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COVID-19が大学院生(いわゆる無給医)に与える影響

1.いわゆる無給医問題

 大学病院には、無給又は非常に低額な対価で患者の診療に従事する大学院生の医師(いわゆる無給医)がいます。

 大学院生といっても、ボリュームゾーンは、概ね医師免許取得後、5年目~10年目前後で、専門医を取得している医師もおり、1人で診療やオペを行い、後輩医師の指導をすることができ、外勤アルバイト先では相応の報酬が支払われている、中堅医師です。

 そのため、大学院生の診療は、研修や実習だから無給で良いということは当てはまらず、むしろ、大学院生が無給又は定額な給与で働くことで、大学病院の医療が維持される大学病院に必要な存在なのです。

 そのような大学院生は、大学病院と雇用契約が締結されていなかったり、締結されていても実態を反映していないものであったり、社会保険はもとより労災保険にすら加入していなかったり、非常に不安定な立場で診療業務に従事していました。

 大学院生は、大学からの給与では到底生活できないため、外の病院やクリニック(いわゆる外勤先)でアルバイトをして収入を得ています。

 今までは、大学病院から無給でも外勤先から収入を得ることができるため、家計を維持することができていました。


2.COVID-19が無給医に与える影響

 2020年4月初め、ご夫婦で大学院生という女性医師から、ご主人の大学院生である呼吸器内科の医師が、

✔大学からフルタイムの診療に従事するように指示されており、更にコロナ対策員に指名され積極的に対応しなければならない

✔感染リスクもある中で労災保険にも加入できない状況は何とかならないのか

という相談が、Twitter上で公開で寄せられました。

急遽、現役の大学院生を対象に、COVID-19が与える影響についてアンケートを実施しました。


約2日間で、46名もの大学院生に回答いただきました。以下、アンケート結果を紹介します。

3.COVID-19が大学院生に与えているアンケートの結果

1.現在の状況


1.現在の状況

65%が国立大学大学院生、23%が私立大学大学院生という結果でした。

2.雇用契約締結の有無

2.雇用契約締結の有無

雇用契約ありが60%、無しが40%でした。

3.大学病院の診療に従事する時間と給与

大学病院の診療に従事する時間と給与(対価)は、以下の回答が寄せられました。

・フルタイム勤務 月8万円(私立大学大学院生)
・フルタイム勤務 月6万円(国立大学大学院生)
・フルタイム勤務+当直月1~2回 月12000円(国立大学大学院生)
 ・週5外勤1.5コマ 月8万円
・週2勤務 0円
・フルタイム勤務+当直月8回+時間外込 月20万
・フルタイム勤務+当直月2回 月25万
・週4日 月25万
・病棟業務込みで 月2万円 
・時給1000円代・・・13名
・時給700円代・・・1名

9割以上の大学院生が大学病院の診療に従事していました。

月の給与の最低額は0円、最高でも月25万円でした。

時給の最低額は、700円代、最高額は、1800円代でした。

アンケートで、大学病院の診療業務に従事していないと回答したのは、46名中、3名でした。そのうち、1名は、医局に属さずに基礎系の研究室に所属しているとのことです。

4.COVID-19の診療の従事の有無

コロナ診療に従事するように命じられましたか?

半数の大学院生がCOVID-19の診療に従事するよう命じられていました。

意外だったのは、87%の大学院生が自身の専門外でありながら、COVID-19の診療に従事するよう命じられていました。

5.COVID-19の外勤バイトへの影響

✔全ての外勤がキャンセル、補償無し(3名)

✔一部外勤がキャンセル、補償無し(18名)

✔現時点(4/17、18)では、影響は無い(23名)

 全ての外勤がキャンセルになり、補償の無い大学院生が既に3名いました。その内、1名は、月1万円代の大学病院からの給与で、専門外のCOVID-19の診療に従事しているそうです。

 一部の外勤がキャンセルになった大学院生の中には、

・3つの外勤先のうち2つが休業し、休業補償は無い
・県外のバイトが全てキャンセルになった、休業補償は無い
・半分のバイトがキャンセルになった、休業補償は無い

 外勤への影響は、ばらつきがあるものの、共通しているのが「休業補償が無い」という点です。

 

