タイランド4.0~高所得国を目指す~
先日のアンケート結果で、タイの政治経済に関する需要が意外にも高かったので、今回は初めてタイの経済事情について書いてみます。
初回は、「タイランド4.0」についてです。あまり聞き慣れないフレーズかもしれませんが、これは今後のタイ経済を大きく左右するであろう経済政策の総称ですので、ぜひ覚えておくと良いと思います。
その大変重要なタイランド4.0政策の概要をわかりやすくまとめたのが、今回の記事です。日本語&タイ語の文献やグラフ等を用いてまとめてますので、ぜひ最後まで読んでみて下さい。
最後に、タイ関連の研究者や参考文献も載せておきました。
Today's Contents
①タイ経済の現在と将来
②「タイランド4.0」が目指すタイ社会
③政策実現性
普段僕は、タイ政治について意見を発信することが多い上、実際に留学先もチュラロンコーン大学の政治学部でした。なので、みなさんの中には専門はタイ政治関連ではないかと思っている方も多いと思いますが、実は経済系のゼミに所属しており、卒論もタイの経済について書く予定です。
ですので、経済ネタも常にウォッチしてます。個人的に面白いのが、「タイ政治」、今後社会人になることを考えると必須なのは、「タイ(ASEAN)経済」といった捉え方ですね。
では、さっそく本題に入っていきます。
①タイ経済の現在と将来
タイはASEAN諸国の中でも経済的なパフォーマンスは高いという認識が多くの人の中でなされていると思います。タイに行ったことのある人なら分かると思いますが、様々な国の企業があちこちでビジネスを行っています。日本の自動車企業はその代表で、タイの自動車の9割は日本車という統計もあるくらいです。
自動車のような産業がタイに工場を建設し、タイで雇用が生まれ、タイはそれを世界へ輸出する、このサイクルがタイのよくあるパターンです。典型的な後進国(日本やアメリカに比べて)のやり方ですね。
ただ、CPグループのようなタイ発の大企業はあまり存在せず、基本は外資企業が席巻してます。なので、日本の自動車産業のように世界で活躍できる力はまだなさそうです。
さて、「タイランド4.0」の中身に入る前に、近年のタイ経済を概観してみたいと思います。
(世界経済のネタ帳 出典)
まずは、1990年から2002年までの経済成長率です。(スペースの都合上5か国にしました。)
先に説明しておくと、「経済成長率」とは、「実質GDP」が前年度と比べてどの程度上昇したのかを%で表した数値のことを指します。「実質GDP」は、「名目GDP」から物価変動の影響を引いたものを指します。
つまり、経済成長率は、去年と比べてどれくらい経済が成長したのかを具体的な数値で示したものになります。当然ながら、この数字は高い方が良いです。
では、グラフに戻ってみると、フィリピンを除いた国は10%近くの成長率を叩き出しています。2018年の世界の経済成長率予測が3.1%であることを考えると、当時のASEANはやはりイケイケな時期だったことが分かります。
1998年で一気に急降下しているのは、アジア通貨危機の影響です。細かい内容はまた後日に書きますので、今回は無視で。
この時期のグラフを見ると、タイはかなり経済的に調子が良いことが伺えます。アジア通貨危機からも1,2年でV字回復してます。
ここまでは優等生でした。しかし、次の2002年からのグラフを見ると怪しくなってきます。
(世界経済のネタ帳 出典)
青線のタイを見てもらえば一目瞭然ですが、上がったり下がったりと安定しない成長率が続きます。2014年からは3,4%台で止まってます。(要因は、リーマンショック、洪水、クーデターなど)
国家は永遠には繁栄しないので、成長率が上昇し続けることはありません。中国だって今や過去のような勢いはありません。そもそもあの国の数値は実態を表しているかさえ怪しいものです。
タイの成長率が鈍化していること自体には問題はありませんが、問題はその成長率の低下幅が大きい点です。他の国は6%付近でなんとか持ちこたえていますが、タイは3,4%です。
数値的に見たら、決してタイの経済的パフォーマンスは良いとは言えそうにありません。
GDPで見たら、他のASEANより高いですが、成長率はイマイチです。つまり、今後の経済があまり期待できないってことになります。
この経済的低迷の要因を指す言葉として、「中所得国の罠」があります。これはかなり重要なキーワードですので、ぜひ覚えて下さい。
