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きんと雲の夢~自動運転AIチャレンジ競技から

 「私は以前から、自動車は西遊記に出てくる孫悟空のきんと雲のようになれば理想だと言っておりました。思うように、好きなところへ、できるだけ早く人を運ぶ。要らないときにはポケットにしまい、必要なときにはポケットから取り出すか、向こうから飛んできてくれる」。この夢を語った人は、トヨタ自動車取締役名誉会長の故豊田英二さんでした。
 夢のある話を思い出したのは、2020年12月12日に公益社団法人自動車技術会主催の第2回自動運転AI(人工知能)チャレンジ競技の表彰式を取材したのがきっかけでした。自動運転は、それ自体が目的ではなく、きんと雲のようなクルマを発明するための手段と思ったからです。
 自動車技術会は、研究者や技術者、学生らで組織しています。会のホームページによると12月現在、個人会員4万9708人、企業など賛助会員699社・団体という規模です。
 昨年は千葉県内の大学研究所で実車を使って競技を行いました。今年は感染防止の観点から、初めてオンラインでのチャレンジでした。12チームがシミュレーションで設定コースを完走させ、タイムを競う方法です。制限速度を守り、歩行者や車、障害物にぶつからず、歩道に乗り上げないなどの交通ルールを守ることが前提です。コロナ禍でフードデリバリーサービスの需要が急増するなか、自動運転車での配達をイメージしたそうです。注文された品を迅速、丁寧に届けるという仕事を自動運転で実現させる狙いです。
 最優秀賞はNTTデータオートモビリジェンス研究所チーム(2人)でした。優秀賞はトヨタ自動車所属のチーム(3人)で、社内の自主活動の一環として参加したそうです。メンバーのひとりは「仕事の後に作業を始め、ときには深夜まで及ぶこともあったが、ソフトウェアなど最先端技術を学ぶことができた。これからも挑戦していくことで自動車産業の発展に貢献したい」と話していました。自動運転に力を入れているトヨタが上位入賞するのは当たり前と思ったのですが、この分野の素人集団と知って、トヨタ技術陣の底力に驚かされました。
 配送サービスもそうですが、高齢化社会の進展にも自動運転は役立つはずです。特に田舎では、運転はできないが移動手段としてクルマのお世話になりたいという需要は確実に膨らんでくるでしょう。
 冒頭の話は1994年7月に名古屋市西区の産業技術記念館で聴いた講演です。トヨタ創業者の豊田喜一郎生誕100周年記念で開催された「モノづくりルネッサンス」の第1回目。豊田英二さんが、モノづくりの夢と若い技術者への期待を語っていました。経済記者として数多くの講演会を取材したなかで、記憶に残る場面です。
 自動運転は、誰のために、なんのためにあるのか。きんと雲のようなクルマの夢も、次回の審査項目に加えてほしいものです。
(2020年12月15日)

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