ラピュタへの道44 都民の森の祇園精舎の鐘の声
前回の川崎マリンエンデューロで少なからず経験を得て、自信を育んだワイ。
後日走りに行ってもまた成長を感じるのであった。
これは成長を感じ取る能力がアップしたのか、それとも単に著しく成長しているのかと、眉に唾つけ訝しげに首を傾げつつほくそ笑みながらも、調子に乗るなと自戒の念を込めながらもアマゾンで新たなサイクルジャージとバーテープとサイコンマウントとアームカバーを購入してしまった。早く来ないかな。
そんなある日、そう言えば今年の10の目標の中の「都民の森ヒルクライム60分切り」もこの勢いでやっつけられるのでは?とひらめいた。
脚力がアップしているのは確実。今までの最高タイムは61分くらい。
更新はまず間違いないであろう。今のワイなら下手すりゃ55分くらいいけんじゃないの!?
と、自戒の念など忘却の彼方に置き去りにしたことを失念しつつ遺憾に思いながらも葬り去りお茶を濁し蓋をしながら早朝意気揚々と出発するワイだった。
道中足を使いすぎないように抑えつつ、武蔵五日市駅を順調に通過する。
地味に長い、駅から都民の森ヒルクライムスタート地点へのアプローチをこなしていると、少しづつ緊張してくる。
この緊張感は何処から来るかわかっている。
これから始まる1時間の苦行からだ。
こないだのレースの時よりナーバスになっている。
しかし怖気づく自分に喝を入れ、奮い立たせ、おだて、乗せ、鼓舞し、背中を押し、ありったけの知恵と勇気とガッツと根性をかき集め、檜原村役場の先のT字路を左折し、いざワイの孤独なタイムトライアルは幕を開けた。
調子はいい。ここまで60㌔くらい走ってきた疲労はない。
ほれ見ろ、実力は上がっている、自信を持つんだワイ!
序盤踏めるところは踏み飛ばす。エアロポジションをしっかりキープし最大限のスピードと最小限の疲労で突き進む。
ダウンヒルしてくるサイクリストに「ちわ!」とか声をかけてシカトされたって、いいじゃないか、と気持ちは切らさない。
ちょっとしたギャンブルのあの信号につかまる。
オッケーオッケー大したロスタイムではない、いい休憩になったとナチュラルボーンポジティブシンキングキラーと化したワイは、グリーンシグナルと同時にダンシングでロケットスタートを決める。
20㌔を切らないように登り、40㌔を越えるように下り、その勢いを無駄にせぬようまた登った。
正直まだ半分の半分くらいしか登ってないけどキツイ。
いつかドキュメント番組で新城幸也さんが言っていた「俺もキチイ」って。
それを思い出しながらできる限りの登坂を続ける。
頭の中で「終わったらマック!ビッグマック2つ大人食い!」と自分の前に餌をぶら下げる。
脳内DJにテンションの上がる曲コンピレーションをリクエストする。
ディープ・パープル/ハイウェイ・スター、AC/DC/サンダー、ジョーン・ジェット/スタースター、ビバリーヒルズ・コップ2のテーマ曲、LMFAO/パーティー・ロック・アンセム、プリンス/マイネームイズプリンス、マッチ/ギンギラギンにさりげなく、などなど。全体的に古いな…とか思いつつも青筋立てて熱唱するアクセル・ローズやフレディ・マーキュリーを思い浮かべつつの力走が続き、ようやく旧料金所に差し掛かる。
あと少し!でもここからが本番とふんどしを締め直し、気と身を引き締め、兜の緒も締め、ついでにもう一回ふんどしを締め直しペダルを踏む。
いくつかの、緩まない勾配のコーナーを経て、確かあれが最後のコーナーだったな!という左コーナーに差し掛かり、よし踏め!踏むんだ!あ、違った。とメガトン級の落胆。
しかし歯を食いしばり、気持ちをつなぐ。
やがて、
こっちがラストか!もっかい踏め!根性出せ!う、違った。
どうにか食いしばり涙をこらえる。
これか!今度こそラスト!悔いを残すな!うえぇ〜!!違うのぉ?嘘でしょ!まだぁ!?
と半泣きでいくつかのコーナを心の底から恨みながらのCryクライムは続き、確信が持てる見覚えのある本当の最後のコーナーに差し掛かった。
えぇ全く力なんて入りませんとも。ここまで来たら。
それでも瀕死の登坂をどうにかこうにかやり遂げたワイ。
都民の森の入口に立っていた警備員さんにおかしなものを見る目で見られながらゴールイン。
終わった。ワイの戦いは終わった。
毎度のことながら達成感なんて微塵もない。開放感ならあるけど、そんなことどうでもいい。
よたよたとサイクルラックにキャニオンをかけ、なんとか手すりに腰掛けた。
帰宅し、Stravaにデーターを送る。
約64分…。
いつかのワイ、天才か!
いつかの自分を越えられないワイはいつかの自分に兜を脱ぐのだった…。
しかしよく考えると、都民の森で、あんだけ踏んで出し尽くした筈なのに、帰り道まだ足は残っていた。
スピードや巡航速度、スタミナ、回復力は確かに伸びているようだ。
そう言えばかなり久しぶりのヒルクライムだった。
つまりヒルクライムと平坦では使う筋肉は違うようだ!
平坦は伸びたけど、ヒルクライムは落ちたのだ!なーんだ!そっかそっか!
ということにしましょ。