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見本帳のリサイクル考~「再生」から発想するモノづくりへ

 産業にも動脈と静脈があります。持続可能な生産活動をしていくためには、リサイクルする「静脈産業」が必要になっています。
 総合インテリア商社「サンゲツ」(名古屋市西区)は3月中旬、本社に併設したリサイクルセンターを稼働させました。カーテンや壁紙、床材の見本帳を素材ごとに分解して、再利用できるように仕分けるのです。
 見本帳は、サンゲツの営業に欠かせないものです。約30種類あり、2~3年ごとに改訂されます。

 1960年代に住宅建設が急増し、カーテンや壁紙の需要が高まってきました。創業家で47年間、社長を務めた日比賢昭氏(故人)は、1966年の英国視察でヒントを得て、業界に先駆けて見本帳を作りました。カーテン生地や壁紙、床材など内装材の一部を台紙に張って、レイアウトします。印刷したカタログに比べて、素材の手触りや色合いがわかるので、いまも施工主らに重宝されています。
 2018年に日比社長が実際に使っていた本社7階の「インテリア歴史資料室」を見たことがあります。600冊を超える見本帳が保管されていました。日比社長が愛用した大きな執務机には、掌の跡が残っていました。毎日、机に手を置いて考えたり、内装材をはさみで小さく切り取りとったりして、自ら台紙に張っていた机です。見本帳にかける熱い思いを感じたことを覚えています。

 ただ、見本帳は厚紙や布、プラスチックを含む素材など、リサイクルのやり方が異なる素材が多く使われていて、分別に手間がかかります。自社回収は10%ほどで、大半が埋め立てなど産業廃棄物として処理されています。
 筆者も実際に床材のパーツを剥がしてみました。台紙にしっかり固定され、かなり力が必要でした。これは、現場で剥がれてしまわないように、台紙にしっかりと張り付けているためだそうです。
 1991年に自動車のリサイクルの動きを取材した記憶がよみがえってきました。廃車がプレスされ、鉄くずになって野積みされている光景です。トヨタ自動車は社内にリサイクル委員会を作り、部品ごとに再利用する方法を検討し始めた頃です。埋め立て処理場が各地で満杯になりつつあり、資源の有効活用が社会的な課題になっていました。再利用できれば、希少金属も含めて「宝の山」、今で言う「都市鉱山」になります。
 その取材で静脈産業という言葉を聞きました。体の血液を浄化していく静脈になぞらえた言い方です。それまでの自動車産業は、作ることに専念した、いわば動脈産業でした。それが鉄くずやゴム、バンパーなどを再利用する動きが加速してきたのです。壊しやすく、再利用しやすい部品へ、設計段階から考えていく節目でした。
 サンゲツもまた、リサイクルセンターの稼働に合わせて、剥がしやすく、再利用しやすい見本帳に挑戦しているところです。

 回収されてリサイクル工場に並ぶ見本帳を見ていると、長い努力の結晶だけに、それ自体がインテリアとして美しく感じられました。ちょうど、回収に出す前の古新聞のなかに、見落としていた珠玉の記事を見つけたときのように。
(2021年3月27日)

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