デザインチームのリーダーとして経営に貢献するために私がやっている8つのこと
ここ数年、デザイン組織の作り方に関する話題が増えてきました。web制作会社である私たちベイジでも、以前よりデザイナーを中心とした組織設計に力を入れており、各所で語られるデザイン組織に通じる取り組みを色々と行ってきました。特にデザインチームを統括する私のようなリーダーには、その働きがしっかりと経営に貢献するような流れを作り出すことが求められます。そこで今回はそんな私がデザイン組織を作る上で実践している8つの行動をご紹介したいと思います。
・デザイン工程をシステム化する
・スキルをできるだけ言語化・形式知化する
・デザイナー間のコミュニケーションを活性化する
・非デザイナー系のメンバーとも交わる
・経営者の仕事をできるだけ巻き取る
・SNSを活用して外部に露出する
・働き方に深く関与する
・ビジョンや仕事の意義を語る
1. デザイン工程をシステム化する
昨今のデザイナーやエンジニアは、一つの会社で何十年とキャリアを積み重ねる人は稀で、転職して当たり前な時代です。そうした状況でノウハウが属人化していると、組織としての制作力は蓄積されていきません。組織自体に制作力を根付かせるためにはこの「属人化」を可能な限り無くし、人が変わっても一定レベルで制作できるデザイン工程の仕組みを作る必要があります。(ここで取り上げるデザイン工程とは表層的なUIデザインの話ではなく、プロジェクト設計から戦略策定、設計、デザイン、コンテンツ制作、開発、テストまでのすべての過程を含んだ部分までを指します。)
この点においてベイジでは、web制作のワークフローを約140のタスクに分解し、それぞれに必要となるドキュメントをすべてフォーマット化しています。そして一定のレクチャーで仕事の流れを再現できるシステムを作りました。web制作のタスクは多岐にわたりますが、サイトの種類が違っても一連の制作の流れには共通する部分が多くあります。これらを一つのワークフローとしてまとめることで、関わる人のノウハウの有無に関わらず、一定の水準でプロジェクトを進めることが可能になります。
私の主な担当範囲は戦略策定からデザイン、コンテンツ制作あたりが中心ですが、このワークフローの整備に関しては後々の開発工程にまで意見を出しています。その背景には、長年多くのサイト制作に携わる中積み重ねた失敗や試行錯誤といった属人的なノウハウを、少しでも会社全体のワークフローの中で活かしたい、という思いがあります。
私が入社した当時は5名ほどだった制作者は現在15名を超え、今後もさらに増える予定です。経営課題のひとつである「属人化の最小化」のために、できるだけ現場に居る自分の立場からワークフロー化に意見することが、経営への貢献につながると考えています。
2. スキルをできるだけ言語化・形式知化する
前述したワークフローの整備の中にある具体的な行動として挙げられるのが、スキルを明確に言語化・形式知化することです。これは特に経験年数の違いやキャリアのバックボーンの違いが多い組織において大切になります。
例えばUIデザインにおいては「綺麗」という言葉一つとっても、捉え方は人それぞれです。何をもって綺麗とするか、言葉の定義を曖昧にしたままコミュニケーションを続けると、無駄な作業やコミュニケーションにおける摩擦を生みやすくなります。
他にも「センス」や「クオリティ」といった暗黙知になりやすい部分を明確に言語化する習慣があると、絵目指すべきゴールが分かりやすくなり、結果的にデザイン組織全体の総合力をアップさせることにつながります。
例えばベイジでは、図の作り方、ランディングページやUIトレンドのセオリーといった部分もドキュメント化、言語化して社内で共有しています。また経験者だけでなく、まったくのデザイン未経験者が一定レベルまでスキルを上げられるようなwebデザインにまつわる練習ドリルの準備も進めており、組織としての考え方が共通認識として理解できるよう言語化しています。
加えて、特にデザイナー陣全体で弱いと感じられるスキルについてはリーダークラスが教育用のドキュメントをまとめて体系的に知識を共有する活動も行っています。これまでも、デザインの基本原則、品質の高い写真の選び方といった普遍的なものから、マテリアルデザインやデザインシステムといったトレンドに至る部分まで、幅広く取り上げています。
こうした諸々の暗黙知を可能な限り見える化・言語化することが人による質のばらつきが少ない、強い組織作りにつながるのではないでしょうか。
3. デザイナー間のコミュニケーションを活性化する
