「令和の米騒動」に思うこと
「スーパーに米がない!」
「あっても高い!!」
「ついにパンまで品薄!!!」
昨今はSNSでもリアルの世界でも、そんな人々の悲痛な声で溢れていました。皆さんのなかにも、お米の調達に苦戦していたご家庭があったかもしれません。世間でいわれる「令和の米騒動」は農家さんにとっても前代未聞の事態だったようで、四方八方から問合せが殺到していたそうです。
2018年から福井県美浜町産のお米の定期配送サービス「みはま毎月便」を提供してきた私にとっても、まったく初めての経験でした。
「コメがないって本当の話なの…?」
美浜町の提携農家さんのおかげで発注どおりの納品をいただいていた私は当初、世間の騒ぎを疑いの目で見ていました。
ところが、8月末になって妹夫婦のLINEが飛んできたことで、初めてそのリアルを知ったのです。
え…。本当にないワケ?
ネットならさすがに買えるんじゃないかとAmazonで検索すると、確かに「一時在庫切れ」のオンパレード。8月25日時点で、お届け予定が早くて9月、ほとんどが10月以降になっていたのです!
ひとまず妹夫婦には、ちょうど来月の発注連絡をしていた提携農家の若野さんにお願いし、すぐに精米5㎏を送ってもらいました。
いったいコメの流通に、何が起きているんだ…?
興味を抱いた私は、ようやく自分で調べてみることにしました。
要因1:主食用の「ふるい下米」の量が減った結果、連鎖的に市場に出回るコメが減った
「ふるい下米」とは、玄米の用途を選別するために「ふるい」から落ちた米のこと。農家さんの間では「くず米」と呼ばれるそうです。ふるいの穴のサイズは1.7~2.0㎜ほどで、販売目的の違いや品種、作況などの条件により変わるそうです。
ふるいに残った米が主食用。さらに、落ちた米のなかでもサイズによって主食用(業務用)や加工食品用などに振り分けられます。今回、市場に出回るコメが減った要因の一つは、この「ふるい下米」のなかでも、主食用のコメの量が例年よりも少なかったことにあるようです。主食用の「ふるい下米(=安価米)は通常、自衛隊や病院、役所の食堂などに使われるのですが、今年は安価米の量が足りなかったことで、上記のような機関が、通常よりも上のランクのコメを買うことになりました。結果的に、その後の流通に乗るスーパーの棚に並ぶはずだったコメが連鎖的に減ってしまったのです。
※「ふるい下米」の量が例年より減った要因の一つは、猛暑と渇水による稲の分けつ不足だと言われていますが、長くなるため今回は割愛します。
要因2:外食需要の増加や巨大地震への備蓄需要の急増
要因1により市場に出回る主食用のコメが減ったところへ、インバウンドによる外食の需要増に加え、南海トラフ巨大地震の注意喚起により、備蓄のためにコメを買い求める人が全国的に急増したことが重なりました。さらに、メディアが「米騒動」を煽るので、手に入るうちにコメを買っておこうという心理が人々に作用します。その結果、新米の収穫までのコメが一時的に品薄になってしまったのです。
そもそもの要因は国の減反政策にあるという指摘も
日本では戦後、50年以上も減反政策(コメ農家が休耕や転作をすれば国が補助金を出す仕組み)を継続してきました。減反政策はコメの消費量の減少を受け、国が生産量を調整するために始めた政策です(2018年に廃止されていますが、コメから転作する農家には補助金の支給を継続しており、主食用米の生産量を絞る仕組みを残しています)。農家の高齢化も相まって、この間に離農や農地転用(都市部の農地を工場や住宅にすること)が進み、コメの生産量は減少の一途を辿ってきました。減反政策が始まった1970年、日本のコメの生産量は1,253万トンでしたが、2020年には776万トンになり、約50年で4割以上減少しています。
「令和の米騒動」を通じて私が思うこと
コメの生産・流通の課題には、国の政策や人口減少、生産者の高齢化をはじめ、構造的な要因が複雑に絡み合っているようです。
