口走りそうになった。
しかしこんなのオクサマに見られたらエライことになるであろう!
って咄嗟にオクサマに背を向け、鼻をすする音を出しながらティッシュを手にし素早く胸を拭った。
一瞬写メを撮ろうかとよぎったりもしたけど、そんなもの誰も見たくないだろうし、ワイだって見たくはない。
何匹かはまだ生きていたようだったが、手早く全て拭い取り、丸めて「あー鼻が…」とか言いながらゴミ箱に捨て、オクサマに感づかれることもなく事なきを得た。

それにしても、走っているときは、ほぼ上までファスナーは上げていたし、前傾姿勢をとったとしても首元に隙間はなかったはず。
あったとしても大胸筋全体に虫が張り付くなんて考えにくい。
顔や耳や頭髪ならわかるのですが…。
いや驚いた、怖かった、そして恥じらった。
数日経った今は、本当にあれは現実だったのだろうかとイブカシゲニ眉唾をマンジリトモセズ首をひねるワイであった。

こんな経験したことある人います・・・?

まさか

もしかして…時空を超えるときは胸に虫が張り付くものなのだろうか…?
そういえば映画グリーンマイルでも虫が超常現象の象徴みたいに登場してたしな…。

みなさんも時空を超えるときは虫に注意しましょうね!

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