デザイナーが持つ知識はデザイナー同士のコミュニケーションによってさらに活性化されます。一人の学びや失敗を一人の中に閉じ込めておくのではなく、可能な限りオープンにすることで、組織としての力に昇華させることができます。
ただ、ここで言うコミュニケーションは「デザイナー同士が仲良く楽しく会話が多い」という状態を指しているわけではありません。仲が良いことも勿論大切ではありますが、もっと大切なのはコミュニケーションの中でしっかりと知識が共有されるかどうかです。
たとえばベイジではデザイナーだけでの社内勉強会を週一回のペースで継続しており、それぞれが直近のプロジェクトで作成したものを見合わせ、作成した時のポイント、つまずいた点などを共有しあう場にしています。この活動は客観的な視点を養う上でとても効果的です。
なぜその提案内容にしたのか、それをどのようにお客様に提案したのか、その結果どんなフィードバックがあったのかなど、個々がプロジェクトを通じて学んでいることは沢山あります。この経験を個々人の中に閉じ込めずに周囲に共有することで、同じ失敗の回避、自分では気が付かなかった視点の発見、さらに良くするためのアイデアの発見につながります。
またUIデザインにおいてはPinterestで参考デザインを収集するボードを共有して良質なデザインを収集し、実務の中でどのように応用したのかを話したり、社内チャットでデザイナー専用のチャンネルを作成して、参考になる記事やイベント、デザイナーならTwitterでフォローしておくべき人物などといった情報まで幅広く共有したりと、さまざまな形で情報を共有しています。
新卒2〜3年目から私のように15年以上の経験がある者まで、それぞれのレベル感には幅があるものの、デザイナー間の情報格差はできるだけ最小化するように取り組んでいます。
4. 非デザイナー系のメンバーとも交わる
UIデザインは戦略・設計フェーズと開発フェーズの間にあり、前後の工程といかにスムーズに繋げるかが、プロジェクト進行や制作物の品質に大きく影響を与えます。
そのため、デザインチームのメンバーがディレクター陣やエンジニア陣との接点が少なく、自分のデザイン作業にのみ没頭して孤立してしまう状況は避けなければなりません。他の職種の業務を理解し、自分以外の人々の仕事が楽になるような動きを意識させる必要があります。
例えば対エンジニアにおいて、データの受け渡しといった簡単なやりとりであっても、開発側にとって開発しやすいデータの作り方と、デザイナーにとって理解しやすいデータの作り方には違いがあります。些細なことではありますが、こうした小さな火種が大きな衝突になることは少なくありません。
ベイジではこうした小さな認識違いを払拭するために、デザイナーとエンジニア間で日頃気がついた小さな課題について議論するミーティングを定期的に設けています。課題は共有しているスプレッドシートに両者いつでも記入できるようにしておくことで、忙しい業務の合間で対応できます。
またディレクターやプロデューサーとの関わりにおいては、直近で提案した戦略設計関連の資料を社内の希望者に説明する場を不定期で設けています。こうした場を作ることで目の前のデザイン業務だけでなく、常日頃からディレクターやプロデューサー陣が考えている戦略や顧客との関係性を知り、その流れの中でデザイン制作フェーズがあることを理解できるため、自然と戦略をデザインに反映できるようにしています。
このように、日頃の会話といったライトなコミュニケーションだけでなく、具体的に他の職種とシームレスに連携させる活動や仕組みを考え、実行することを大切にしています。
5. 経営者の仕事をできるだけ巻き取る
ベイジの代表の枌谷は、経営にまつわる各種業務やマーケティング戦略の提案に加えて自らデザインまで担当できてしまうオールラウンダーです。そのため、営業から戦略提案、デザイン制作まで一貫して枌谷が担当してしまうのが効率的な案件も多々あります。他の会社でも創業者自らがなんでもこなしてしまうという状況はよく見かける気がします。
しかしデザイン組織を作る上では社内にある限られたリソースをどう分配し、どう組み合わせるのが組織全体で最も高いパフォーマンスにつながるのかを考える必要があります。オールラウンダーに何でも任せてしまい、他の人の手が空いたり、各人が一つ上のレイヤーの難しい仕事にチャレンジしない状況を作ってしまうと、組織全体の成長につながりません。
