見出し画像

犬より速い男

これは二十歳の僕のネパール日記。

-------------------
ホテルに着いた。
駅をおりてから死にそうだった。
今日は本当にねむりたいのでまた明日書くことにする。

日本人の先生、バイク、犬においかけられ死を感じたこと、ゴミ、ちり
本当に怖い
-------------------

ダイニングメッセージのように書き殴られている。
これは、
ネパールに降り立った夜、ホテルの部屋で書かれた日記だ。
あの夜道を私は忘れない。。

------


辺りは真っ暗、時刻は分からない。

飛行機が止まり、いよいよ遂に未知の土地だ。

空港を抜け
「tax??????」とキャッチの声が怒号のように飛び交う通りに出た。

空港から5分しか歩いていないと言うのに辺りは真っ暗。
道端には大量のゴミと犬、そして灯のついていない不気味な夜店が不揃いに並んでいる。

怖くなり、すぐさまタクシーを呼んだ。
憧れの「バイタク」だ。

目的地を告げた。
バイクにまたがり、運転手の脇をがっちりと掴んだ。

どっどっどっドュルルルルーン

「ちょっと待て、俺はバイタク初心者なんだぜ」

舗装されていない道を、想像を超えるスピードで走っていく。

砂埃が風に舞い目を開けていられない。

所々に街灯はあるものの、街灯の下にはゴミ溜まりが、

鉄筋コンクリートが剥き出しで、今にも崩壊しそうなビルが立ち並び
軒下にはまたゴミと犬。

町中が生ゴミの匂いと闇に包まれている。

そしてバイタクの運転手はずっと誰かと通話を楽しんでいる。

来なければよかった…

もう既に私の心は折れてしまっていた。


30分ほどバイクを走らせると、私の指定したホテル近くの場所に下ろしてくれた。
200ルピーを払うと、颯爽とバイタクは帰った。

財布を鞄にしまい
道端に立ち止まり、マップを確認した私は驚愕した。

ホテルまでは、ここからさらに徒歩30分以上もあるのだ。

最悪だ…
知らぬ土地で、マップ上の距離感覚が全く掴めていなかったようだ。
仕方ない。
あまり車通りがなかったのもあり、私は歩いていくことにした。

ドチャっ
道路の泥に足がはまる。

ガッシャン
積み上げられたゴミ袋の方から音がする。ネズミだろうか

プープーー
クラクションが鳴り続ける。この街は静けさを知らない。


交差点を抜けると金に輝く仏像があった。
しかしその横の地べたには何人もの人が寝込んでいる。


そーぅっと起こさないよう私はそこを通り抜け…
ワンッッッッッッッッッッッッ
うガァオ ヴァン ヴァン アウォーーーン

犬だ!

ドタドタドタドタ
走ってこっちに追いかけてくる。

私は死に物狂いで逃げた。

ヴァンヴァンヴァンヴァンっ

まだ走って追いかけてくる
誰もいない真っ暗な夜道

とにかく走った

そうして
犬と競争して勝ったのだ。
私は人生で初めて死の恐怖を感じた。
人生で一番速く走った。

そう、私は犬より早い男なのだ。


息が上がったままカバンから折り畳み傘を取り出した。藁をも掴む気持ちだったが、

次来たら殴り殺してやる。
そんな殺意に満ち溢れていた。

ホテルまではまだ20分もある

傘を最大にまで伸ばし構えたまま暫く歩くと、そこからさらに暗い裏路地に入った。ホテルはこっちらしい。

↑マップはこの先の薄暗い道を指している

ガラッと雰囲気が変わり、匂いもさらに強くなった。
果てしなくシャッターとゴミが続くその路地にはネズミの声が響いていた。


この先は行ってはダメだ

僕の心がそう話しかけた。

僕はその言葉を信じ、大きな通りに戻った。
タクシーを呼び
今度はちゃんとホテルの前まで送ってもらった。


そして
この日の恐怖が拭いきれぬまま、一週間を過ごすのであった。


次回: 密室で脅される/パーティーに呼ばれる

の二本立て
見てね!!!!!!

初日は疲れるだろうと思い予約した良いホテル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?