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「人生で一番大切なもの」がほんの少しだけわかったような気がした
偏食で、潔癖症で、人見知りで、臆病で、インドアな旅に全く向いていない性格の僕。ご飯の美味しさと町の清潔さと言葉の壁を感じずコミュニケーションがとれる安心感が保証されている日本が大好きなわけだけど、「ここなら海外でも住める」と思った海外の町が1つだけある。
顔をなでる南国の風がなんとも心地よくて、町は途上国ならではの活気にあふれていて、そこに住む人たちはいつも笑顔で温かい。少し飛んでいるハエの数が多かったり道が臭かったりすることもあるけど、毎日たくさんの小さな幸せを感じられる場所。
「海外にまた自由に行けるようになったらどこへ行く?」
そう聞かれたら迷わず「セブ」と答える。セブは僕にとって、本当にかけがえのない場所だ。フィリピンの中部にあり、セブ島とマクタン島の2つの島からなる地域。リゾートとしても英語留学先としても有名だから、知らない人はほとんどいないだろう。
二十歳の夏。僕は初めて1人で国際線の飛行機に乗って、セブで語学留学を経験した。
小さい頃からずっと憧れていた海外留学。そして南国での生活。裕福とはお世辞にも言えない家庭で生まれ育った自分には、一生できるはずなんてないと思っていた。でもやっぱり諦めきれなくて、大学を休学して必死でアルバイトを重ねてお金を貯め、セブで最安の語学学校で3ヶ月間も英語を学ぶ夢を掴み取った。
セブでの生活はとにかく幸せだった。南国ならではの時間がゆっくり流れる感覚も、途上国ならではの喧騒も、笑顔の耐えないキュートな現地の人たちも、全てが自分を生き生きと輝かせてくれた。
昼間は学校で英語を学ぶ。夜は友だちとお酒を飲んでたわいもない会話をする。休みの日には出かけて近所のマッサージ屋さんに行ったり、観光をしたり。いわゆる典型的なふつうの留学生活だったけど、それを心の底から楽しんでいた。
太陽の光を真上から浴びながら、切れ味の悪いハサミで友だちに散髪をしてもらったり、道に机と椅子が置かれただけのようなお店でフィリピンビールを飲みながらバーベキューをしたり、ビリヤードで勝ったらコーラをおごってもらったり。日本でもできることをしていただけだったけど、セブにいる間はすべてが特別になった気がした。
でもそんなことを思いながらも当時の僕は、自分が本当に正しい選択をしたのか自信がなかった。就職活動を目前にして1年間休学する道を選んだ自分とは違って、日本にいる大学の友だちたちはいま選考を受けている会社がどうとか内定を何個もらったとかそういう話をLINEでしている。分からないなりにもちゃんと自分の人生に向き合っている。
僕は現実から逃げ出したかっただけじゃないのか?そんなことが頭のすみっこにずっとあって、楽しさに包まれていた反面不安もいっぱいあったけど、そんな僕を変えてくれたのは学校で出会った仲間たちだった。
しょうもないことでずっと笑ってくれる馬鹿な同級生たち
自分の悪いところにも向き合って指摘してくれるルームメイト
仲の良い友だちが日本に帰国して寂しがってたときに慰めてくれた先生たち
たくさんの人に出会って色んな話をして、立ち止まることは悪いことじゃないって思えた。みんな人生に悩んでいて、自分の選択が正解かわからない中で必死にもがきながらも毎日を過ごしている。
人と比べて焦らなくてもいい。自分には自分のペースがあって、良いところもある。こんな自分でも必要としてくれる人はいる。その人たちを大切にして、大切にされていくような人生を送ればいい。
ありきたりなことを言うけど、セブでの留学で得たものは英語力なんかじゃなかった。人生を幸せに送るために大切なこと。それは、有名な企業に務めることでも世界を飛び回ってグローバルに活躍することでもない。もっともっとシンプルで簡単で、自分を大切にしてくれる人たちを大切にするだけ。それだけでいいんだ。
留学生活を終えた僕は相変わらずこれからどういう道を進めばいいのか分からなかったけど、ほんの少しだけ大きくなって日本に帰国した。
留学から帰国後も毎年のように訪れていたセブにも、簡単に行けなくなってしまった。現地の友だちはInstagramで見る限り元気そうだけど、次に会えるのはいつだろう。自分を輝かせる太陽のような存在を失って、真っ暗な部屋に閉じ込められたような喪失感に襲われている人も多いはず。
でも立ち止まることは悪いことじゃない。これを機に新しい自分やいつか大切な存在になる人に出会えるかもしれない。今は自分の身近にある大切な場所を旅をしよう。そばにいる大切な人を大切にしよう。
少し先のことさえも予測がつかないこの世の中だから迷ってしまったりどうしていいかわからなくなることもあるけど、自分の人生の軸はぶらさず常にその意志に沿って少しずつ歩いていく。僕はきっとずっと旅を続けていく。
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