例えば先に挙げた代表の枌谷の場合、市場のニーズが最も高く、利益につながる仕事はマーケティング関連の仕事です。また他の社員では対応できない経営周りの仕事も多数存在します。この独自性が年間400件を超えるお問い合わせに大きく影響しており、我々自身が顧客を選べる環境につながっています。さらにはそれが社員の働きやすさにつながり、個々の能力を発揮するための頑丈な土台となっている現実があります。
こうしたベイジという会社全体を動かす能力と、プロジェクトの一部であるデザイン業務、どちらを代表に優先してもらうべきかは明白です。デザイン周りの仕事は私や私以外のデザイナー陣ができるだけ巻き取り、経営、マーケティング、プロモーション、会社の数年後のための種まき活動などに代表のリソースを使うことが、回り回って組織に属する人々全員の働きやすさに影響を与えることになります。
最近は代表の仕事を巻き取るという観点から、自社へのお問い合わせ管理に利用しているHubSpotを活用し、会社と相性の良さそうな顧客を見極めて営業に出向くといった仕事も、ディレクター陣で対応するようになりました。こうした活動はB2Bサイト作りに強みを置くベイジという会社の特性からも非常に学びになることが多く、専門領域であるweb制作に活かせる考え方も多く学べます。
このように、経営者を経営に集中できる環境をデザインし、その流れの中でデザイナー自身も経営に少しずつ関与する領域を増やしていくことも、デザインチームのリーダーは積極的に考えていく必要があります。
6. SNSを活用して外部に露出する
デザイン組織を作る中でも特に大きな課題のひとつとなるのが採用です。企業のカルチャーにフィットする優秀な人材をどうやって効率的に組織に取り込んでいくかは、どの企業も頭を抱えているところではないでしょうか。
ベイジは広報機能を持つ上場企業でもなく、知名度の高い企業でもありません。そんな会社が良い人材を惹き付けるためにできることはただ一つ、社員自らが積極的に自分たちの文化や仕事の内容、考え方を露出して、認知を高めることに尽きます。
会社で働いている間は目の前の仕事を一生懸命こなすことも大切ですが、ひたすらそれだけを続けても広報の組織を持たない会社においては、外部には何も伝えることはできません。依頼元のクライアントから感謝の言葉があるかもしれませんが、クライアントが自社の文化を理解した良い人材を紹介してくれるわけではありません。
SNSは最も手軽な情報発信手段です。業務中に考えたことをTwitterで140文字にまとめて言語化したり、少し深掘りして調べたことをFacebookで共有したりと、最小限の手間で外部に情報を発信できます。私が発信している情報の多くは、そうした仕事の中で感じたことが多くを占めています。
デザイン組織は人と人が互いにリスペクトし合うほど、結びつきが強固になります。そのためには自分自身の活動、考え、人となりを外に対して可視化する必要があります。可視化が進み、それらの情報への共感を経て採用につながった人材は、カルチャーフィットの度合いも高い可能性があります。
しかし、誰もがSNSでの情報発信を好むわけでもありません。SNSの利用は業務命令でもありません。ですが組織として情報発信する人を推奨すること、その理由はなぜなのかを理解してもらうよう宣言し続けることは、共感する人を惹き付けるために必須の行動なのではないでしょうか。
こうした採用に対する良い流れを率先して作り出すことも、経営に貢献する上でデザイナーのリーダーには求められると私は考えています。
7. 働き方に深く関与する
デザインのクオリティを上げるために、どうしても長時間労働は常態化しがちです。どちらかと言えば私も時間の制限なく夜遅くまで仕事を続けがちで、過去には「今日は徹夜でクオリティを上げるぞ」と開き直ることも多々ありました。
一度こういった考え方が組織に蔓延すると、短時間で高い生産性を追求する文化が作り辛くなり、組織全体が疲弊して利益につながりにくい体質になります。デザイナーはこうした性質があるからこそ、リーダーがメンバーの勤務状況を把握し、退社時間が遅くなる兆候がみられたらすぐに注意喚起を促すことが大切になります。
例えば、ベイジには平日はどんなに遅くても21時まで(水曜日は19時まで)に仕事を切り上げるルールがあります。また当然土日出勤しなくてよいスケジューリングも心がけています。まず組織全体に仕事時間の短縮を促す場合、こうした社内ルールを整備して皆で守れる空気を作ることが重要です。
しかし納品が間近な時、またはプロジェクトが遅延した時などは、徐々に帰宅時間にも乱れが出て来るのですが、こうした時に注意喚起を行うのもリーダーの役目です。ここでは頭ごなしにルールを破ったことを注意するのではなく、実際のプロジェクトの状況を見て、提出や納品のスケジュールが調整できないか、誰かサポートに入れないかなど、当人が定時を超えて作業しなくてよい状況にするにはどうするのか?を一緒に考える姿勢が大切です。
