情け
小学6年生の頃、友達3人と僕とで一緒に帰っていた。
帰り道に一匹の犬がいる。勝手にジョセフと呼んでいた。
本屋の隣の家にいるジョセフはとても大きく、そして臭い。
よだれを垂らしており、尻尾をメトロノームのように永遠に振り続け、毎日発情している狂犬だ。
友達の一人がじゃけんで負けたやつがジョセフにタッチしてこよう!と提案した。
僕は反対したのだが却下された。
この戦いは絶対に負けられない。男には絶対に負けられない戦いをしなければいけない時がくると誰かに教わった。
この時だと本気で思った。
その日、僕は募金をしており赤い羽根をネームに付けていた。
気になっている子に募金を頼まれ、友達から借りたお金で得た羽だったが関係ない。
きっと勝利に導いてくれる。
そして、じゃんけんが始まった。
"じゃんけんぽんっ!"
僕とたくちゃんが負けた。
たくちゃんはいつもぼーっとしており、学校の休み時間に地図帳ばかり眺めている少し変わった子だ。
僕とたくちゃんのどちらか負けたほうがジョセフにタッチしに行くことになった。
そこで僕は
「たくちゃんが行ったほうが絶対面白いと思わない?」
と恥と男のプライドを捨てみんなに聞いた。
嫌われてもいいと思った。それほどまでにジョセフが怖かったし、臭かった。
なんとその案は通り、たくちゃんがタッチしに行くことになった。
ジョセフはチェーンで繋がれており、相変わらず尻尾を振り、よだれを垂らしこっちを見て座っている。
たくちゃんが行ってくるよと言い、恐る恐る近づいた。
その時、ジョセフが急に立ち上がりたくちゃんに襲いかかろうとした。思いの外、チェーンのリーチが長く、たくちゃんは奇声を発しながら逃げ回った。
そしてたくちゃんはこけてしまった。いつも休み時間に地図帳ばかり見ていたからだろう。
ジョセフは容赦なくたくちゃんを襲い、なめまわしている。
みんなは転げまわって大爆笑していた。
僕の言った通りだった。たくちゃんが行ったほうが面白いことになった。
しかし、僕は笑ってはいけないと思った。
笑うなら自分を笑うべきだと思った。
そして、たくちゃんは「もー最悪だよ~」と笑いながら僕に言った。優しい目をしていた。
そんなたくちゃんはめちゃくちゃにかっこよかったし、めちゃくちゃに臭かった。
僕は赤い羽根を付けているのがいたたまれなくなり、帰りに共産党の選挙ポスター貼り付けた。
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