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シナリオの見本品(2020/5/27版)

【文字数:約三二〇〇 初稿:二〇二〇/四/一二】

 この記事ではシナリオ形式の見本を掲載いたしますので、シナリオをご注文の際の参考にしてください。なお、見本品の文体や内容は比較的に重厚ですが、文体は柔軟に変更可能ですので、発注の際にはご希望の文体をご指定ください。

 さて、まずは、今回の見本制作のために使用する原典を以下に示します。一から独自のシナリオを作成する際にはこの部分があらすじまたはプロットになります。

原典:『故老諸談(ころうしょだん)』[*]
 家康の側室であったお梶の方(英勝院)は、家康の五女市姫の母で水戸徳川家の祖・頼房の養母です。あるとき家康が大久保忠世や本多正信・鳥居元忠・平岩親吉ら家臣と昔の合戦を語っていたところ、突然家康が「この世で一番美昧いものは何か」と尋ねます。家臣たちが色々と答える中、家康が側で笑っていたお梶の方にも尋ねたところ、「それは塩であり、塩がなければどのような料理も昧を調えられず、おいしくできません」と答えます。さらに家康は「では一番まずいものは何か」と尋ねたところ、「それも塩であり、どんなに美味しいものでも、塩を入れすぎたら、食べることができません」と答えたと言います。家康はこれを聞き、「男子であれば良い大将として活躍するのに惜しいことだ」と嘆いたと言われています。

  ***

 なお、この逸話は時期が不明ですが、西暦一五八四年に死去した大久保忠世が居るため、それより前の話だと分かります。また、お梶の方が家康に仕え始めたのは十三歳つまり西暦一五九一年とも言われているので、今回の逸話はその間に起こった話だと見なせます。今回の原稿では仮にお梶の方十五歳の時の話と見なします。

 さて、これを基にして題名と登場人物の設定を行います。

 ***

『この世で最も美味き物、不味き物』

<登場人物>
〇お梶の方(女・十五歳)
 主人公。徳川家康の側室。出自は明らかでは無いが、一説によると、関東名門武家の出身であり、名将太田道灌の血を引いているとも言われる。聡明かつ勇敢であり徳川家康に寵愛される。後に関ヶ原の戦いにも参陣する。

〇徳川家康(男・五十歳)
 徳川家当主。後の徳川幕府創始者。

〇大久保忠世(男・六一歳)
 徳川家家臣。抜群の勇将。

〇本多正信(男・五五歳)
 徳川家家臣。家康と水魚の交わりを結ぶ知恵袋。

〇鳥居元忠(男・五四歳)
 徳川家家臣。幼い頃より家康に従う勇将。

〇平岩親吉(男・五一歳)
 徳川家家臣。幼い頃より家康に従う忠臣。

  ***

 納品する原稿の冒頭には以上のような説明文が入ります。その後、本文に入ります。本文はシナリオの制式作法に則って作成いたします。なお、漫画やそれに準じる作品の原作シナリオを担当する場合には、特に指定が無いならば、会話の配分をかなり多めにし、その分量を極力短くいたします。なぜなら、漫画は吹き出しの中に入る程度の短い台詞を大量に表現する媒体だからです。