「中所得国の罠(middle income trap)」とは、安価な労働力や外資誘致などを活用して経済成長を実現したアジアの中所得国が、産業構造の高度化や技術革新への努力を怠れば、時間とともに成長が鈍化し、高所得国への移行が困難になるという考え方のことです。
タイに関して言えば、安価な労働力と積極的な外資誘致策で、自動車などの産業を国内で成長させ、大きな経済成長を遂げたものの、賃金の上昇の割に生産性は上がらず、イノベーションへの投資も依然少ないという状況から、さらなる経済成長が望めない状況にあることを指します。
こうした状況を危惧し、中所得国の罠から抜け出し、先進国入りを目指し、掲げた政策が「タイランド4.0」なんです。
②「タイランド4.0」が目指すタイ社会
「中所得国の罠」に陥っている可能性があるという状況に危機感を持ち、その対策として立案されたのが、「タイランド4.0」です。
この政策が具体的に何を目的にし、どのような対策を掲げているのか下に簡単にまとめました。
【目的】
今後20年間に年平均4.5%の成長率を実現し、2036年には高所得国の仲間入りを果たす。
【対策&内容】
⑴次世代ターゲット産業の育成
⑵デジタル経済の構築
主にこの2本柱で構成されています。具体的な内容を深掘りする前に、もう少し「タイランド4.0」の概要を見てみます。
まず、「タイランド4.0」の「4.0」は何を意味しているのか、ここが意外と気になっていると思いますので、説明を。
คำอธิบายเบื้องต้นที่ขยายความให้เห็นภาพได้บ้างก็คือ ประเทศไทยในอดีตที่ผ่านมามีการพัฒนาเศรษฐกิจอย่างต่อเนื่อง ตั้งแต่โมเดล “ประเทศไทย 1.0” ที่เน้นภาคการเกษตร ไปสู่ “ประเทศไทย 2.0” ที่เน้นอุตสาหกรรมเบา และก้าวสู่โมเดลปัจจุบัน “ประเทศไทย 3.0” ที่เน้นอุตสาหกรรมหนัก
タイ語の記事から持ってきました。要約すると、これまでのタイ経済の発展を3段階に分割すると、①農村経済→②軽工業→③重工業になるということです。
現時点では、3.0の重工業(自動車輸出など)であるが、この「タイランド4.0」は、さらに次のステップへ移行することを目指しています。
“ประเทศไทย 4.0” เป็นความมุ่งมั่นของนายกรัฐมนตรี ที่ต้องการปรับเปลี่ยนโครงสร้างเศรษฐกิจ ไปสู่ “Value–Based Economy” หรือ “เศรษฐกิจที่ขับเคลื่อนด้วยนวัตกรรม” กล่าวคือ ในปัจจุบัน เรายังติดอยู่ในโมเดลเศรษฐกิจแบบ “ทำมาก ได้น้อย” เราต้องการปรับเปลี่ยนเป็น “ทำน้อย ได้มาก”
「4.0」は、付加価値の高い経済を意味しているようです。「イノベーション」、「生産性」、「サービス」が重要なキーワードになってきます。
それでは、具体的な政策内容を見てみましょう。
⑴次世代ターゲット産業の育成に関してですが、具体的には10業種あります。
⑴次世代型自動車
⑵スマート・エレクトロニクス
⑶医療・健康ツーリズム
⑷農業とバイオテクノロジー
⑸未来食品
⑹ロボット産業
⑺物流と航空産業
⑻バイオ燃料とバイオケミカル
⑼デジタル産業
⑽医療ハブとなる産業
以上が具体的な産業です。この10業種を成長路線の主軸に置いて、タイは20年後に高所得国入りを果たそうと考えています。
この10業種はさらに細かく分けることができます。⑴から⑸の産業はこれまでもタイが強みを持って推進していた既存の産業です。一方で、⑹から⑽は、今後タイとして成長させたい未来型の産業に当たります。
タイはこれまでも競争力のあった産業で確実に成長を遂げつつ、未来型産業の育成を図ろうとしていることが読み取れます。
次に、⑵デジタル経済の構築について見てみましょう。
これは少し捉えにくい言葉かもしれません。僕も正直、文献をちゃんと読んでもあんまりイメージできてません(笑)
簡単に言うと、みんながインターネット使えたらもっと便利な社会になるよね!!って感じです。
