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バイオリンがつなぐ愛知と信州~「バイオリン王 鈴木政吉が住んだ大府の地」

 中島利一さん(中島特殊鋼、メタニクス取締役会長)から、「バイオリン王 鈴木政吉が住んだ大府の地」(大府学研究会発行、原啓印刷)の著書をいただきました。中島さんは愛知県大府市にまつわる郷土史を研究する大府学研究会の会長。大府学の編集長は、元大府商工会議所専務理事で郷土史家の廣江安彦さんです。
 バイオリン王というのは「鈴木バイオリン製造」(大府市桃山町)の創業者、鈴木政吉のことです。同社は1887年(明治20年)に創業した135年の老舗企業です。2021年当時は、名古屋市内に本社がありましたが、かつて分工場があった大府市に本社を移しました。
 「バイオリン王 鈴木政吉が住んだ大府の地」では、鈴木政吉の生い立ちや、三男で「スズキ・メソード」の創始者、鈴木鎮一について書かれています。
 スズキ・メソードは鈴木鎮一が唱えた「才能は生まれつきではない、どの子も育つ、育て方ひとつ」のモットーで知られています。(本書166頁)。
 鈴木鎮一が1951年から1994年まで43年間暮らした邸宅が長野県松本市にあります。旧邸宅は松本市が鈴木鎮一記念館(深志3丁目)として1996年に開館しました。記念館コンサートが続けられており、2010年には大府市出身の世界的なバイオリニストの竹澤恭子さんが出演しています。
 本書によると、竹澤さんは大府市立大府小学校1年生で海外演奏活動のために選抜される10人の「スズキ・チルドレン」に選ばれ、欧米での演奏旅行に出かけています。ひとつの才能が育っていたのだと思います。
 新聞記者時代、モノづくりの取材に没頭した時期がありました。トヨタ自動車の取材がきっかけでした。トヨタグループにとどまらず、製鉄や航空機、日常生活に欠かせない鍋や包丁、髭剃りの刃まで、東海地方は今もモノづくりの現場の宝庫です。
 過去にさかのぼっていくと、モノづくりの源流がみえてきます。当地は鈴木バイオリンだけではありません。岐阜県可児市のヤイリギターのアコースティックギターは世界のミュージシャンが愛用しています。名古屋市熱田区の旗屋小学校には日本で現存する最古のピアノ「山葉1号」がありますが、ヤマハやカワイ(河合楽器製作所)のある静岡県浜松市は楽器産業が集積しています。名古屋市はパチンコ産業も盛んな土地柄です。 
 理由のひとつは、材料の木材が豊富で、しかも木曽三川や天竜川などの水運で運びやすかったからです。2月に「大人の学びなおし」(ナゴヤ イノベーターズ ガレージ主催)
で聴講した愛知県立芸大の井上さつき教授の「ピアノの近代史」の講義のなかにも、木材の集積地だった利点をヤマハ、カワイなどの楽器産業が成長した理由の一つにあげていました。

鈴木政吉の本note

 1冊のバイオリンの本は「大府学」という切り口の本ですが、愛知と信州を結ぶ一冊でもあります。
(2022年2月22日)


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