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白球に見る戦争と平和~高校野球長野県大会から

 各地で第104回全国高校野球選手権大会の県予選が熱を帯びています。
 数ある競技の中で高校野球が突出して日刊紙の紙面を割いていることに異論があることは承知しています。この稿ではあえて「戦争と平和」を考える事例として取り上げました。
 27日に長野オリンピックスタジアムで行われた長野県大会準決勝。見覚えのある高校名に出会いました。小諸商業高校です。
 小諸商は長野県小諸市にある県立高校です。準決勝進出は47年ぶりです。準決勝の対戦相手は佐久長聖。1-3と善戦しました。
 小諸商のことを知ったのは、新聞記者のころに担当した高校野球愛知県大会の取材の時でした。「この本を紹介してもらえないか。うちのOBが書いた本なんだ」。渡された本は、「白球にかけた青春~陸軍特攻隊員 渡辺静」(中島正直著)でした。
 小諸市に隣接する佐久市の郷土出版社、櫟(いちい)から出た本です。主人公は小諸商出身で陸軍特攻隊で戦死した元プロ野球朝日軍選手、渡辺静さんです。
 平和の象徴であるスポーツ競技にも軍靴の響きが近づいた1941年。この年の7月12日は、文部省が次官通牒(つうちょう)を発して、「全国的運動競技大会中止命令」を出した日です。夏の高校野球大会の前身、全国中等野球大会も中止になりました。
 小諸商は中止命令の出る1か月前、愛知・東邦商業(現・東邦高校)を迎えて練習試合をしています。渡辺さんは小諸商の4番バッターでした。この試合は延長12回3-3の引き分けでした。
 この年の東邦商は春の選抜大会で3回目の優勝を果たしました。夏の大会は、渡辺さんら全国の球児たちが「打倒・東邦商」を目指して集まるはずでした。
 「白球にかけた青春」の著者、中島正直さんは、運命の7月12日のことを「球児たちに降りそそいだ氷雨」と表現していました。
 野球に限らず、優秀な学生たちが学徒出陣で尊い命を落としていきました。この本を紙面で紹介したのは1986年夏。当時は、白球を追うことができる平和のありがたさを知ってもらいたいという思いで記事にしたことを覚えています。
 各地の予選でも、また野球以外の競技でも、戦争に翻弄されてきたスポーツの歴史を知るきっかけになればと願っています。
(2022年7月28日) 
 表紙写真は小諸市高峰高原の雲海(こもろ観光局)

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