現時点で、影響は無いと回答した大学院生からも、

 ・同じ診療科の同僚が外勤キャンセルになったので自分もキャンセルになるかもしれない
 ・今後キャンセルになる可能性があり、その時は補償も無い
 ・他科ではキャンセルになった
 ・県外への外勤禁止が検討されている
 ・緊急事態宣言が発令されたら禁止になる

 といった、今後は外勤が出来なくなるかもしれないという心配の声が寄せられました

 ほとんどの大学院生は、外勤アルバイトで生活に必要な収入を得ていますので、この外勤アルバイトがキャンセルとなり、休業補償が無いということは、生活に直結する問題となってしまいます。

6.COVID-19の診療に大学院生が従事するよう明示されること、その他無給医問題について思うことなど

・独身の大学院生が各科から3人程COVIT班に招集されて、発熱外来及びCOVIT患者の入院担当医を命じられている。住居のみ大学が用意し、有事の労災は認定するとのこと。手当があるとはいえ、院生として授業料を支払いながら、外勤を停止されてCOVIT診療に専従している。拒否できる雰囲気は無かった。
・健康保険、年金、労災保険、雇用保険全て契約してくれていません。無保険で、月10万円でこのような危険業務は酷すぎます。
・無給医は絶対に改善すべき問題だが、声を上げると不利益が出るので皆見て見ぬ振りをしてきた。そして今まではバイトもできるので収入も確保できていた。もし自分が無給医のままバイトをキャンセルされCOVID-19診療を命じられるなら家族を養えなくなるため医局をやめると思う。同じような考えの人も多く、大学病院が給料を払わなければ数多くの医局が崩壊すると思う。
・今回の災禍で無給医問題が露わになった。大学病院は大学院生がいないと診療できない。
・大学院生のみならず、常勤職員の枠が少ないため、大学病院の多くの医師は非常勤雇用。一年毎の更新のため、福利厚生やボーナスのない日雇い。
・働いた分の給与を出すか、毎日研究させてほしい。
・そもそもの給与が低い、昇給なし、ボーナスなし。臨床を週5日やって、研究する時間はないのに、成果を出せと言われる。毎月のように学会があって、交通費以外全て自腹。勉強会が毎週のようにあって、講師の先生の接待があり、時間も金も奪われている。医局都合で転勤になるのに、退職金なし、引越し手当なし、勤続一年に満たないから、産休、育休なし。もとがこの状態なのに、外勤禁止になったら、おそらく20万くらい毎月赤字になる。退職金などがないから、コロナで死んでも、家族には、殆ど補償は無い。
・正直これを機にやめようかと思う
・学位取得を盾に、研究以外のことに従事させられるのはかわいそうに思います。そうならないために、自分は医局に属さず、基礎系の研究室で大学院生をしています。
・無給医でコロナ最前線に立つ方々にきちんと手当てをつけて欲しい。
そもそも大学病院の給料が安すぎることと、無給医という制度が狂っている。
 院生じゃなくても、医師現在12年目の助教という立場だが手取りの給料は20万ぐらい。
 外勤がなくなればかなりきつい。(外勤当直もあるので、実際は月15ぐらい当直)
 嫌なら大学を辞めろと思われそうだが、あまりに田舎だと医局に所属していないと働かことができる病院がないのが現実です。
・使い捨ての駒と思う
・コロナ対応のため常勤医が忙しくなり、その一般病棟業務を補うために駆り出されるようになった。薄給ではあるが、皆が忙しいので仕方ないのかもしれない。もとから給料は大学に期待していないので、これで新型コロナ感染症関連の業務にあてられても気にせず行うと思う。
・若手が動員されているのでむしろ大学院生がメインの戦力になっている。雇用契約なく労災も出ず、外勤を切られると月給13万円程度。ひどいです。コロナ部隊に選ばれることを赤紙と呼んでいます。
・産休中ですが、雇用契約なく私学共済も任意継続なため、フルタイム勤務をしていたのに休んでいる間は完全に収入なし。授業も受けていないのに学費は通常通り払わねばいけません。(休学しても学費は毎年かかる)
乳児がいるのでコロナは怖いが、早く復帰しないと家賃が払えなくなってしまう。
・自分のところは他の科はわかりませんが、無給医は従事させられてないです。でも外勤禁止になるということは無給医にかかわらず正規職員もみなかなりの薄給になるということなのでそこもスポットを当ててほしい。
・働くなら、労災は最低限保証してほしい。勤務時間に応じた最低限の給与もないと、危険を冒してまで診療するのはやってけない。
・無給医問題は、不満を言い出しにくい大学院生の立場を利用した制度で、改善が必要。また、建前上は「自己研鑽のため給与の受け取りを辞退する」ということになっていすが、それなりの臨床経験があり外病院では専門外来診療を行っている者や、既に専門医資格を有している者も多く、辻褄の合わない状況だと思う。
・COVID-19の診療については、通常診療と比べても、病院事情で診療に従事させられている側面がより強くあり、大学院生を無給医状態で担当させている現状は、大学院生の人権を著しく侵害していると思う。
・労働力の搾取だと思う。
・大学院は次のなんらかの医療災害に備えて診療ではなく本来の研究に専念すべき。
・専門科で人員不足なので、不可避だとは思います。
しかし薄給で、いつ外勤を切られるかもわからない状況です。授業料は払いますが、本業の研究は施設閉鎖でストップしています。
原則週2日のアシスタント契約をしておきながら、40時間分フルタイムのシフトがしっかり組まれていて、雇用保険には加入できていないことにもモヤモヤします。
・やむをえないと思っている。当院は、雇用契約を結んでいない大学院生とも契約を結んでから働かせるとのことで、そこは安心している。何時間分の給料が出るのかはわからないが、少なくとも労災適用にはなるとのことでした。
・科による不公平感が強い。どっちにしろ専門外なのに、あからさまに診療に関わろうとしない科がある。
・スタッフの感染で診療停止し雇用契約がない大学院生が研究全てをストップし病棟を回している科があり非常に問題と考えています
・使命感はあるので診療は構わないが、十分な防護具の確保と、専門外医師への指導、外勤に行けなくなる分の給与補填くらいはして欲しいです。
・大学院に入ったことを後悔している。外勤禁止になったら家族を養えない、医局が急や面でカバーしてくれるとは到底思えない。医局を介さないバイト(闇バイトと呼ばれている)に手を出したいが闇バイトもコロナで減っている。困った。
・バイトしなくても大学病院の給料だけて暮らしていけるようにしてほしい。
・労働契約があれば仕方ないと思うが、そのせいで外勤がキャンセルになった場合、生活が厳しくなる。当大学ではCOVID-19患者の入院担当になった場合は手当てが出ることとなった。ただし、外来で診察しただけの場合は手当てなし。
・無給医全般の話としては、当科は病棟担当を外れる期間が2年ほどあり、その間は外来や検査部などの比較的業務の少ない勤務で給与が出るため(週4勤務扱いになるが)まだ良心的な方だと思う。
・専門外であるが、医師の責務として、自分が指名されれば診療に従事しようと考えている。無給医はダメです、そういう時代では無い。