タイに行けば分かりますが、タイ人のスマホ利用者はかなり多いです。2016年には、50%以上がスマホ利用者だそうです。
この数字がもっと増加すれば、タイ国内でほとんどの人がよりインターネットを手軽に利用できるようになるはずです。
インターネットを使えることがどうメリットになるのか、、、。
それは、スマホなどの電子マネー等の発展でこれまで経済社会から切り離されてきた人達が、デジタル・デバイドを克服し、簡単に言えば豊かになれることを意味しています。
タイではまだイマイチの普及ですが、グラブやウーバー(東南アジア事業はグラブに買収されましたが)もその一部です。スマホを通してタクシー業で金儲けもできます。
こういった分野では、多くのスタートアップが誕生しやすい事実もあります。さらなる進化が望める分野ですね。
タイ政府はこのようなデジタル社会をもっと成長させたいと考えているようです。
③政策実現性
これまで簡単にですが、タイランド4.0の概要をまとめてきました。さらに詳しい内容を知りたい人はぜひ最後の参考文献を読んでください。
で、最後にこの政策の実現性について考えてみたいと思います。
私見ですが、今回の政策はこれまでの政策よりは実現性は高いと思っています。なぜそう言えるのかというと、今回の政策は従来よりも制度的にしっかりと考えて設定されているからです。
これまでタイは、国家経済社会開発庁(NESDB)が5年ごとに、「第〇次国家経済社会開発計画」というかたちで長期的な開発計画を設定してきました。
ですが、今回のこの政策は「20ヵ年国家戦略」として、従来の開発計画よりも上位の政策として法律で定められています。
さらに、実現性を高めるであろう要因が、
この国家戦略は今後20年は、総選挙によって政権が替わっても、タイの国家目標として法的に担保されている点です。
つまり、タイのお家芸であるクーデターが起きて政権が替わっても、この政策は実行し続けなければいけないということです。
これらの点から、僕はそれなりの実現性があるのではという考えに至っています。
日本語の文献だけだと、どうも情報が2次情報になりかねないと思い、実際にタイの商務省次官のインタビュー記事があったので、簡単にまとめときます。
“ประเทศไทย 4.0” จึงเป็นการถักทอเชื่อมโยงเทคโนโลยีหลักที่ต้นน้ำ เพื่อสร้างความแข็งแกร่งให้กับอุตสาหกรรมเป้าหมายที่อยู่กลางน้ำ และ Startups ต่างๆที่อยู่ปลายน้ำ โดยใช้พลัง “ประชารัฐ” ในการขับเคลื่อน ผู้มีส่วนร่วมหลักจะประกอบด้วยภาคเอกชน ภาคการเงิน การธนาคาร มหาวิทยาลัย และสถาบันวิจัยต่างๆ โดยเน้นตามความถนัดและจุดเด่นของแต่ละองค์กร และมีภาครัฐเป็นตัวสนับสนุน
“ประชารัฐ”が重要なキーワードですね。少し難しい単語です。訳すとすれば、「国民国家」ですが、ニュアンスとしては、「国家」と「国民」が全体で協力した一体感のある状態です。
この発言の通り、民間・金融・銀行・大学・諸機関がそれぞれの得意分野を活かしつつ、それを国家が支援する体制をイメージしているようです。
今回の国家戦略はどうやら本気で達成したいと考えているようです。ただ、これまでのタイ政治を振り返ってみると、幾度となく憲法が破棄され、新たな憲法が誕生してきました。そう考えると、この政策の実現性を高く見積もることは危険な気がしますが、少なくとも制度的には政府の本気度が伝わってきます。
長くなりましたが、今回はここで終了です。まだまだまとめるのが上手くありませんが、読んで頂きありがとうございました。
下に、今回の参考文献を載せておきます。詳しい情報が見たい方はぜひ!
【参考文献】
「タイランド4.0」(前編) 大泉啓一郎
「タイランド4.0」(後編) 大泉啓一郎
「中所得国の罠」の克服ー「タイランド4.0」とタイ大企業の対応能力
大泉啓一郎さんは、日本総研の研究員です。主にタイの経済に関する情報を発信しています。
末廣昭さんは、タイの経済と言ったらこの人!って感じです。自分が所属するゼミでもよく末廣さんの論文を扱います。
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