中部圏のスマート農業~JA西三河(西尾市)の視察から
中部9県を対象にしたシンクタンク、公益財団法人中部圏社会経済研究所(名古屋市中区)。大型連休前の2024年4月30日、報告書「中部圏のスマート農業に関する調査研究」(A4判・70㌻)を公表しました。
この中でJA西三河(愛知県西尾市)の取り組み事例が紹介されていました。私は2024年2月6日、西尾市のキュウリ、イチゴ、鉢物生産者に話しを聞く機会がありました。今回の報告書のタイミングでJA西三河の取り組むスマート事例をリポートします。
■きゅり部会の実績をイチゴに横展開
報告書に紹介されているJA西三河きゅうり部会は、2019年度に農林水産省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」に選定されました。「ICT(情報通信技術)に基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一環体系の実証」という長い名称ですが、要は「あぐりログ」という機器がハウス内の温度や湿度など環境データを集め、実際に育っているキュウリの状態と照らして最適な栽培環境を生産部会で共有していく取り組みでした。
収穫量は44%向上し、労働時間も収量1トンあたり10%ほど削減できています。視察当日の説明では、きゅうり部会からイチゴなどの生産者も「あぐりログ」を活用して生産性の向上につなげていると聞きました。
■イチゴパック詰め26%削減事例も
2月6日には西尾市内のイチゴ農家を見学しました。「スマート選果」は、これまで取材してきたイチゴ農家のイメージを変えるものでした。
センサーを備えた親機にイチゴをトレイごと置きます。カメラ画像とX線画像を使って重さと形を人工知能(AI)で判別。子機に座っている選果担当者は、画面に写ったイチゴに順番に光が当たるので、指示されたイチゴをパックに詰めていくだけ。熟練の技を機械がサポートしています。
この生産者がスマート選果システムと手詰め作業を比較したデータがあります。レギュラーパック(250㌘)でスマートは58秒、熟練者を交えた手詰め作業の4人平均は78秒。26%削減できたそうです。
■生産者半減をカバー
スマート農業先輩格のキュウリは、栽培面積も部会員数も20年で半減しています。
一方で単位面積あたりの収獲を上げたことで、「販売金額は20年前を維持して産地として生き残れている」(JA西三河)といいます。
■今後へ期待
中部圏のスマート農業の報告書で、私が注目した記述は、「農業高校におけるスマート農業教育」「農業大学校における担い手へのスマート農業教育」でした。
農業高校の事例では、長野県下高井農林高校が2023年11月、北海道大学スマート農業教育センターから講師を招いて研修しています。
中部圏の農業大学校は、長野、静岡、岐阜、愛知、三重、滋賀6県にあり、スマート農業のカリキュラムが組まれています。報告書は特筆事例として、静岡県立農林大学校(閉校)を母体として、全国初の静岡県農林環境専門職大学を2020年に開校したことを挙げています。
長野県はドローン免許の取得、愛知県はドローンを使って栽培状況をチェックできるドローンセンシングとデータ解析に重点を置いています。
これから就農する人たちにはスマート農業の知識と実践は、ますます急務です。
(2024年5月13日)