21時から2時間粘って23時に帰宅するとして、その2時間が提出物の品質に与える影響は少ないものです。その時間の多くはデザイナーが「粘って検討した」という納得感を得るために使っている時間です。このような経験則からも時間は思い切って削るものであると私は考えていて、この考えは社内でも共通認識として共有しています。
これに限らず、アウトプットの質を保ち続けながらも、日頃からメンバーの体調や精神状態、労働状況に目を光らせ、その場の状況に合わせて細かく対処するのもリーダーの仕事です。
先に帰社することで各メンバーの状況が把握できていない、という状況にならないよう、帰宅前にはその日の作業の見通しを確認し、状況に応じた指示を与え、帰宅が遅くならないようにサポートすることを心がけています。
ちなみにそんな私には1歳になる幼い子供がいるため、できるだけ早く帰宅します。子供にとって仕事の遅延は関係ありません。仕事を1時間長引かせて残業する結果は、子供とのコミュニケーションの1時間削減です。ある種、もう一社のクライアントとも言えます。他の仕事に手間がかかったからと言って、それを理由に他の何かを犠牲にすることはできません。そう考えると、社員全員の早い時間の帰宅は私にとっての必須目標とも言えます。
8. ビジョンや仕事の意義を語る
優秀なデザイナーとは「自ら考え抜いて答えを出す人」です。クライアントの指示や依頼を鵜呑みにせず、本当に向かうべきゴールに周囲を導ける人、解決策を提示できる人であると、私は考えています。そして、そういったデザイナーで構成された組織こそ、理想のデザイン組織と言えるのかもしれません。
そう考えると、単なる作業集団ではない、自ら考えて行動できるデザイナー集団を作るにはどうすべきか?をリーダーは考える必要があります。そのためには、日頃からデザイナーに対して目の前の作業を単純に振り分けるだけではなく、なぜその仕事をする必要があるのかという仕事の背景にある意義を伝える必要があるのではないでしょうか。
例えば、今から取り組もうとしている仕事はあなたが達成したい目標の中でも避けては通れない課題であり、これをクリアすることであなたにとってどんな価値が生まれるか、その結果顧客はどんな恩恵を受けるのか、といったことを小さな仕事一つでも伝えるような行動です。
また意義を伝えると同時にできることは、自分自身のリアルな経験を伝えることです。自分は同じような課題を目の前にした時にどのように対処したのか、どんな点で苦労したのか、どうやって乗り越えたのか、その先にどんな未来が待っていたのか。人によって考え方は変わるため、あくまでも一人の先輩デザイナーとしての話にはなりますが、熱意を持って伝えることで与えられるものもあるのではないでしょうか。
加えて私は、目指すべきデザイナー像に則した行動を積極的に評価するようにしています。直接本人に「その考え方はとてもいいね」と伝えたり、毎日社内で共有している日報の中で「今日は〇〇のプロジェクトの中で〇〇さんが〇〇な行動をとっているのは素晴らしいと感じた」と、全社員が目にすることができる場で文章につづることもあります。逆に、目指すべき姿にそぐわない行動に対しては厳しく指摘することもあります。
こうした一連の行動に共通する、デザイナーだけではなく社員全員がどのような人材になるべきか、どの方向を向いて働き続けていくべきか、という普遍的な考え方を伝えていくことが、リーダーに求められる仕事であると考えています。
最後に
ここまでまとめて改めて感じることは、組織を作る上では特別に必要な技術や、誰も考え付かないミラクルなアイデアがあるわけではなく、地道に目の前の問題を細分化し、そこに対する解決策を自分なりに考えて行動を起こしていくことが大切だということです。
また私のようなプレイングマネージャーは、目の前の業務を進める視点に加えて、組織が抱える課題をどのようなシステムで解決するのか?という視点を常に持つ必要があります。モグラたたきのように場当たり的に問題を解決するのではなく、マクロの視点で根本にある原因を見据え、組織レベルでの問題を解決するシステムを作る視点を持てると、経営への貢献度も上がり、引いては自分自身の価値や能力の向上にもつながるのではないかと、私は考えています。
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