私たち消費者は、コメが手に入らなければ生活に困ります。一方で、生産者も私たちと同様に一人の生活者であり、稲作によって生計が成り立たなければ困るのです。離農や転作が進んだ要因の一つには、農作業の重労働やコロナ禍による需要の激減、資材の高騰など、米作りをとりまく状況に対して、農家さんの収入が見合わないことが挙げられるようです。もちろん、個々の生産者の規模や就農形態にもよりますが、平均的な農家の農業所得は年間125万円とも言われています。時給に換算すると、わずか数十円から数百円になることも。これ自体、構造的な問題によるところが非常に大きいのですが…。
さて、「令和の米騒動」を通じて私たちが直面したのは、お金があるからといって、農産物が必ずしも手に入るわけではないという事実です。
スーパーに行けば、米や野菜、魚など、いつでも欲しいモノが手に入る。それは私たちにとって当たり前の日常になっていますが、その先には必ず産地があり、生産者をはじめ梱包・配送、販売に関わる多くの人々の働きがあって、初めて私たちの食卓へ届くのですよね。これは私自身、食の生産や流通の現場に少なからず関わったことで、初めて実感したことでした。
たとえば、地方の食材を活かした産直のイベントを東京で企画した際のこと。イベントに向け、欲しい魚を発注しても、海が時化ていたら漁に出られず、当日の納品は果たされない。そもそも発注どおりの魚種や数は獲れないかもしれない。自然を相手にしている以上、考えれば当たり前のことなのですが、スーパーに行けば何でも手に入る、ボタン一つで自宅に商品が届く生活に慣れ切った私には、衝撃の事実だったのです。
お米も同様、供給が足りないからといって急に増やすことはできません。田んぼはExcelのセルみたいに、クリックひとつでは増えないからね(笑)
私たちが今後も、国産の美味しいお米を食べ続けたいと願うのなら、今回の一連の騒動を機に、消費者である私たち自身が日々の選択を変える必要があると感じています。だって、自分でお米を作らないのなら、他の誰かに作ってもらうしかありません。そのためには、農業を続けたい、農業を継ぎたい、新たに農業に参入したいと思う人が増えるような、持続可能な農業界、稼げる環境の実現を、消費者が変わることで推進していく必要があるからです。お米が安く手に入ることは、一見するとお得に感じるかもしれませんが、長期的には未来の自分たちの首を絞めることにも繋がるのです。これからは、一人でも多くの消費者が、ぜひとも産地や生産者と繋がりを持って欲しいと思います。そして、農家さんがしっかりと報われるような、適正な価格でお米を買う手段を選択していただきたいのです。
産地や生産者との繋がりを持つことは、顔も知らない誰かの安いお米を買えることのお得感よりも、ずっと大きな無形の豊かさが得られるものです。産地に足を運び、農家さんと一緒に農作業を一度でも経験すれば、その大変さを身にしみて実感することができます。そして、都会に帰った後も、田植えや稲刈りの季節には産地の情景や人々の姿に想いを馳せ、毎月お米が届くたびに、毎日お米を研ぐたびに、お米を炊くたびに、作ってくれた人、送り届けてくれた人やそのご家族の顔が思い浮かび、心から感謝が湧いてくるのです。それは慌ただしく通り過ぎていく私たちの日常において、ふと心を和ませてくれるような掛けがえのない豊かさになるはずです。
産地直送「みはま毎月便」に関するお知らせ
さて、9月の新米のタイミングより、福井県美浜町産の定期配送サービス「みはま毎月便」に、新たな生産者が仲間入りします♪
グランファーム株式会社、代表を務めるのは提携4農家のなかで30代、断トツ若手の鳥羽宏昇くんです!彼の前職は福井県美浜町役場 ブランド開拓課の職員。地元の農作物のブランド化支援や、首都圏への販路開拓支援を担ってきました。2023年に役場を辞めて独立し、生産者に転身。地元の若手メンバーと共に、稲作&糖度20度を超える白ねぎ「初恋」の作付に挑戦しています。
▼産地直送「みはま毎月便」へのお問合せはこちら
株式会社BRIDGE 代表取締役 新井美穂
aramiho@bridge-co.biz
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