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時代を刻む社内報~社史の歩みと比べて

 「社内報アワード2022」の続きです。この賞はウィズワークスが主催する全国規模の社内報のコンクールです。
 受賞一覧をみると、サンゲツなど最近の社内報には特集や企画記事に課題解決の視点が盛り込まれてきました。
 たとえば、「紙社内報部門/特集・単発企画8㌻以上」の部。ゴールド賞のひとつ、鹿島建設は「3・11東日本大震災から10年」、シルバー賞の長谷工コーポレーション「脱炭素社会への挑戦」、ブロンズ賞の豊田合成「未来を変えるDX」などです。
 かつて経済部記者のときに注目していたのは、企業の社史でした。1991年10月に「読ませる社史が流行」という記事を書いたことがあります。古い業績礼賛型の社史を第1世代とすれば、失敗事例も記述した歴史型が第2世代。そして書店で売れる社史を目指す第3世代の動きが出始めたときでした。
 この年、セゾングループが出した「セゾンの歴史」(全6巻)のうちの1、2巻が手元にあります。書店に並んだ珍しい社史でした。
 取材した当時の社史の担当者は「広い読者を対象にして、グループの光と陰を包み隠さず紹介することで親しみを持ってもらいたい」と制作の趣旨を話していました。1、2巻の編さんは由井常彦明治大学経営学部教授が担当し、流通専門の学者が執筆しています。
 あれから30年。第4世代の社史は出てきているのでしょうか。「あなたの会社をマンガにする」をキャッチフレーズに企業広報をしている愛知県の中小企業もあります。マンガの社史が書店の店頭に並んでいるのかもしれません。
 ただ、残念ながら周年事業で出される社史には、業績礼賛の底流が見え隠れしています。特にオーナー企業にはその傾向が強い気がします。
 話題になった「小説・巨大自動車企業 トヨトミの野望」(講談社、覆面作家・梶山三郎著)はフィクションとされています。創業家のジュニア社長と辣腕経営者でトヨトミ自動車の危機を切り拓いてきた元社長(小説では武田剛平)らが織りなす権力闘争は、実際にその時代を取材してきた私から見ても真実味がありました。 
 事実、「巨大自動車企業」の社史から、武田剛平のモデルとされた辣腕経営者の業績が消されようとしたこともあったのです。学者やジャーナリストなど第三者の目を通過していない社史は、「現時点の勝者の歴史」であって、必ずしも企業の歩みの光と影を正確に伝えたものではないと思っています。
 その「正史」を補うのは、毎月出される社内報かもしれません。
 かつては、社員を対象にした「内向き」なものでした。最近は環境問題や消費者の動向を意識したテーマ選びが増えて、「外向き」になっています。
 時代を刻んでいくのは、社内報です。専門図書館など社内報を一堂に閲覧できる場所は、いずれ企業研究の貴重なフィールドのひとつになってくるでしょう。
 一方で、社内報の得意としてきた従業員の趣味や子ども誕生など個人情報は、イントラネットを使った職場コミュニティの場に限るなど、内と外を使い分ける時代がきています。
 社史編さん事業について、編集の助言や資料収集をしている企業史料協議会(東京)に話を聞いたことがあります。そのときの担当者のことばを社内報制作へのアドバイスとして添えておきます。
 「第3世代の社史は、企業メセナなど文化面での社会貢献にも紙面を割いています。内容も海外の研究者から実証的だと評価が高まっています」
(2022年9月27日)

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