 では、以下に実例を示します。

  ***

通常のシナリオ形式:
〇江戸城
  台地の上へ建てられた素朴な木造の屋敷群(幕府成立前なため質素)。

〇同・大広間
  上座には徳川家康が座っている。その傍にはお梶の方が控えている。
  下座には家康譜代の家臣が脇に並んでいるが、堅苦しい感じでは無い。
元忠「家康様は烈々たるご気性であらせられる故、
 合戦ともなれば、興奮のあまり馬の鞍を、
 こう、指の節で強くお叩きあそばされますので(指の節で叩くしぐさ)、
 今ではすっかり膨れておいでで」
  家康は鷹揚に笑う。
家康「そうだ。(自分の拳を掲げる)これぞわしの武士としての証よ。
 (表情を引き締め)我が将兵が干戈《かんか》を交えて
 我が身を傷付けておる時、
 わしは代わりに己が拳を鞍へ打ち付ける事で、
 皆の痛みを我が物として分かち合っておるのだ」
忠世「殿はあっぱれ武士の鑑ですなあ!」
  一同大いに同意。家康も頷くが、急に話を転じる。
家康「して、皆の衆、ひとつ訊きたい事が有る。
 この世で一番美味い物は何か」
  一同憮然とするが、すぐに忠世が応じる。
忠世「むろん三河の赤味噌。三河武士の命にござる」
元忠「究極の美味と申すならば鯉でござらんか。
 生身の鯉は仙女の肉の如し」
親吉「鶏肉も良いぞ。鴨はいかがか。
 鍋にして食せば寿命が五年は延びましょう」
正信「水、ですかな。味が無いのが最高の味。
 心が水の如く透き通ればこそ、
 人生の妙味をとくと味わう事が出来るものでございましょう」
  家康は頷いた後、傍に座って笑っているお梶の方を見やる。
家康「お梶よ。お主はどう思うかな。この世で最も美味しものは何ぞや」
お梶「(恭しくも凛として)それは塩です。
 塩がなければどのような料理も昧を調えられず、おいしくできません」
  お梶の機敏かつ的を得た解答に一同感心の様子。
  家康も嬉しそうに何度も頷く。
家康「もっともな答えだ。では一番まずいものは何か」
  彼女はその問い掛けにも間髪入れず答える。
お梶「それも塩です。どんなに美味しいものでも、
 塩を入れすぎたら、食べることができません」
  この聡明な回答には一同深く心服したように声を漏らす。
  特に家康は膝を叩いて悔しがる。
家康「見事だ、お梶。それほどの智恵と胆力があれば、
 男子であれば良い大将として活躍するのに惜しいことだ」[了]

  ***

 これが漫画的な用途のシナリオであれば台詞を最小限に抑えます。

  ***

漫画的なシナリオ形式:
〇江戸城
  台地の上へ建てられた素朴な木造の屋敷群。

〇同・大広間
  上座には徳川家康が座っている。その傍にはお梶の方が控えている。
  下座には家康譜代の家臣が脇に並んでいるが、堅苦しい感じでは無い。
元忠「家康様は合戦では馬の鞍を、指の節で強く叩くので、
 今ではすっかり膨れておいでで」
  家康は鷹揚に笑う。そして、自分の拳を掲げて表情を引き締める。
家康「皆が戦う時、わしは己が拳を打ち、
 皆の痛みを我が物として分かち合う」
忠世「殿は武士の鑑ですな」
  一同大いに同意。家康も頷くが、急に話を転じる。
家康「皆の衆、訊きたい事が有る。
 この世で一番美味い物は何か」
  一同憮然とするが、すぐに忠世が応じる。
忠世「三河の赤味噌」
元忠「鯉でござらんか」
親吉「鴨の肉はいかがか」
正信「水、ですかな。味が無いのが最高の味」
  家康は頷いた後、傍に座って笑っている女性を見やる。
家康「お梶よ。お主はどう思うか」
お梶「(恭しくも凛として)それは塩です。
 塩がなければどのような料理も昧を調えられず、おいしくできません」
  お梶の機敏かつ的を得た解答に一同感心の様子。
  家康も嬉しそうに何度も頷く。
家康「では一番まずいものは何か」
  彼女はその問い掛けにも間髪入れずに答える。
お梶「それも塩です。どんなに美味しいものでも、
 塩を入れすぎたら食べることができません」
  この聡明な回答には一同深く心服したように声を漏らす。
  特に家康は膝を叩いて悔しがる。
家康「見事だ。お主が男子であれば
 良い大将として活躍するのに惜しいことだ」[了]

  ***

[注]
*:http://www.archives.go.jp/exhibition/digital/ieyasu/contents8_03/

[主要参考文献]
 新井一著『シナリオ作法論集 ~発想・構成・描写の基礎トレーニング~』(映人社、2004年)
 柏田道夫著『シナリオの書き方 ~映画・TV・コミックからゲームまでの創作実践講座~』(映人社、2005年)
 岡谷繁実著、北小路健・中澤惠子訳『名将言行録 現代語訳』(講談社学術文庫、2013年)

[使用画像]写真AC ohsaka(ID:2904488)

[更新履歴]*微調整のみの更新除く
2020/4/19:推理系シナリオの小説原稿の公開内容を冒頭のみに変更
4/22:推理系シナリオにおけるプロットの説明を変更。脱字などの修正
4/23:小説の見本品の項目を一部削除
2020/4/19:推理系シナリオの小説原稿の公開内容を冒頭のみに変更
4/22:推理系シナリオにおけるプロットの説明を変更。脱字などの修正
4/23:小説の見本品の項目を一部削除
4/25:推理系シナリオの見本品を削除
5/2:推理系シナリオの見本品を復活
5/4:推理系の小説へのリンクを削除等
5/6:推理系シナリオの見本品を削除
5/12:推理系見本を復活
5/17:推理系小説のリンクを変更
5/27:推理系の項目を削除。他微調整

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