4.最後に

そもそも、大学院生の医師は学費を納めて研究に従事するために大学に所属しています。本来研究が本業であるはずの大学院生の医師が薄給かつ雇用契約が無いなどの不安定な身分で大学病院の診療を支えていました。

今般のCOVID-19により、4月17、18日時点で、アンケートに回答した半数の大学院生がCOVID-19の診療に従事していました。病院が労災保険に加入していないため万一感染したときの補償が受けられるのか不安なまま、従事している医師もいます。

また、大学院生の医師は、外勤先からの収入で生計を立てていましたが、COVID-19の影響により外勤がキャンセルになり補償も無いなど収入にも影響が既に出ています。外勤先からの収入が途絶えれば、家計が赤字になってしまうという大学院生もいました。

大学院生をCOVID-19の診療に従事させることがやむを得ないとしても、

COVID-19の診療に従事する期間を設けること

最低限、雇用契約の締結、労災保険へ加入し、(条件を満たせば)社会保険への加入をしたうえで、

更に危険手当の支払い

をしてほしいと思います。

そして、大学院生の本業は研究なので、COVID-19の診療に従事した後は、研究に専念するための期間を設けてほしいと思います。

また、外勤先も休業手当の支払いをしてほしいと思います。

メディアもCOVID-19の診療に無給又は薄給でリスクを負いながら、感染しても補償が受けられないかもしれないという不安を抱えて従事している大学病院の医師の存在を取り上げてほしいです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。


 

 

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あらきん*弁護士
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