ノーベル賞発表は「出を待つ」心境~佐川眞人・大同特殊鋼顧問を取材して
毎年10月上旬はノーベル賞の発表が続きます。2023年の物理学賞は10月3日、化学賞は4日でした。中部地区にゆかりのある候補者の一人、名古屋に本社を置く大同特殊鋼の佐川眞人顧問の受賞に備えて待機しました。
■ネオジム磁石
佐川さんは物理学賞と化学賞の候補と見られており、インターネット中継で受賞が決まれば、本人が記者会見に臨む段取りです。いわば、「出待ち」を静かに見守る感じでした。
佐川さんの研究評価は、ネオジム磁石という最強の磁力を持つ磁石の開発と大量生産技術に貢献したことです。最近の受賞は、LEDやリチウム電池など世の中の進歩に貢献している技術が選ばれる傾向があります。ネオジム磁石は、電気自動車や風力発電のモーター、ロボットや家電など幅広く使われています。
アカデミズムやジャーナリズムの現場から候補者と目されてきたのは、世界で権威ある工学系の賞をほぼ網羅していることも挙げられます。2022年には英国のエリザベス女王工学賞も受賞し、23年10月12日にバッキンガム宮殿でチャールズ国王からトロフィーが手渡されています。
■取材までの流れ
さて、今年のノーベル賞ですが、残念ながら佐川さんの名前はアナウンスされませんでした。当日集まった20社ほどの記者たちは、夕刻から名古屋市内の会場で取材のエントリーを済ませ、さらに5分間の個別インタビューの抽選をして、午後7時頃の発表を待って会場に待機していました。
両日とも受賞なしと分かってから、佐川さん本人が会場に来て、報道陣にあいさつしました。「みなさん、ありがとうございます。わたしはまだ元気なので、来年がありますから」との言葉に記者から拍手が送られました。
名古屋で会見場を設けたのは今年初めてでしたが、佐川さんは「所属している大同特殊鋼が研究をサポートしてくれますので、これからもこの機会があれば名古屋でやっていきたいと思います」と話していました。
■出を待つ心境
私が駆け出し記者の時、愛知県小牧市で文楽を描く画家、大塚香緑さん(当時77歳)のアトリエに行って話を伺っていました。明治時代の日本画家、川端龍子の弟子で、人形浄瑠璃の吉田文五郎さんから「本物の頭(かしら)より面立ちがいい」といわれたことも。出を待つ文五郎を描いた畳一畳の大作で頭角を表したのです。出を待つ人を描くのは、その心持まで含めて力量が問われたことでしょう。
■「来年に期待しよう」という磁力
今回のノーベル賞候補者の「出を待つ」心境も傍で見た限りではわからないのですが、会見場に顔を出して記者たちをねぎらう気配りには、「来年に期待しよう」と思わせる磁力がありました。
11月24日に愛知県知事公館に大村秀章知事を表敬訪問したときの様子は次回、ご報告します。
(2023年12月10日)