タン塩の味
友人が以前、「年末に地元の友達と焼肉行ったらその中の一人が店員さんとライン交換したんだよね」と言っていた。
友人曰く、焼肉屋の店員さんは積極的でノリが良く連絡先を交換しやすいらしい。そしてなりより可愛い子が多いという。
その話を覚えていた僕は友人を焼肉屋に誘った。友人はきっとこの話を覚えていないだろうからただ単に僕が焼肉を食べたいだけだと思っているはずだ。
僕はなんとしても店員さんと連絡先を交換してデートを申し込むのだ。友人には邪魔させない。
店につくなりまぁまぁかわいい店員さんが「名前を書いてお待ち下さい」と言う。
この時点から戦いは始まっているのだ。
僕はすかさず "一条" と書いた。
なぜならカッコいいからだ。
友人が「誰?!」とツッコんできたがそんなのお構いなし。
名前を呼ばれ席につくと店員さんがオーダーを取りに来た。
リリィと名札をつけた可愛い系の店員さん。当たりだ。
僕たちが食べ放題のプランを決めると「メニューの中から3品お先にお頼みください」とリリィさんが言うので優柔不断なところを見せてはいけないと思い適当にオススメの"カイノミ"を頼もうとしたが焦って"カキノミ"と言ってしまった。
友人が「え?何?それは果物?」とツッコむとリリィさんが僕の目を見て愛想良く笑った。
100点!星5つ!
愛想も良く、笑顔もよく、多分、性格もいい!間違いない。
それから僕らはタン塩とカルビを頼み、くるのを待った。
3分ほどしてリリィさんが「間違えずに言えたタン塩です」と僕に笑顔でタン塩を差し出した。その瞬間、
♪だぁーいすきよ
あなたと1つになれるのなら
こんな幸せはないわ
お味はいかが?♪
と大塚愛の"黒毛和牛上塩タン焼680円"のイントロが僕の頭の中に流れた。
あぁ。好きになってしまったかもしれない。
なんて可愛らしい笑顔だ。
そして、僕はタン塩を焼きながら考えた。
どうやったら連絡先が交換できる?
つかみはオーケーなはず。ならば次、来たときに…。よし、なにか軽く話をして連絡先を聞こう!
それから僕はいくつも注文した。
いくつも、いくつも注文した。
編みも何度も変えるほどに…。
しかし、それからというものリリィの姿を見てない。
おかしい。もうあがってしまったのだろうか。
そんなことを考えながら8皿目のタン塩を焼いていると流石に食べ過ぎでお腹が痛くなってきた。
ちょいとお花を摘んでブーケにして参りますと友人に言い残しトイレに向かった。
その道中、僕は見てしまった。
リリィが物陰で背の高い男の手を握り上目遣いで見上げているのを。
この瞬間、僕は確信した。
"この男、リリィのタンの味を知っている"
しかも、この男、さっきから僕の席に何度も何度もタン塩を届けてくれた男ではないか。
僕は幻滅した。
さっきまでのんきにタン塩を焼いていた僕がこの男に妬くことになるとは!
くそぉ…。トイレに籠もり僕は一人落ち込んだ。まさか、戦いを挑む前にやられるなんて…。リリィよ。背の高い男が好みなのか!
悶々とした僕はトイレ掃除チェック表の空欄を全て一条で埋め尽くし席に戻った。すると網の上で僕のタン塩だけが焦げており、レジの方からリリィの「ありがとうございました」の声が聞こえた。
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