トヨタとからくり人形~九代玉屋庄兵衛展から
翼を広げた鶴がスポットライトを浴びていました。
からくり人形師の九代玉屋庄兵衛展がJR名古屋タカシマヤ10階特設会場で開かれています。順路の最後の方に大きな鶴のからくり人形があります。初代の玉屋庄兵衛が作り、戦災で失われたものを九代目(1954~)が300年の時を経て復元させました「初代ゆかりの鶴を復活させるのが夢」と語っていた九代目は、鶴の骨格の研究から始めたそうです。
会場には東海地方で盛んな山車祭りで使われている「山車からくり人形」が多数展示されています。また、歯車などのメカニズムとぜんまいの動力で自動に動く「座敷からくり人形」もあります。お茶を運んだり、文字を書いたりする「江戸のロボット」ともいえる超絶技巧が分かりやすく紹介されていました。
九代目の取材で思い出しました。2018年1月、海外からの観光客の誘客の取り組みとして、名古屋・愛知のモノづくりの現場をもっと海外に発信しようという企画がありました。
(2018年1月26日、名古屋市中区の蔦茂で ©aratamakimihid)
海外からメディア関係者を招き、名古屋の老舗料亭「蔦茂(つたも)」で九代目が実際にからくり人形の製作過程を説明する企画です。茶運び人形や「弓曳童子」の動きを実際に見せたところ、海外メディアのカメラが一点にフォーカスされて、大変な熱気でした。一般的な観光地やグルメとは違った伝統ある日本の文化に驚いたのでしょう。
愛知県はトヨタ自動車のおひざ元ですが、トヨタの元エンジニアがからくり人形に魅せられ、からくり作家とし活躍しているというニュースもありました。「茶運び」や「文字書き」などのからくり人形を製作して、2019年10月に国際人形劇フェスティバルに出演するという内容です。同年9月に豊田市がニュースリリースを出しています。
実は元トヨタエンジニアのからくり作家を1986年の正月の企画記事で取材していました。中年の活躍を描くシリーズで、トヨタ自動車の人力飛行機同好会のメンバーの一人、エンジン部の山崎津義さん(当時45歳)です。すでに軽飛行機(室内機)の世界大会にも出場し、次の目標は足でペダルをこぐ人力飛行機で英仏間のドーバー海峡(約35㌔・㍍)を渡ろうというものでした。実に多彩な趣味と特技、そして大きな目標に驚かされました。
そして最先端のエンジン技術者は、定年の2年前にからくり人形に魅せられました。九代玉屋庄兵衛さんから基本を習って、新たな世界に羽ばたいたのです。ハイテク社会のなかにあって、人力だったり、ぜんまい仕掛けだったり、このアナログ感がたまりません。トヨタグループでもからくり仕掛けで荷物を運搬する取り組みを進めるなど、ハイテクの陰で江戸のロボット技術が見直されています。
そんなことを考えながら、玉屋庄兵衛展を堪能しました。期間は今月28日まで。入場料(税込み)一般1000円、大学・高校生800円、中学生以下無料。
(2022年2月26日)